長編27
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凸凹さん

俺「な~んか、最近 暇だよなぁ~」

俺は学校の帰り道、仲の良いAとBとCに とりとめのない話をした。

A「いいかげん趣味でも見つけたら?何でもすぐに飽きちゃうとこ、悪いところだよ?」

B「そうそう。よく暇々 言うけど、暇にならない努力した方が良いよ」

C「そうか。お前あんまり趣味とかないもんな」

そう、俺はこれと言ってなんの趣味もないし特徴もない。

いたって普通の奴だ。

それに比べ、

Aはテニス・囲碁・登山など、色んな趣味を持つ好奇心旺盛な女。

Bは明るく元気でクラスでも人気女子。

Cは なかなかに頭の良い、物腰やわらかなインテリ男。

A・B=♀

C・俺=♂

って感じだ。

4人は小学校以来の付き合いだが、高校生になった今でも仲が良い。

そんな4人の下校途中での出来事だった。

俺「なんか、面白いことねーの?」

A「あ、だったらあそこ行ってみない?」

C「どこだよ?」

B「もしかして最近 妙に噂になってるヤツ?」

女子は噂が好きだな。

一体 俺をどこに連れて行こうと言うんだよ。

B「あそこよね!凸凹さんち!」

C「誰だよ、『デコボコさん』って。ヘンテコな家の話か?」

A「そうなの。やたら外装がデコボコしてる場所なんだって」

B「そーゆーのを デザイナーハウス って言うらしいよ」

俺「でも行っても何の意味もなくね?だって外から見るだけだろ?」

A「それがね、今は誰も居ないって話だよ」

B「なるほど、だから最近 噂になってるんだ!?」

何が『なるほど』なのか俺は聞きたい。

C「何が『なるほど』なんだよ。いくら人が居ないって言っても、勝手に入ったら不法侵入だろ?」

Cが聞いてくれた。しかもインテリな質問 付きで。

B「いーじゃん。バレなきゃダイジョーブでしょ」

A「(俺)くんも暇なんだよね、皆で探索しよーよ」

俺「そうだな」

めんどくせ~。と思ったことは内緒だ。

ノリ悪いと思われたくないし…。

C「捕まっても知らないからな」

ノリの悪いヤツを発見した。

でも何だかんだ言いながら、結局 皆で行くことになった。

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噂の家はしばらく歩いたところにある、自然 豊かな場所らしい。

俺達は静かな住宅街を通り抜け、入り組んだ所から拓けた場所に出た。

そこに、噂のその家があった。

A「こんなところに こんな大きな家があるなんて…。なんか意外」

C「地価が安いんだろ。森の中の住宅街だからな」

俺「それにしても大きいよな?もうこれは豪邸のレベルかもしれんぞ」

B「これが凸凹さんちかー、なんかスゴい!カッコ良くない!?」

なんでテンション上がってるんですか?この女は。

あんま興味ないけど俺は応える。

俺「デザインはいいね」

本当は思ってもないけど。

C「俺は、もうちょっとシンプルな方が好きだな」

確かに、かなりおかしな形だ。

豪邸とまでは いかないものの2階建てではなく、やけに平らに広い屋敷のようだった。

無数の四角い石が屋上に並んでいるからだろうか?確かにデコボコはしているようだ。

B「アンタの好みは聞いてないの。入っちゃおーよ」

俺「そーだな」

と言うと同時に表札が目に入った。

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【 凸凹丸 】

 

俺「なんだこりゃ。何て読むんだ」

A「『でこぼこまる』かな?」

どこまで デコボコ なんだよ、いい加減にしろよ。と俺は思った。

C「『あいまる』だよ。多分ね」

B「そんなの よく知ってるね!?」

C「珍しい名字が好きでね。まさか本当に居るとは思わなかったけど」

お前こそ違う趣味 持て!と俺は本気で思った。

B「だから『凸凹さん』なんじゃない?ほら、家の形じゃなくてさ!」

俺「そういうことか。確かに、思ったほどデコボコでもなかったしな」

俺達は広い庭を通り過ぎ、玄関であろう大きな扉の前に俺たちは立った。

C「デカいな、この扉」

A「なんか、圧迫感あるよね…」

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ギィー、バタン!

