どーん!
どどーん!
「おっ、花火始まったか?」
ここは、七年前にオープンした駅前にある中華料理屋「ロビン飯店」。
お陰様で地元のお客様相手にそこそこの売り上げがある為、現在もなんとか生き残っている。
「オーナー、ちょっとだけ花火見て来てもいいですか?」
「たく、しょうがないなー」
現在、客はボックス席に家族連れが一組。
皆んな花火を見るのに忙しいのか、ディナータイムだと云うのに店は閑古鳥が鳴いている状態だ。
大学生でアルバイトの千寿子ちゃんは、スマホ片手に仕事をほっぽらかして外へと行ってしまった。
どーん!
どどーん!
これは、もしかすると一種のトラウマなのだろうか?
地響きのような音がなる度に、花火だとは分かっていてもつい、二十年前の大震災を思い出して身構えてしまう。
どーん!
どどーん!
店の前を、様々な模様の浴衣を羽織ったカップル達の笑顔が行き過ぎていく。
俺も千寿子ちゃんの後を追って花火を見に行きたい所だが、お客様を置いて店を出る訳にもいかない。
「あーあ、今年も花火は見れず終いか」
どどーん!!!
ひときわ大きな轟音が響いた瞬間、俺の両耳は激しい耳鳴りに襲われた。
ふと店の前を見やると、この日には似つかわしくもない、古ぼけた身なりをした人々が窓の外を埋め尽くしていた。
赤黒い顔。
影になった窪みでなんとか目と鼻と口の有無がわかる。
髪の抜け落ちた者もいれば、男女の区別さえつかない者もいる。
そして彼等は一様に、此方を向いたままで微動だにしない。
時が止まったかの様な感覚。
硝子窓を通して深く、彼等の苦悶の嘆きが聞こえてきた。
…
「オーナー、大丈夫ですか?」
いつの間にかアルバイトの千寿子ちゃんが俺の隣りにいた。
「ぼーっとしちゃって疲れてるんですか?ほら!花火の写メ撮りましたよ見ます?」
「いやいい、見ない…ひ…」
窓の外には何時もの景色。
若者達がワイワイと楽しげに行き過ぎる。
どーん!
どどーん!
俺は厨房の裏に貼り付けているカレンダーに目を向けた。
「そうか、今日は八月六日か」
自動ドアが開き、浴衣を着た花火帰りの団体さん達が店に入ってきた。
「いらっしゃいませー!八名様ですか?此方のお席へどうぞー!!」
店の中に、漸くいつもの活気が戻ってきた。
ただ、お客様の注文を取る千寿子ちゃんの背中に、一瞬だけ赤黒いモノが覆い被っているように見えた気がしたが、それは気の所為だという事にしておこう。
明日からもまた
忙しい日々は続く
【了】
作者ロビンⓂ︎
こんな噺を。