中編4
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かわいいあのこ

俺は今恋をしています。

その相手ってのがね、まぁ可愛いなんてもんじゃないのよ。

前を歩くだけで花が咲いちゃうみたいな可憐さがあるのですよ、うふふ。

ちなみに名前は教えないよ~、この掲示板のスケベな男達が探し始めたら大変だし。

でも彼女にはちょっと変わった趣味があるんだよね。

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ざっくり言っちゃうと“廃墟巡り”なんだわ。

はっきりいって最初聞かされた時はびっくりしたよね。

俺はてっきり彼女みたいな娘の趣味は、ショッピングとか愛を世界に振り撒くとかそんなんだと思ってたからね。

まさかあの可愛い口から廃墟なんて言葉が出るとはおもわなくてさぁ、びっくりはしたんだけど……。

やっぱりそこは悲しい男の性でさ、言っちゃったのよ。

「僕もなんだ」

って、そういうわけで今俺は彼女を連れて廃墟に向かってるのだよ。

彼女と二人で行きたいよ!でも行きたくないよ。

だって俺恐いのとか嫌いだし、なんか汚そうじゃん。実際いつもスカートな彼女も今日はパンツ履いてるしさ、まぁそれはそれでイイけど。

うん、イイな。イイ。

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ちなみに俺達が向かっている場所は、元々温泉だった場所らしい。俺が一つ安心したのは、今が昼間だってこと。

なんか廃墟マニアは夜とかには行かないらしい、昼に行って素敵な写真なんかを撮るんだとさ。

俺ももちろん撮るよ、素敵な写真を撮ってる彼女をね。

いくつか電車乗り継いでやっと目的地に着いたんだけど、やっぱり埃とかがすごいんだよ。

なんか屋内に入った瞬間にピリッとした空気と静けさがあるし、壁とかにはヤンキーの落書きとかもあるしね。

でもしばらくしたら、なんとなく俺にもこういう場所の良さは分かったよ。

なんか時が動いていない感覚がするんだよね、その辺に乱雑に置いてある雑誌とか食器とかさ、なんか自分が子供の頃に見たようなデザインばっかりでさ。

なんか過去を少しだけ見たような気分がしたよ。

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そこは本館と別館があるんだけど、本館はかなり荒らされてて彼女はお気に召さなかったみたい。

急かされてすぐに別館に移動することになったよ。

その辺りから気付いたんだけどさ、彼女の雰囲気がなんか普通とは違うんだよね。焦ってるっていうかさ、初めていく場所だって言ってたのに目的に向かって進んでいるみたいな。

なんか何処か忙しないんだよ。話し掛けても素っ気ない返事だし。

別館に着く頃にはもうほとんど無視に近かったよ、

一人でグングン歩いていくから着いてくのに大変だったし。

ただ彼女が足を止めた場所を見て驚いたね。

どうもそこは従業員とかの控え室だったみたいでさ、ゴミとか漫画とかで溢れてんのよ。

ただ一つ気になったのがさ、その部屋は時が動いてるんだよね。

カップ麺の容器とかペットボトルとか、置いてあるゴミが現代のものなんだよ、よく見たら汚い布団とかも敷いてあるし。

だから彼女にここホームレスとか住んでんじゃないの?って聞いてみたんだよ。

そしたら普通の顔してそうだよって笑うんだよ。

そしてその部屋の写真をパシャパシャ撮ってんの、正直俺には行動の意味が分からなかったよ。

廃墟マニアだったら朽ちていく建物とかそういう芸術っぽいのを撮るわけでしょ?

それなのに彼女が撮ってるのは、美しさとは無縁のホームレスの住処だぜ。

俺は正直帰りたかった。実際不安なもんだよ、二人しかいない閉塞された空間でもう一人がおかしくなるってのは。

勝手だけどなんだか彼女にも幻滅しちゃってさ、まぁ元々俺が勝手に妄想してたイメージなんだけどね。

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なんだかんだ夕方になって帰ったのよ、帰りの電車ではデジカメに入ってるしょうもない写真とかを見てたんだよ。

大半ゴミ部屋しか写ってないけど、そんな部屋にいても綺麗な彼女を見て無理矢理いい思い出に変えたよ。でもそんなことはどうでもいいんだ。

俺は本当は今夜彼女と一晩中……と考えていたのだ。

まぁ結果はお察しの通りっす。寂しく一人でお家にいますよ。

んでさっきから彼女がたくさんメールしてきてさ、携帯に色んな写真も送ってきてるんだけど、いくら彼女が撮ったものでもゴミの写真なんか見る気になんかならないよね。

ただすごい写真の量とメッセージの数だから、ちょっとだけ覗いたのよ。

そしたらその中の一枚が妙に気になったんだよね。

別館の廊下かどっかの写真なんだけどさ、靴が写ってるんだよね。茶色い革靴が。

それが普通に写ってる訳じゃないんだよ、彼女の先を歩いてるみたいにさ、足は写ってないのに歩いてるような写り方なんだよ。

それから他の写真も見たんだけど、俺はやっぱり廃墟なんか行くべきじゃないと思ったよ。

あのホームレスの部屋の写真以外、ほとんど全部に手とか影とか写ってるんだよ。

彼女が急いであの部屋に行きたがるわけだよね。

あそこだけは時が動いてるんだもん。

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廃墟には止まったままの人達がたくさんいるんだと思う。きっと俺達はそこに無理に入って行っちゃったんだよ。

なんか怖くはないけど不思議な体験をしたよ。

彼女も今同じ気持ちなのかな?

あの部屋からどうしても出ないっていうから置いてきたけど大丈夫かなぁ。

廃墟の夜の写真は気持ち悪いからもういらないんだよねぇ。

まぁ可愛い女はたくさんいるからね。

1個くらいなくなってもいいよ。

あぁ携帯うるせぇなぁ

はい、着拒♪

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ゆなさんこんばんは!
男の思考に苛立ちながらも楽しんで読ませていただきました(^^)
女を個数、道具感覚で見る事は許されません。
良い作品ありがとうございました!

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