 

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俺たちは屋敷に侵入した。

これが地獄の始まりだった。

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A「天井 高いねー」

B「本当に人は住んでないんだ…」

C「いやいや、住んでたら俺たち住居侵入罪だよ。危ない危ない」

住んでなくても不法侵入じゃなかったのかよ。

A「でも本当に広い屋敷ね。将来 こんな家に住みたいなー」

C「固定資産税が高くなるだけだ。それに清掃も大変だし召使いを雇う人件費も必要だ」

夢も希望もない男だ。

B「まぁ、とりあえずは色々 回ってみよーよ」

玄関のあるメインフロアは3つの部屋に繋がっているみたいだ。

俺達は玄関から見て左の部屋に行ってみた。

その部屋は中央に大きな四角い柱があり、何故か花束がいっぱい並んでいた。

俺「なんだこりゃ、センスもへったくれもねぇーな」

花は花瓶に刺さっているもの、単体で置いてあるもの、花束で置いてあるもの等で統一性がなく、バラバラだった。

しかも、枯れているものがほとんどだ。

C「そうだな。少しは整頓してほしいものだ」

花の部屋は隣の部屋に繋がっているみたいなので、隣にも行ってみる。

A「なんかこの部屋…、独特の臭いしない?」

俺「だな。何の臭いだろう?」

B「線香?」

確かに。線香の臭いが立ち込めていた。

C「あ。よく見たら線香 落ちてんじゃん。ちゃんとみてから言えよ(笑)」

お前も今「あ。」って言っただろ。

確かに、使用してないものが所々に落ちていた。

B「ねぇ、あれ何?」

俺「ん?なんだ?紙?」

奥に続く扉の壁に、切り取られた貼り紙が打ち付けられている。

その紙の1枚1枚にカタカナで文字が書かれていた。

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【デ】【コ】【ボ】【コ】【サ】【ン】【チ】【ヲ】【ノ】【チ】【ツ】【ク】【ル】

 

 

俺「『凸凹サンチヲ、後 造ル』?意味わかんなくね?」

B「家を後で建てるってこと?でも凸凹さんちってこの家だよね?」

C「自分の家を建てた後に こんなの貼り付けて、何の意味があるんだろうな?」

A「う~ん。意味深だけど、なんか不気味…」

しかし 他に目を引くものはなかったので、俺達は先に進むことにした。

線香の部屋は4つの部屋に繋がっているみたいだ。

花の部屋とメインフロア、残りの2つは何だろう?

とりあえず俺達は玄関の右側の扉に繋がってそうな、貼り紙のある扉じゃない方の部屋に行ってみる。

俺「なんだコリャ!?」

C「これはヒドいな…」

部屋全体が水びたしだった。

B「やだ~、靴の中まで染みちゃった!」

A「戻ろうよ~」

C「いやいや。玄関まで繋がってるか、確かめなければ」

お前どんだけ頭 固いんだよ…。と俺は思った。

B「私たちは引き返すからね!」

C「じゃあ、俺たちは進もうか」

!!

「俺も!?」と 思ったけど、

俺「あぁ」

と短く応えた。

本当は「俺も!?」って思ったけど…。

この部屋も『花の部屋』と同様に、中央に大きな四角い柱があった。

俺はCと共に水びたしの部屋を通り抜け、先にある扉を開けた。

俺の靴底は非常に薄く、俺の靴の中はビチャビチャになった。

そんな俺の靴事情をよそに、扉の先は案の定 玄関のあるメインフロアだった。

C「やはり、こーゆーことか…」

いや、お前以外の皆 この家の配置は分かってたから。

俺の靴の乾きを返せ。と思った。

俺「ちょっと外で靴 乾かすわ~。つーかテンション下がったから、そのまま帰ろっかな(笑)」

C「帰れ帰れ(笑)」

と言われたので。

俺「かーえろ♪」

と冗談を言いながら玄関に手を掛けた。

俺「あれ?開かない」

C「はぁ?んな訳ないだろ、俺たちここから入って来たんだぞ」

俺「いや、でも…」

いくら押しても引いても、ウンともスンともいわなかった。

そして、、、

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「キャ―――――!!!」

 

