長編12
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出来る子と、出来る事…

ある年の夏休み、私達は、家族で海水浴に出かけました。

父と母、私と妹、そしてばあちゃん。

母とばあちゃんが作ったお弁当を持ち、

父の運転で、隣の県にある海に遊びに行くまで、

車で2時間…。

すでに、服の下に水着を仕込んだ妹は、到着が待ちきれず、

当時、セダン車だったうちの車の後部座席で、

浮き輪を膨らまし、

狭くなった後部座席で、さらに浮き輪を付けると怒り出し…、

途中で、父が、

「もう家に帰る!!」と怒り出したのを、

なんとか母がなだめ、妹からは浮き輪を取り上げ、

泣きわめく妹の頭をばあちゃんは無理やり自分の膝に押し付け、散々な思いで、到着したのは、朝の10時を少し回った頃でした。

すでにクタクタな思いでたどり着きましたが、

駐車場にまで、薄く聞こえる波音に、

疲れは消えて、

出発時のウキウキした気持ちが戻ってきました。

妹も、泣きわめいて、そのまま寝ていたので、

起きた時には目の前に海がある状況に、

まるで、初めて海を見たような顔をして、

「お姉ちゃん!早く行こう!」と

私の手を引っ張りました。

普段は、憎たらしく可愛げのない妹も、

ニコニコ笑って、私の手を取り、

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と呼ぶ姿を見ると、

とても可愛く、たくさん遊んであげよう、と思いました。

海の家を決めて、陣取り、

母とばあちゃんが見守る中、私と妹はラジオ体操をして体をほぐし、父はそれをビデオに収めていました。

「もう、良い〜?」

大きな声で、至近距離でビデオを回す父に、妹は言いました。

「行ってこいよ。ちゃんと、泳いで、遊んで来い!」と、

答え、

妹は、まだ最後の深呼吸をしている私の手を掴み、

「早く行こう!」と、走り出しました。

よろけながら波間にたどり着くと、妹は水温を確認することもなく、

バシャバシャバシャッ!と、派手な音を立てて海に入っていきます。

私は、波間で水を確かめて、妹の後を追って泳いで行きました。

遠浅で、かなり奥の方まで、子供だけで泳いで行ってる子達もいて、

妹も私も、遊泳区域のブイのある所まで泳ごうと、

2人並んで泳ぎだしました。

ところが、途中で妹が、

「疲れた。」と言い出したのです。

そりゃそうです。海の中を、ずっとクロールで泳いでいるんですもの。

「だから、平泳ぎで泳げって言ったじゃないの。」

私は、呆れ顔で、妹を見ました。

「私は、平泳ぎ出来ないもん。」と言いながら、

とにかく近くにある、真ん中のブイまで泳ごうというので、

犬かきで泳ぐ妹の後ろを、私はついて行きました。

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真ん中のブイまでついて、そこにしがみ付いた妹が、

私に、

「お姉ちゃん、浮き輪を取ってきて?私、ここで待ってるから。」と言い出しました。

私は、はい?となり、

「ダメ!遠浅でも、私達は、今、足、つかないでしょ?

一回帰ろう?お父さんともう一回、ここまでくれば良いじゃない。」

そういう私に、妹は頑として、

「私は疲れた!泳ぎたくない!でも、1番奥のブイまで行きたい!でももう、しんどい!帰るのもしんどい!

