中編6
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もらった壺

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知人に聴いたお話で、私が今住んでいる、ごく近所で実際に起こった話です。

女子高生くらいの女の子が、私が住む共同住宅の西側の道を、放心した顔つきで口を半開きにして、何度もふらふらと、行ったり来たりするようになったそうです。

その子は、この道の北方向にある美容院の娘さんで、双子姉妹のお姉さんで、私の知人の奥さんがいつも通っていたお店です。

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知人の奥さんが、お店に行った際に娘さんについて相談を受けたそうで、その年から理容美容の専門学校に通う事になっていましたが、急にそのような状態になったといいます。

知人は、祓うことはできないが、霊感が強く、対処する方法は知っており、自分の仕事とは関わりなく、そういう事の相談にはよく乗っていたそうです。ちなみに知人は会社経営をしています。

そこで、知り合いはその美容院行って、美容師をされている、ご両親から詳しい話を聴いたそうです。

「これは、他のどなたかに相談されましたか?」

知人がご両親に尋ねると、ご主人が、

「私は郷里が四国でして、石鎚山に知り合いの行者さんがいて、その方は、『娘さんのおばあさんが祟っている」と言われて、お祓いをしてくださったのですが、効き目がありませんでした」

それを聞いた知人は、はて?と思ったそうで、

「おばあさんといえば、あなたがたご夫婦のどちらかのお母さんですね?

いくらなんでも、おばあさんが、孫にこんな障りはしないでしょう?」

そう言うと、

「……でも他には、思い当たる節はありません」

知人は、その時に美容院の東の方向に悪い気配を感じていたそうです。ご主人の話で、これか?と推測できることはありましたが、確信はまだありません。

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「誰か知り合いの方に、怨まれていることはないでしょうか?」

そう聞くとご主人は、

「それも思い当たる節はありません」

知人は、なおも、

「お近くに、後同郷のお友達で、お付き合いがうまくいってない方はおられませんか?」

そう聞くと、

「同郷の仲間とは、いい関係でつきあって……」

と、ご主人が言いかけると、奥さんが言葉をさえぎって、

「ちょっと、◯◯さんが、近所でうちの事を色々悪く言ってるの知ってる?」

ご主人は顔をしかめて、

「おまえ、そんな話は聞いたことないぞ!」

知人は、あ、これだと思い、東の方向を指差して、

「どうも、そちらの方向から、悪い気配を感じるんですが、心当たり何かありませんか?」

言い争いになりかけていた二人が、ハッとした様子で知り合いの顔を見て、

「あ、うちの東どなりが、◯◯さんの家です」

やっぱりな、と思った知人は、

「何かその人から、プレゼントされた物、家の中にありませんか?」

そう尋ねると、

「そういえばどこかのお土産とか言って、大きな壺をもらいました。

という答えを聞いて、

「すぐ、その壺を見せてください」

案内された部屋の床の間に置かれた壺を見ると広口の普通の花などを絵付けした磁器の花瓶でした。

知人は、すぐにそばに寄って内側を覗くと中で動くものがあり、それが何か確かめようと、さらに顔を近づけると、目の前にモゾモゾと大きなムカデが、這い出してきました。そして床の間の隅から壁の隙間に素早く這い込んで行きました。

ムカデ嫌いの知人は声をあげそうになりましたが、ぐっと堪え、

「この壺は狗神が憑けられています。この壺を夜中に覗くと、多分底の方で蒼く光るものが二つ見えると思います」

夫婦は、狗神で思い当たる節がありました。

◯◯さんの家は、狗神筋がかかっていると言う事を、郷里で噂されているのを聞いたことがありましたが、そんな迷信を今時信じて差別するなどバカバカしい事だと思い、これまで同郷のよしみで、普通にご近所付き合いしていたらしいです。

ご主人は唖然としてしまい、奥さんが、低い声で、

「これはいったいどうしたらいいんでしょう。お祓いとかして娘は良くなりますか?」

知人は、自分は祓いは出来ないが、祓える人を紹介する事を伝えて、

「先ずは、狗神を憑けた相手に『お前、憑けたな?』と、言ってやる事です。その後に祓いをするのがいいと思います」

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この辺りは、知人も確信は無かったと思います。

美容院のご夫婦は、友人に対して、

「あんた、うちに何か憑けた?」

と訊くと、友人は色々と言い逃れしていましたが、その後一週間ぐらいで家を引き払い、何処かに引っ越してそのまま音信不通との事です。

お祓いは、石鎚山の行者さんが、こちらには来られないので、向こうで祓いをしておくとの事でした。壺から這い出したムカデが這い込んだ隙間は、確認しても見つからなかったそうです。

その祓い祈祷が効いたのか?双子の姉さんの方は、正気を取り戻しましたが、すぐに妹さんが、おかしくなりました。お姉さんと同じような状態になり、ある日家を出たまま消息不明になってしまったのでした。ご両親は捜索願いを出して必死で探しましたが、市内や近隣の町では見つける事ができませんでした。

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四国の片田舎の寂れた駅から、夜な夜な遠吠えが聞こえてきて、その近隣の村中の犬たちがそれに呼応するように一斉に遠吠えをします。

駅で遠吠えを上げるものは、どうも犬の声ではないようで、人が犬の声を真似ているようです。誰かが悪戯をしているようです。

しかもその声は多分女の声のようでした。

向こう三軒両隣、すべて顔見知りの狭い世間、誰が悪戯しているのかはわかりそうなものですが、それらしいものは全く特定できませんでした。

ある夜の事、また遠吠えが駅の方から聞こえてくるので、村人総出で駅まで行ってみたそうです。

大方の予想通り、それは女の子でした。

改札口にしゃがみ込んで、ぐっと頭をもたげて、遠吠えを繰り返しています。

服はボロボロで土汚れしていて、髪の毛は乱れて いました。村人の何人かは線路からプラットホームの方に回り込んで、女の子を取り囲みました。

女の子はそれに気付いたのか、身を地面に伏せて威嚇の唸り声をあげていました。数人で取り抑えようとしましたが、激しい抵抗でした。そして漸く身柄を確保したという事でした。その時彼女の激しい獣臭ささで、何人かは気分が悪くなりました。

即刻警察に届け出て翌日に町の病院に入院させたその子が双子の妹さんでしたどのようにして四国に渡った のかもわかりませんでした。

知人からこの話を聴いたのは、知人の所有する空き地での話です。

夜の8時半頃から色々と話をしていてこの話が一番最後に知人の口から語られました。二、三粒雨が降り始めてそのうち本降りのようになったので、急いでテーブルや椅子を取り片付けて、その夜はお開きという事になりましたが、用心のための鍵を空き地の入り口のフェンスにかけたときには通り雨は止み、空の雲も疎らに見える程度でした。

知人は、大神神社の講中に狗神を祓える人がいるのを、美容院のご夫婦に紹介したのですが、儀式にかかる費用が、かなりの高額になるという事で、結局祓いは出来なかったようです。

美容院は間も無く閉店してご家族は引っ越して行かれたそうです。

「多分は、あれは祓い切れるものでは無かったんだろうな……」

そう言っていたのが印象的でした。

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途中で話がループしたのはわざとでしょうか?