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俺「!!!」

正面の扉から悲鳴が聞こえた。

C「なんだ!?どうした!!?」

恐らく『線香の部屋』、つまりAとBが引き返した方向だ。

扉が開いた。

Aが出てきた。

必死で、四つん這いで、Aは出てきた。

そして、俺達に駆け寄る。

Bは出てこない。

『線香の部屋』は目を疑うような光景だった。

2人の老人が佇んでいた。

俺にはその老人達が、どう見ても人間に見えない。

妖怪か怪人にしか見えない。

2mはあるだろうか…、4頭身ぐらいで頭も妙にデカい。

眼球は真っ白。口角が妙に上がっており、不気味な笑みを浮かべるいる。

爺は片手にバットのような鈍器を、

婆は両手に包丁のような刃物を持ち、

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そして―――

 

床にはBの肉片が、ズタズタに切り裂かれて転がっていた。

四肢が切断され、首も胴体から切り離されており、その胴体からは腸もつが散乱している。

扉の中の更に向こうの扉が開いている。

『線香の部屋』の張り紙の文字が打ち付けてあった扉だ。

この老人達は、あそこから出てきたのだろうか?

A「うぅ、Bちゃん…」

Aはガタガタと身を震わしていた。

俺「なん…だよ、コイツら」

そして老人達は、意味の分からない言葉を口走る。

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《 凸ルッテ? 》

《 凹ルッテ? 》

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C「と…、とにかく逃げるぞ!!!」

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《 デ コ ル ―――!!! 》

《 ボ コ ル ―――!!! 》

 

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俺「うわぁーー!!」

Cは『水びたしの部屋』に逃げ、俺はAの腕を引っ張って『花の部屋』へ逃げた。

ヤバい。

奴らは2人。

挟み撃ちされれば一貫の終わりだ。

そう思った俺は、『花の部屋』にある柱の後ろに、Aと2人して隠れる判断をした。

メインフロアから追い掛けて来た。

婆の方だ。

《 ヒヒッ、凸ルッテ? 》

Aはまだ震えている。

俺はAが声を出さないように口を塞ぎ、息を殺しながら婆を覗いていた。

手に持っている刃物には、Bの生々しい血がベットリとこびり付いていた。

コイツがBを…。

婆は『花の部屋』を通り過ぎ、『線香の部屋』へと入って行った。

その隙に俺はAを連れて、どちらにも逃げれるメインフロアに戻った。

また、玄関の鍵を開けようと試みる。

A「何してんの!?早く開けてよ!!」

俺「何しても開かねぇんだよ!このドア!」

A「ウソでしょ!?どうすんのよ!!!?」

俺「知らねぇーよ!!それより、何なんだよアイツら!?お前ら、何したんだよ!?」

A「わかんないよ!Bちゃんと張り紙の下の扉 開けたらっ!アイツらが居て…!Bちゃんが…!」

《 凸ルッテ!?ヒヒヒ!ドウ!? 》

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!!!

 

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見つかった!

しかも奴が向かった『線香の部屋』からではなく、『花の部屋』から出てきた。

Aだけは、好きな女だけは守らなきゃ!そう思った俺は、

俺「行くぞ、A!」

と言って『線香の部屋』へ行こうとしたが、Bの斬殺死体があるせいか、

A「イヤだよ!そっちには行かない!!」

と言ってAは俺の手を引っ張り、『水びたしの部屋』に向かって走った。

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《 キィ―――!! 》

 

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後ろから婆が追い掛けて来る。

水びたしの部屋に入ると、Cが中央の柱を利用しながら爺から逃げ惑い、籠城していた。

C「(俺)!A!来るな!」

俺「無理だ!後ろからも…、婆が来てる!」

Aが必死で内側から扉を押さえ付けていた。

《 凹ルッテ?ケケケ 》

ヤバい、爺が標的をこっちに変えようとしてる。

少しでも距離を詰められたら、もう逃げられない。

C「お前らも、何とかこっち側に来い!」

俺はAの手を引っ張って、Cの居る側の柱に向かった。

と同時に爺がこちらに間合いを詰め寄って来た!

