ようこそ、赤崎ノ浦旅行村へ

中編5
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ようこそ、赤崎ノ浦旅行村へ

今日でこの家ともお別れだ。

家具や日用品を整理を整理しながら家族との楽しかった思い出を思い出す。もう二度と戻ることはない楽しかった思い出ーーーお母さん、お父さん、生意気だけど、かわいかった弟ー・・・。

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枯れたとばかり思っていた涙がいま一度、下まぶたを乗り越える。家族写真を眺めながら、静かに泣く。

あの出来事が夢であることを今更のように願う。

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「まだ着かないのー?お腹減ったー」

弟がぐずる。もう3時間は車を走らせているが、いっこうに旅行村に到着する気配はない。

「ぐずってんじゃないわよ、ガキ!」

こっちだって3時間も車に閉じ込められイライラしているのだ。言ったって仕方ないことを言う弟に苛立ちを隠せずあたる。

「うっさいブス!鬼軍曹!そんな怒りっぽいから彼氏にも逃げられるんだよーだ!」

くっ、弟のくせに今一番痛いところをついてくる。

「なんですって〜?!」

「ほーら!2人とも喧嘩しないの!もうすぐつくから!カズ君、今のはいいすぎよ!お姉ちゃんもいちいち相手しないの!」母が助手席から顔を覗かせ諭す。

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「だってもう3時間ははしってるよ!?こんな山奥に本当にりょなんてあるわけ?!」

「おかしいな〜道はあってると思うんだけどなどっかで間違えたかな?ん?あの看板じゃないか?」地図を見ながら首をかしげていた父が指差した方向をみるとたしかに『ようこそ赤崎ノ浦旅行村へ!』と記された矢印型の看板が、雑草の生い茂った脇道にむかってぶら下げられている。

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「こんなにかかるなら多少のお金ぐらいはらって近い方の旅行村に行けばよかったのよー。それにしてもこんな道の先に旅行村なんて本当にあるわけー?草ボウボウじゃないのよ!」3時間かけてこれかと不満をたらたらの私は独り言のように文句をいった。

「そう言うなよエリ〜。これはエリの傷心旅行でもあるんだからな!」「とってつけたみたいな理由で私が納得するとでも?」

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旅行村につくと村人たちが総出で歓迎してくれた。

総出といっても20人ほどの小さな村である。

最近人口が急激に減り、焦りを感じた村人たちが村起こしのために始めた事業らしい。

綺麗にのこった空き家が掃いて捨てるほど残っているので、それを利用した旅行村らしい。

「いやー、ようこそこんな山奥においでなすった!長旅つかれたでしょう。村名物の「猪味噌漬け」に「猪鍋」‼︎できておりますので!あちらの古民家に荷物をおいたら公民館においでください!」村長らしきお爺さんが窓枠越しに父に話しかけた。

どうやら晩御飯はできているらしい。早速古民家に荷物を置きにはいった。「猪味噌漬けに猪鍋〜?

やたら獣臭そうな料理を名物にしたものね〜」

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「まあ珍しいじゃないか!猪鍋なんて食べたことのある奴なんてそうそういないぞ!」

荷物を車から降ろしつつ父がいう。

「きゃー!何よこれえ!トイレが深い?!」

「なんだー?最近の子はポットん便所も知らんのか?お父さんが小さい頃はー・・・」父の「昔は」節がまた始まった。無視して車の中でさんざん我慢した「小」をたす。トイレの小窓から、木々のさざめきとともにどこからか水の流れる音がする。ふと、強い視線を感じた。恐る恐る小窓をみるが、何もいなかった。「エリーまだかかるのー?母さんたち、お腹減っちゃったから先に公民館いっとくわよー?」

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「はーい!」

ようやくことをすませ、トイレからでてスマホを開くと、案の定圏外である。

「なによう、わかっちゃいたけど不便ねー」言いつつ公民館にむかう。ちょうど、家族が公民館に入っていくところだ。急ぐこともないだろうと歩いて行くと、恐怖と驚愕に顔を歪ませた弟が公民館からとびたしてきた。公民館の引き戸からぬっと腕が出てきて、弟のフードをつかみ、公民館内に引き戻す。

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弟の「ぎいっ」という短い悲鳴の後、静寂が訪れた。

あまりに唐突な出来事に、頭が混乱する。弟を引き戻した手、赤かった?血?あの悲鳴は?

最終的に、[猪料理のあまりのグロさに逃げ出そうとした弟が父に怒られたその為その場が静まり返った]と頭の中で結論づけ、公民館にむかおうとすると、勢いよく引き戸が開いた。反射で近くの民家のかげに身を隠す。すると、返り血だらけの村人たちが公民館にからぞろぞろと出てきた。

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「もう1人女がいたはずだべ!探せ!この事が外に漏れるとなにもかも終わりだ!草の根をわけてでも探し出すど!」「だから毎回ちゃんと全員揃っているか確認してから殺すべぎだどこの前もいったでねえか!」「これ!言っても仕方ないべさ!早く探し出して、あの小娘塩漬けにするど!」「おばばー!その前にあの年頃の娘っこお、お、おらがてごめにしてやるどー!久々に上玉がきたんだ!」

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「おう、おう!好きにすればええべ!その為には早く探し出してこい!!逃げられたらおわりだべー!げははははは!」村人が先ほど私がいた民家に入っていく。いねえ!娘はやはりにげた!さがせー!という声が民家にからきこえた。民家の裏手を回り込んでこっそり公民館にはいる。そこには抵抗する暇もなく殺されたであろう両親の亡骸がテーブルの皿に顔をっこむかたちであり、弟も首から大量の血を流しすでに事切れていた。

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悲鳴をあげかけ、必死で抑える。今自分がすべきこと・・・何とか車までいき運転して村から脱出、警察にこのことを伝えなければいけない。「んー?公民館の扉が開いてるベー?さっきは閉めたとおもったんだが・・」とっさに窓からそとにでた。ちょっとの油断も許されない。捕まれば、乱暴されたのちおそらく塩漬けの保存食にされる。

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再び民家の裏手をつたい、泊まる予定であった古民家にむかう。やはり、車には見張りが付いていた。

先ほど調達したまきわり用の鉈で頭をたたきわった。車のエンジンをかけ、近くの軽トラに急いで乗り込む。ドアを音がないようそっと閉める。その瞬間、村の色々なところから村人が全力疾走で乗ってきた車にむらがりはじめた。気づかれるのも時間の問題だ。急いでエンジンをかけ、村人たちをはねとばし、村から脱出した。まだ高校生なので免許更新は勿論もっていないがこの際そんなことはいってられない。

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こうして命からがら脱出した私は街につくと警察署に転がり込み、すべてを話した。家族が皆殺しにされたこと、山奥の旅行村のこと。しかし警察が村にかけつけた頃には村はもぬけのからで、全ての村人は行方不明であった。最近ここら辺では行方不明者が増えており、この村が原因だったのだろう。

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写真を段ボールにしまった私は涙を拭うと、再び整理をはじめた。

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「ごめんください、市役所のものですけんども〜少しようがあるので開けてもらえませんかねえ?」

もうどこにいっても逃げ場はないのだろうか。私は震える手で金属バットを握りしめ玄関にむかった。

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sunさんありがとうございます!怖がっていただき光栄です(^○^)

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怖いです!

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