長編8
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秘密の通路

俺にはなんの取り柄(とりえ)もない。

あえて自慢できることがあるとすれば、学年男子の2大有名人と幼なじみだということだけだった。

1人はサッカー部を全国まで導いたヒーロー的存在、英雄の「A」くん。

もう1人は学年一のイケメン、美少年の「B」くん。

この2人から「学校の秘密を探ろう」と俺に持ちかけて来た。

俺たちの通っている中学校にはある噂がある。

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【この中学校には『秘密の通路』がある。そこは異世界に繋がっている】、と。

まぁ、ありがちなヤツだ。

ある日、英雄のAくん、美少年のBくん、なんの取り柄もない俺。幼なじみの3人は『秘密の通路』とやらを一緒に探しに行くことになった。

A「何かこうゆうのって、冒険みたいでワクワクするよな」

B「例え見つけることができなくても、僕たちだけの思い出になるからね」

俺「本当に探すの?やめるなら今の内だぞ…」

A「大丈夫だ。何かあったら俺が守ってやるよ」

B「心配いらないよ、僕たちが付いてるじゃないか」

二人とも意気揚々としていた。ホント迷惑な話だ。

中学生になってまで冒険ごっこ…。

俺はそんな気サラサラねーってゆーのに。

とか思いながら俺は言ってやった。

俺「ってゆーか、その『秘密の通路』だっけ?どこにあるとか、当てがあんのかよ?そもそも存在すら怪しいじゃねーか」

A「何言ってんだよ。最初からあると分かってたら面白くもないし、何より夢がないだろ?」

B「そうだね。それにあるはずのないものを探すことにロマンがあるのさ」

俺「けっ」

俺は自分のちっぽけさに毒づくことしかできなかった。

A「それにな、実は もうある程度調べは付いてるのさ」

Aはドヤ顔でそう語る。

B「そうなのかい?さすがAくんだね」

おいおいお前ら、夢とロマンはどこに行ったんだよ。

そんなちっぽけなことを思いながら、Aの話の続きを聞くことにした。

A「外柵近くの茂みに鎖で封印されてある扉があるって噂、知ってるか?」

噂だらけだな、この学校は。

俺「茂みの多いあの場所は、スズメバチがいるから近づいちゃイカンと先生たちが言ってたけど…」

Aが片目を瞑り、人差し指を立てて「チッチッチ」と左右に振った。

気取ってんじゃねーよ。と俺は思った。

A「違うんだよな、それは口実だ。『秘密の通路』を隠すためのな」

何を言ってやがんだ、この男は。

俺「そんな訳ねーだろ。そんな扉なんざ見たことねーし、開けようとしたヤツなんて過去にいくらでもいるだろ」

B「まぁ、いいじゃないか。善は急げだよ、とにかく行こう」

どこに善があるんだ。と思いつつも、俺たちはAの言う外柵近くの茂みに入ることにした。

草が高く、中学生の俺たちの背を裕に越えていた。

そして、探している間に雨まで降ってきた。

俺「なぁ~、中止しようぜ、A」

A「『ここまで来て引き返す』なんて選択肢は俺の辞書にはねー」

そんな長ったらしい言葉はどの辞書にもねーよ。

なんてことを思いながら、Bにも言った。

当たり前のことを言ってみた。

俺「風邪ひくだろ?なぁ、Bくん」

B「大丈夫さ。僕も一緒に風邪をひくよ」

俺はひきたかねーんだよ。

頭がマジでガンガン痛くなってきたし、笹の葉で切れまくるし、マジ帰りてー。

そんなことを考えていると、茂みをかいくぐった矢先、扉はあった。

扉の周囲はコンクリートに覆いつくされており、コンクリートの周囲は家の囲いとかでよく見かける植物の壁(?)のようなもので囲まれていた。

どうやら扉の向こうは外柵の外に繋がっているようだった。

俺「秘密の通路って、正門 以外に学校から出られるただの抜け道じゃねーのか?」

B「ようやく辿り着いたね、Aくん」

A「確かに鎖で封印されてやがる…」

俺の話は完全に無視かよ。

どう見ても外に繋がってる抜け道じゃねーか。

全くふざけてやがる。

俺「これ、あれだろ?ここから不正に登下校する生徒やら、不法侵入者が入ってくる可能性があるから封鎖しただけだろ?」

A「いや、ここには何か秘密がある。学校に隠された秘密がな」

こいつ真面目に言ってんのか冗談で言ってんのか。

俺「大体、鎖と南京錠で封鎖されてんだから無理だろ。雨も強くなってきたし帰ろうぜ」

B「大丈夫さ。僕はこんなこともあろうかとピッキングの道具も持ってきてあるんだよ」

『こんなこともあろうかと』を素で聞くハメになるとは思わなかった。

A「さすがBくん、言うことまでイケメンだな」

そうでもないだろ…。まずピッキングできることに驚きだわ。

一体何に使うんだよ。と思ったが、Bは3分程度で南京錠を外した。

A「さすがBくん、やることまでイケメンだな」

確かに…。いや、意味わかんねーし。

鎖を外し、扉を開けると案の定、外柵の外に繋がっているだけの3m程度しかない短い通路だった。

A「本当にただの通路なんだな…。なんか拍子抜けだ」

さすがのAも肩を透かしていた。

俺「だから言ったろーが。『秘密の通路』ってのはただの学校の抜け道なんだよ(笑)」

A「少し残念だな。まぁ、学校の秘密なんてこんなもんか」

B「でも、いい思い出になったじゃないか」

BはAを慰めた。Bは実際いいヤツだ。

Aも案外あっけからんとしていたので、俺はなんとなく安心した。

俺「俺たちもいつまでもガキじゃねーんだから、冒険ごっこなんざさっさとやめて、風邪ひかねーうちに帰ろーぜ」

A「それもそうだな。2人とも、こんな遊びにわざわざ付き合ってくれてサンキューな」

B「いいさ。今日はこの抜け道を通って帰ろうか。また明日3人で元に戻しに行こうよ」

どうやら言いだしっぺはAの方だったらしい。

俺たちは『秘密の通路(笑)』を通って家に帰ることにした。

四方がコンクリートに囲まれ、扉と同じ大きさの通路が3mほど続いており、人1人しか通れるスペースがなかった。

その為、俺たちはA・B・俺、の順に1人ずつ通ることになった。

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A「次はこの町の秘密でも探すかー」

まずAが通る。

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B「あはは、懲りないね。あれ?あっち側、雨やんでる?」

次にBが通る。

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俺「んな訳ないだろ、さっきより小雨にはなってるけど」

次に俺が通る。

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――ヒヤリとした。

 

 

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向こう側に出ると確かに雨はやんでいた。