浮き輪を取ってきて!ここにいて待ってるから!」

と言って聞きません。

おまけに、

どう疲れてるんだ?と、聞きたくなるくらいの大声…。

今日会ったきり、次は二度と会う事もないであろう人達に、好奇の目でずっと見つめられて、私は堪らなく恥ずかしくなりました。

どうにかしないと…。

ふと、少し横に泳ぐと辿りつけるであろう、岩場に目が行きました。

いえ、今思えば、戻るのも、奥まで行くのも、岩場に行くのも、どれも似たり寄ったりの距離だったようにも思います。

それでも、いくら憎たらしいことを言う妹でも、

海の真ん中に置いていくよりは、マシなように思えて、

「ねえ、どうせならあそこで、カニとか小魚いないか、探して待ってたらどう?」と、

言ってみました。

妹は、少し、キョロキョロし、距離を測っているかのように見えましたが、

「そうだね。楽しそうだから、行ってみる。

送って?」と言われ、私はまた、犬かきで泳いでは休み、泳いでは休む妹の後ろを平泳ぎでついて行き、

岩場の上の方で遊んでいてねと言い、

送り届けた後、クロールで戻って、浮き輪を持ち、

1人で戻った私に、

「あの子は?」と母が聞き、

浮き輪がないとダメだって、岩場にいる、とだけ答え、

手を振ってまた、海に引き返します。

「じっとしててよ!どこにも行ってないでよ!」

そう思いながら、岩場を確認すると、

妹は、さっき送り届けたところから動いた様子がなく、

ずっとしゃがんで何かを見ているようでした。

近づくにつれ、

足元の生き物を見ているのでなく、

身を乗り出すような格好で、

海の中を見ているようでした。

「岩場、足が痛かったかな。」などと思った私は、

たくさん家族連れがいる岩場に、1人にしてしまったことを、やはり可哀想に思って、

「あの子も、やっぱり、こんなとこで1人じゃ、嫌なんだよね。」と思い、安心させてやろうと、

「おーい!おーい!」と

呼びかけました。

何度目かの呼びかけで、私に気づいた妹は、

「あっ!お姉ちゃん!早く、早く来て!」と

嬉しそうに手を振ります。

やっぱり、寂しかったんだ。

可愛いとこもあるじゃないか。

そう思いながら、私は、へとへとになりながら、ようやく妹の元にたどり着きました。

妹は、すぐさま、海に飛び込もうとしましたが、私は、

「待って!少し休憩ッ!」と言い、岩場に上がりました。

あちこちに、フジツボや亀の手などがおり、ケガしないように上がっていると、

妹が手を出してくれました。

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「ありがとう。」

いつもの妹には見られない行動に、私は一瞬、ドキッとしながらそう言い、

浮き輪を妹に渡してやりました。

私は、海を遊泳区間の半分とはいえ、往復した事に、

息が切れ、しばらくはここにいたいなぁ、ここで気をつけながら、カニとか小魚、見て回ろうかななどと思っていました。

妹は、ずっと、海の中を覗き込んでいます。

ねえ、

そう声をかけようとした時、

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ザバンッ!

妹は、私の真横で、すくっと立ち上がったかと思うと、頭から海に飛び込んでいきました。

「ちょっと!」

ビックリした私が、海を覗き込むと、

妹は、足を動かし、下の方に行ってしまいます。

とっさの事に、落ちたのか、飛び込んだのかわからなかった私は、

妹に続いて、海に飛び込みました。

岩場に当たる波が、砕けて、小さな泡になり、私の顔や体にぶつかってきます。

比較的、穏やか波とはいえ、

当時、小学生だった私と妹の体は、

岩場に打ち付けられそうになります。

岩の、怪我をしなさそうなところに、手を添えて、

踏ん張りながら潜って行くと、

妹が、私を見上げました。

妹は、目的の場所にたどり着いたのか、

そこに、片手と片足を踏ん張るようにして、私に

こっちこっちとそばに来るように、手招きしました。

上を見て、水面を確認すると、

大人1人が私達の上に立てるくらいの深さはあるんじゃないの?と思える位の位置でした。

私は、妹の手を掴み、上に上がろうとしましたが、

そんな私の腕を、妹がつかみ返し、首を振ると、指を指しました。

指されるままに、そちらを見ると、

岩場に、ポッコリと…、

穴が空いていて、

そこには、たくさんの、石の塊が立ててありました。

完全な円形ではなく、何か円筒のようなものが、

長く波に洗われたことで、角が取れたような、

そんな感じのものが、

丸く空いた穴の中に、ぎゅうぎゅう詰めで並んでいたのです…。

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なにこれ…。

最初、私は、何かゴンズイや小さなウツボ達が集まっているのかとも思いましたが、

波に揺られることもなく、また石とわかれば当然のことですが、表情もなく存在するそれらを、

1つ1つの石の集まりだと気づくのに、暫くかかりました。

波で揺られる状態で、

なおかつ、その穴がまるで、

パカン…と開いた口のように、波に合わせて、

呼吸しているかのように…、

たくさんの水が入り込み、

吐き出す息のように、砕けた小さな気泡が大量に出てくるため、

落ち着いて見ることができないのです。

息が持たなくなった私は、

妹に、

1度上に上がろうとと指を指して、妹の手を引き、上に上がって行きました。

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顔を出した私と妹は、大きく息を吸い込み、

そして、きつい日差しに当たりました。

とても、太陽が眩しく感じられ、肌がチリチリする感じを受けた時、

先ほどまでいたところが、

薄暗かった事ととても冷たかった事に気付きました。

時間にして、1分も潜っていなかったはずですが、

とても長く、あの場所に居たような感じもしました。

先ほどまで、何にも感じなかったのに、

何だか立ち泳ぎをする足元が、

ヒンヤリと、とても冷たく感じられます。

潮の流れが変わってるところに、足を入れた時の感じに似ていて、

私は、海から上がろう、と、

妹に言いました。

ところが、妹は、

「お姉ちゃん、もう一回だけ行こう?

