中編3
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廃村の悪夢

「着いた!」

親友のコウタが吼える。

今、俺とコウタは〇〇県の廃村にいる。

大学に入り、受験も終わったため、夏休みと言う長い休暇を利用してキャンプに行くことにしたのだ。

コウタは一応、免許を持っているので車で来た。

テントを買うお金も無いので、車の中でキャンプとなった。

「とりあえず飯だ、飯。」

コウタが言った。

俺も腹が減っていたのですぐに準備に取り掛かった。

二人とも料理ができないため、缶詰を食すことになった。

不器用な男共が缶詰を開けていると急に眠くなった。

信じられないかもしれないが、俺はその場で寝てしまった。

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「よかったな!ヤエ!」

「選ばれたな!」

大勢の声が聞こえる。

いつの間にか白い着物を着ていた。

体を動かそうとしても動かない。

勝手に体が動く。

「行ってらっしゃい。ヤマグイ様も喜ぶよ。」

そう言われて歩き始めた。

かなり歩いた。足が痛い。

洞窟らしきものが見えて来た。

「ヤマグイ様、おいでください。」

俺は男とは思えない声で言った。

するとガサガサと言う音と共に黄金色の何かが近づいて来た。

俺は洞窟の地面に寝転んだ。

黄金色の何かがやっと何なのかわかった。

大勢の虫だった。

「これがヤマグイ様…?」

そう言うとなぜか涙が溢れて来た。

虫達が俺に噛み付いた。

その瞬間、記憶のような物が流れてきた。

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私の名前はヤエ。

母に愛され育ってきた。

私の住んでいる村はヤマグイ様が守ってくれる。

そのお礼にヤマグイ様には一年に一度生贄を捧げることになっている。

気高く、美しいヤマグイ様に生贄として仕えることはこの上ない名誉だ。

今年の生贄に私が選ばれた。

最近、母さんは泣いてばかりいる。

母さんごめん。

まだ私も生きたい。

生きて母さんと暮らしたい。

でも、ヤマグイ様に仕えられるんだ。

私は幸せだったよ。

「行ってらっしゃい。ヤマグイ様も喜ぶよ。」

母さんありがとう。

行って来るよ。

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「逃げて。」

そんな声が聞こえた。

気付いたら手元にはおでんがあった。

「大丈夫か?さっきからお前変だぞ。」

コウタが心配そうに言った。

「大丈夫。」

そう言っておでんを食べようとすると黄金色の物が見えた。

俺はコウタを引き連れ、急いで車に乗り、エンジンをかけようとした。

俺「早く運転しろ!虫が来る!」

コウタ「どうしたんだ、虫?だろ。つーかガソリン入れてねえぞ。」

俺「何で入れてねえんだ!アレはただの虫じゃねえんだ!」

コウタ「そう言われても…。俺ガソリン入れてくるわ。」

俺「バカ!やめろ!」

コウタは俺の言葉を無視して外に出た。

俺も止めようと外に出てしまった。

その時、虫が羽を広げ、飛んできた。鋭い顎をむき出しさせて。

コウタもやっと虫が危険だということに気付いたらしい。

俺達は目を閉じた。

ブチブチ…

痛みがない。

俺は目を開けた。

虫が粉々に砕けていく。

俺達は急いで車に乗り込み、林道を走った。

後ろを見ると白い人影が虫を払っているのが見えた。

あなたが見せてたのか。夢を。

ありがとう。

ヤエさん、母さんと暮らせたらいいな。

そんなことを思いながら帰路に着いた。

Concrete
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青鷲さん、初めまして。コメントありがとうございます!
これからも雰囲気を壊さないように頑張りますww

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