短編2
  • 表示切替
  • 使い方

七夕

wallpaper:1540

笹の葉さらさら。

今日は七夕。

nextpage

帰宅してみると、遠目から、私の住むマンションの入り口に、誰が立てたか、笹が飾ってあるのが見えた。

色とりどりの色紙で作られた短冊が吊るされ、夕暮れの風に揺れている。

nextpage

ちょうど私の前を歩いていた、最近お隣の部屋に引っ越してきたAさん(男性)も、笹に気づいて足を止めている。

顔を近づけて、短冊を読んでいるみたい。

なにか、面白いお願い事でも書いてあるのかな?

nextpage

sound:18

と、突然Aさんが、奇声を上げながら、笹の葉ごと短冊をブチブチとむしり取り始めた。

バラバラと足元に散らばった短冊を、さらに靴で乱暴に踏みつけている。

nextpage

その、Aさんの顔。

嗤っている。

嗤っている。

目を剥いて、大口を開けて、よだれを垂らしながら嗤っている。

どうしちゃったんだろう、Aさん。

普段は物静かな好青年なのに。

nextpage

通りすがった人々が、Aさんの様子に気付いて、彼からそっと遠退く。

Aさんはそのまま、頭をかきむしりながらエントランスへと走っていってしまった。

nextpage

あとには枝だけになった笹と、その下に散らばった笹の葉と短冊だけが残った。

nextpage

私の部屋は、彼の部屋の隣だ。

厭だなあ。

隣人が、あんな一面のある人だったなんて。

nextpage

厭でも部屋には帰らなくてはいけない。

私はトボトボとマンションの入り口まで歩いた。

nextpage

見ると笹にはまだ、一枚だけ短冊が下がっていた。

nextpage

『Aさんが振り向いてくれますように C子』

nextpage

ふと、足元に散らばる無数の、色とりどりの短冊が目に入る。

nextpage

ああ――、

Aさんは啼(な)いてたんだ。

Normal
閲覧数コメント怖い
1,1333
12
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意

日常にありそうな恐怖です。文章にひきこまれました。

表示
ネタバレ注意