もう一回だけ!」

そう言って、私が岩場に上がろうとするのを、引き止めました。

「足元が冷たいから、

潮の流れがおかしいかもよ?

あそこ、変だったから、もう行かないほうがいい。」

そう言って、海から上がろうと言う私に、妹は、

「じゃあ、私だけ行ってくるね。また、後でね。」

そう言うと、止める間もなく、

大きく息を吸って、潜って行きました。

かなりの距離を泳ぎ、潜水までして、よくわからないものを見て、水の感じが変わってて…、

挙句、妹は止めても言うことを聞きもしない…、

ほとほと、嫌になり、一瞬放っておこうかと思いましたが、

もし、何かあったらと思うと、

私もまた、大きく息を吸い、妹の後を追って、再び海の中に潜って行きました。

先ほど潜っているからか、波に耐えるコツと言いますか、

先ほどより、体の持って行き方に少し余裕を持ちながら、妹に向かって潜って行きますと、

妹が、あの穴に向かって、

両手をついて、向き合っているのがわかりました。

なにをしてるんだろう。

早く、上に連れて行かなきゃ、

そう思って、腕を掴むと、妹は私の方を見て、

トントンと自分の目を、指で叩きました。

どうやら、

「見ててよ?」

と伝えたい様でした。

なに?

首を傾げた私に、

妹は、

ニヤァっと…、

とても、薄く口を開け、笑いかけてきました。

…口から、ガボガボと、妹の体の中に合った空気が出て行きます。

何やってんの、この子…、

全く、

行動の意味が読めない私が、呆然として妹を見ていると、

ゴボン…、と、意識して出す空気を最後まで出し切った様な妹は、

笑顔のまま、穴に向かって大きく口を開けたのです。

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その瞬間、

妹の口に、あの穴から、

大量の気泡が入って来て、

妹はまるで、それを吸い込む様に、

目も鼻の穴も広げて…、

水の中で、大きく大きく、息をする様な、

妹には、大量の空気が与えられている様な…、

それを全て吸い込んでいる様な…、

穴から出てくる気泡に向かって、大きく口を開けて、

ゴクンと、丸呑みする様な事を

して見せたのです。

そしてまた、水の中であるにも関わらず、

地上にいる時の様な涼しい顔で、私の方を見てきました。

『みた?いまの』

口だけ動かして、そう聞いてくる妹の口からは、

普通なら出てくるはずの、空気の塊が、

全く、出てこないのです。

それどころか、息を止めてる時に出来るはずの、

鼻の穴に出来る空気の塊も、一切ないのです。

驚いた私はきっと、

水の中で、とんでもない顔をしていたのでしょう…。

妹は、私を指差し、いつも、いたずらをした時にする、

人を小馬鹿にした顔で、指を指して、

大きく口を開けて、笑っていました…。

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どうやって、上がってきたのか…、

私は岩場に腰掛けていました。

妹も海から上がって、岩場にできた潮溜まりにいるカニを追いかけまわしていました。

驚いたのは、いつの間に来たのか、父が私のすぐ側に座っていて、私と妹のサンダルを持ってきてくれていました。

「疲れたのか?朝早く起きて、たくさん泳いでたもんな?

ウトウトしてたぞ?」

ウトウト…?

私は岩場で、居眠りしていたと言うのです。

私は父に、

「ここの下、潜ってみた?」と聞きました。

「潜ったよ〜。何にも居なかったなぁ。魚、何かいるかと思ったのになぁ。」と

答えました。

何にも、何にもおかしなものなかった?

そう聞く私に、

「ただの岩の続きだよ。お前、ここに潜って、遊んでたんじゃないの?」と、

聞き返してきました。

私が答えようとした時に、

「潜って遊んだよ。

本当。何にもなかったよ、貝もいなかった。ねぇ、お姉ちゃん、」

妹が背中越しに、私に代わって返事をしました。

私は、ばっと振り向き、妹を見ました。

何もなかったなんて、

そんなの嘘じゃない…。

あんた、変なものを、

ここから、この波の当たる岩場から、

水の中にある変なものを見つけて、

そこに、口当てて、

おかしなこと、やってたじゃない…!