どころか地面は濡れてさえなく、雨の匂いもしない。

俺「あれ?A?B?」

2人は居なかった。

俺はキョロキョロと辺りを見渡した。

そこは見慣れた学校裏の柵外の風景だった。

隠れられる場所もないはずだった。

2人が通路を出て間もなく俺も入ったので、隠れられる時間もなかったはずだったのだ。

俺「おい、ふざけんのも大概にしろよお前ら!」

俺は不思議に思いつつも、怒ったフリをした。

そうすれば出てくるだろうと踏んでいたからだ。

しかし、それでも2人は出てこなかった。

しばらく周囲を探し回ったが、一向に2人が出てくる気配はない。

自分たちが通ってきた通路の出口を見たとき、何故か背筋がゾクッとした。

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――まさか、、、

 

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俺は急いで家に帰った。あることを確かめたかったのだ。

俺「ただいま!」

母「あら、おかえり。今日は早かったわね」

俺「母さん!AくんとBくんって覚えてるよな!?幼稚園からずっと一緒だったから知ってるよな!?」

母「さぁ?知らないわよ。誰なの?AくんBくんって」

俺「そんな訳ないだろ!」

母「もういいかしら、お母さん夕飯の準備で忙しいから…」

AもBもよくこの家に遊びに来てたんだ、母さんが知らないはずは絶対にないんだ。

かなり支離滅裂だっただろう、俺はあせりながら母さんに問いただした。

しかし、いくら聞いたところで母さんは「知らない」の一点張りだった。

俺は思い出す、

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【この中学校には『秘密の通路』がある。そこは異世界に繋がっている】

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俺たちは、

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あの時、

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それぞれ、

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別の、

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世界に―――、

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「イヤだっ!」

俺は家にある昔のアルバムを探し始めた。

AとBだけ写真から消えていた。

まるで存在そのものが無かったかのように。

俺は自転車で飛ばした。

「あいつらの家!」と思うより先に体が動いたかのように、全速力で飛ばした。

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Aの家は――空地になっていた。

 

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Bの家は――別の人が住んでいた。

 

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俺は外柵まで辿りつく。

俺は飛ばした。

学校裏まで全速力で飛ばした。

俺にはなんの取り柄もない。

自慢できることがあるとすれば、学年男子の2大有名人と幼なじみだということだけだった。

俺は怖かった。

1人になることが怖かった。

しかし、いくら探しても『秘密の通路』は見つからなかった。

「なんでだ!なんでねーんだよ!」

俺はその場で膝を着き、そして泣き崩れた。

俺にはなんの取り柄もない。

英雄でもなければ、美少年でもない。

でも俺には何もいらなかった。

あいつらさえいればそれで良かった。

でも今は――

Aもいなければ、Bもいない。

俺は独りになった。

 

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――あれから1年、俺はまだこの退屈な学校に通っている。

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かつて英雄的存在がいたはずのサッカー部は、全国大会まで上り詰めた去年の成績とは打って変わり、地区予選2回戦敗退という御粗末な結果に終わった。

みじめ過ぎる、サッカー部…。

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かつて美少年に独占されていたはずのバレンタインデーは、多少なりとも皆にチャンスが回ってくるようになった。

独占禁止法はこんなところにまで適応されてるらしい。

しかし彼の取り巻きだった女子達の女子力は、格段にグレードダウンしていた。

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俺はというと、相変わらずなんの取り柄もなくタラタラと文句を言ったりして、たまに毒づいたりしている。

あいつら以外に友達はできないし、作る気にもなれない。やっぱりあいつらは俺の友達だったんだと今更ながらに思った。

あれから俺は外柵 近くの茂みをかいくぐり『秘密の通路』なるものを探したが、数時間 探しても皆目見当たらなかった。

何度か行ったときにスズメバチに襲われ、それがトラウマとなって今では近づくことさえ怖くなってしまった。

もとより学校裏から見た通路の出口が無くなっている時点で希望は ほぼ無いのだが、俺はあの不思議な出来事を忘れることができなかったのだろう。

たぶん、一生忘れられないと思う。

 

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それ以外は いたって平和な学校生活だ。

『秘密の通路』は結局見つけることはできなかったし、聞いても誰も知らなかった。

噂すら無くなっていたのだ。

俺はそれでいいと思う。あんな恐ろしい体験をする必要はないし、誰かが怖い思いをする必要もない。

まぁ実際、俺は怖いという怖い思いをしてはいない。ただ、時々 恐ろしく思う。

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あいつらが消えたことが。存在そのものが無かったかのような皆の反応が。

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そして何より恐ろしいことが――、

ココが、かつて俺のいた世界じゃないということだろう。

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