春日さんと天使

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いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日は60円を払えなかった春日さんのお話です。

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学校を卒業して、服を作る工場の妊婦服を作る所に就職したの。

残業なしなんて書いてあったけど毎日のように残業してた。

歳の近い先輩と2人で残業する事が多かったんだけど、

ある日ね、うーんと...服を作る時に使うマネキンみたいなのがあるんだけど、

それの中に1つちょっと他のよりお腹の大きいものが混ざってるのに気が付いたの。

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「あんなにお腹出てましたっけ？」って先輩に聞いたんだけど

「大きい人用じゃない？」って言われただけで、本当の所はよくわからなかったの。

普通ならそこで興味も薄れるもんなんだけど、ある日の残業中に ｸﾞｩｩ って音が聞こえたの。

お腹の音にも聞こえたんだけど私も先輩もお腹なんてなってなくて、すごく不思議に思ってた。

その日はそのまま帰ったんだけど

次の日も、その次の日もｸﾞｩｩｰ ｸﾞｩｩｰ って音が聞こえるのよ。

気になっちゃって気になっちゃって仕事中断して音の出どころを探したの。

そしたらあの妊婦ボディから聞こえてきてて

しかも元々大きかったお腹が更に大きくなってるように見えたの。

先輩は気味悪がって関わろうとしないんだけど、私はどんどん興味が出てきたの...。

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先輩が帰ってから、私は1人で残ってそのボディを調べたの。

そしたらおなかの真ん中に変な縫い目がある事に気が付いたの。

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縫い目をなぞるように触っていたら ﾄﾝｯ て中から振動がしたの。

まぁ、振動はこれが初めてじゃなくて何度かあったんだけどね。

不自然な糸と膨らみと振動で、

やっぱり中に何か入ってるのかなって、気になっちゃって...

糸切りハサミでその糸を ﾁｮｷﾝ ﾁｮｷﾝ って切ってみたの。

糸を解くとボディのお腹が...なんて言えばいいのかな...

中が見えなくて、ブラックホールみたいな感じかな？

とにかく異様だったの。

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流石にちょっと怖くなっちゃって固まってたら、

その穴の中から「ママ」って聞こえたの。

恐る恐る「誰？」って聞いたら、

「ママの天使だよ」って言うの。

その言葉を聞いた瞬全てを理解したわ。

この中にいる子は私の子供で、天使なんだって。

天使が私に天使の子を授けてくれるんだって。

そうと分かればもう何も怖くなかった。

穴の中へ手を入れて、私の天使を探したの。

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奥の方に暖かくて柔らかくて ﾄｸﾝ ﾄｸﾝ って動いてる、私の天使がいたの。

触れていたらスーッと私の中に入ってきて、そこからはお腹の中で育てたわ。

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毎日お腹の中で元気に育っていく我が子が可愛くて

仕事なんかしてる時間が愚かだって気付いて仕事を辞めたの。

ベビー用品を沢山買っていつ産まれるか楽しみに過ごしてた。

そしたらね、ある日お腹に縫い目が出来てたの。

あのボディと同じ。黒い糸で不自然に私のお腹が縫われてたの。

(あの子が出てくるんだ！)ってすぐにわかったわ。母親だもの。

私は眉切りハサミで ﾁｮｷﾝ ﾁｮｷﾝ って自分のお腹の糸を切っていった。

そして可愛い天使と初めましてのキスをしたわ。

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お腹の穴はいつの間にか閉じていて、すぐに動けたから

可愛い我が子を皆にお披露目しようと思って外へ出たの。

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でも皆私の天使を見てヒソヒソと陰口を言うの。

嫉妬だとしても流石に失礼だと思ってすごく腹が立った。

死んでしまえばいいのにって。

「あんな風にはなっちゃダメよ」って天使に話しかけたの。

そしたらにこって笑って「タベヨウ」って。

気がついたら陰口を言っていた女どもは居なくなってた。

私の天使は「マズイ マズイ」って舌を出してたわ。

それから毎日お外をお散歩して

綺麗なものを見て、マズイものを食べて、今も幸せに暮らしてるのよ。

.

.

.

ふふふ。ごめんなさいね。

全然怖い話なんかじゃなくって。

幸せ過ぎて怖い思い出なんて何も無いのよ。

ほら見て。この子も笑ってる。目元、私に似てるでしょう？

将来どんな大人になるのか、今からたの

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そう話している途中で春日さんは食べられていきました。