そう言いたいのに、

異様に疲れていて、

口を聞くのもしんどくて、

妹には何も言わずに、

そろそろ、弁当を食べよう言う父について、

岩場を歩いて、後にしました。

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海の家に戻ると、今度は異常な眠気が襲ってきて、

焼貝とおにぎりを1つ食べて、すぐ寝てしまいました。

起きると、お昼の3時を過ぎていて、

お腹が空いたとばあちゃんに言うと、

ばあちゃんは貝を頼んでくれて、

お弁当も広げてくれました。

妹と母は、波うち際で、何やら大きな山どかお城だかを作っていて、

父はそれを、ビデオに収めている様でした。

ばあちゃん…、

私は、ばあちゃんに、

朝のうちにあったことを言いました。

妹が、波が砕け散り、水中など確認しようもない岩場から、水中にある何かに気づいて飛び込んだこと。

ついて潜ると、変な穴ぼこが空いており、そこにはたくさんの楕円形のような石が、いくつも立てて置いてあったこと。

一度上がってきた時に、足元の海水がとても冷たく感じたこと、

引き止めたのに、またあの穴のところに潜って行った妹、

ついて行った時の妹の、

穴に向かってした奇妙な行動、

その後、まるで海の中で、息が出来る様だった事…、

私はとにかく、どうして岩場にいたのか全く覚えてない事、

体がだるくて仕方のない事を、

ばあちゃんに全て伝えました…。

「それは、あの子だからできる事、あんたはそれにあてられたんだよ。」

ばあちゃんは、ポソリと静かな声でそう言いました。

「あの子だって、いつも出来るわけじゃない。

おそらく、意識して、わかって、やった事ではないんだよ。

わかるか?

出来る事出来ない事。

出来る子と出来ない子って事だよ。

同じ様に聞こえるけど、意味が違ってくるだろう?

幸いなのは、あの子が出来る事だと、意識してない事だよ。

たまたま、今日のあの時は、あんな事ができた。

そんな風に思ってるだけだからね。」

私が眠っている間に、

妹が何か、その事を話したかと聞くと、

「おもしろいことを見つけたのに、お姉ちゃんがすごい顔して怒った様に手を引っ張って海から上げられた。」と、

そういったと言います。

「それがあんたの『できる事』なんだよ。」

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焼き貝とお弁当を食べ、少し元気になった私は、

そのまま着替えて、

海に入る事なく、

波打ち際に行って、砂遊びに混ざる事もなく、

ばあちゃんとウロウロ散歩したりして、夕方になるまでノンビリ時間を過ごしました。

あの穴にあったのは、なんだったんだろう。

ばあちゃんに尋ねると、

「おかしな事、おかしなものは、世の中にたくさんあるんだよ。

ましてや海の中なんて、

常に蓋を開けてみれるわけじゃなし。

そのうちの1つを、たまたま見てしまっただけの事。

あまり気にすると、

また、それに気づいてしまうから、止めておきな。

ただ、あるべくしてあるもんなんだよ…。」

そう言われました。

少し難しくて、ばあちゃんの言う事を理解する事ができませんでしたが、

ばあちゃんの言う言葉は、私の頭にしっかり残り、

また、

「…また、気づいてしまうから、止めておきな。」と言われた事が、

あまり、良くないもののように感じられて、

それ以上考えなくて済むように、

ばあちゃんと違う話をして過ごしました。

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その後、妹に、

エラもないのに、水中で息が出来る!などという特殊能力が芽生えるわけでもなく、

海に行こうが、川に行こうが、プールであろうが、

しっかり息継ぎをして泳いでいました。

ある年の、ある海水浴場で起きた、

出来る子が出来る事…。

なぜ、あんな事ができたのか、

妹はなぜ、あのような事が、出来る子だったのか…、

それも、私の知ってる限りでは、

あの日の、たった一度だけ…。

知りたい気持ちは、あれから30年近く経った今でも、

フッと湧いてきますが、

ばあちゃんの声が、そのたび私を、引き止めてくれるのです…。

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mamiさん、怖いとコメント、ありがとうございます。

ゾワッとする妹の話…笑
楽しんでいただけたようで、何よりです。
全くもって、超問題児の妹…。普通が通じない妹…。
訳がわからない妹…であります笑。

ばあちゃんを好きと言ってくれて、ありがとうございます。
そして、ばあちゃんの私達に伝えてくれていた事を
同じく受け止めてくれたんだなぁと思って、嬉しいです。

また、ばあちゃんや妹との昔話、怖楽しんで頂けるように、
励みとさせていただきます。

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とりあえず…妹ちゃん、ここに座りなさい。
と、言い出したくなりますが、妹ちゃんが出てくると、ゾワっと嬉しい自分もいます…

そして、何より大好きなオバアちゃん。
何を聞いても、恐れず怯えず…スゴいとしか思えません。
子供を怖がらせるから…より、引き寄せやすいから真実を教えているように思えます。
このオバア様のお陰の、にゃにゃみさんと妹ちゃんとも…
また、楽しみにしてます。