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《 ケッケ!凹ルッテ! 》

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俺「クソォ――!!」

俺はAを引っ張りながら全力でCのいる柱まで走った。

俺は何とか爺に追いつかれる前に、柱まで辿り着いた。

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ゴッッ!!!

 

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鈍い音と同時に手を繋いでいた俺の右手が、何故か後ろに引っ張られた。

俺はつい、手を離してしまう。

俺「A!?」

振り向いた先に映った光景は、脳天から血を噴き出しながら倒れるAの姿だった。

俺「A!!!」

C「(俺)!Aはもうダメだ!!」

Cは俺の手を掴んで『線香の部屋』へと引っ張り走った。

俺「イヤだ――――!!!」

引っ張られながらも俺は、Aの最期が目に映る。

爺の持つ鈍器が手加減なく、何度も何度もAの身体を打ち付けていた。

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ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!

 

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鈍い音が無情に響く。

何度も何度も何度も何度も…。

向こうのドアから入って来た婆が、目に映る。

そしてAの最期も、目に映る。

血や脳髄が飛び散っている姿がAなんだと――、俺には分からなかった。

頭部が原型を留めていないのがAなんだと――、俺には分からなかった。

あれが俺の好きな女なんだと――、俺には分からなかった。

俺は一瞬、ほんの一瞬だけAの顔を、好きな女の顔を思い出せなくなっていた。

でも、Aは死んだ。

俺が好きだった女はたった今 死んだ。

俺は泣きながら、叫びながら、ただ何かを喚いていた。

そんな俺をCは引っ張る。

そんな俺を生かそうと。

俺の見苦しい喚き声が部屋に響く。

――だがそれ以上に、

振り下ろされる鈍い音が、俺の心に鳴り響いた。

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Cに連れらて『線香の部屋』に来た俺は、半ば放心状態だった。

C「おい!(俺)!いい加減に目を覚ませ!今の状況 分かってんのか!?」

俺「分かんねぇ…。何がどうなってんだよ。教えてくれよ…」

C「俺にも分かんねぇよ!ただこのままじゃ本当に殺さるぞ…」

確かに俺達には、人の死をどうこう言ってる余裕はない。

俺は「すまない…」と一言 言って、気を引き締めた。

Aが死んで気が動転していた俺も、落ち着きを取り戻さなければ殺されることは理解していた。

そして俺とCは『線香の部屋』で妙なことに気付く。

C「さっきからBの姿がないんだ…」

婆に殺されたであろうBの遺体が、血溜りだけを残して無くなっていた。

俺「本当だ!どこに行ったんだ!?」

C「アイツらはすぐ隣にいるんだ。とりあえず『花の部屋』まで逃げよう」

俺「わかった」

と言いつつも、俺はヤツらが出てきた張り紙の部屋が気になっていた。

花の部屋に行くと、そこは凄惨な光景だった。

切断されたBの身体が、まるで生け花のように飾られていたのだ。

目が半開きになっている頭部を中心に、奥には胴体が置かれ、周りには両手両足、それらを腸でぐるぐると巻かれていた。

俺はあまりにも酷すぎて、その場で吐いてしまった。

C「よくも…」

Cは らしくもなく、怒りの表情を露わにしている。

俺は知っている。CはBのことが好きだったんだ。

もともと暗い性格だったCは、天真爛漫なBのことが好きだったことを俺は知っていた。

Cの目からは涙が出ていた。

C「絶対 許さない!」

俺「C、今度はお前が自分を見失ってるぞ」

俺は自分に言い聞かすように言った。

俺「俺もさっきはAのことで頭が真っ白だった。でも俺達 両方が両方、自分を見失ったら終わりだ。こんな時こそ冷静な判断が必要なんだろ!?」

C「そうだな。死んだ2人の為にも、この場をどうにかしないと…」

俺「…」

C「…」

俺「アイツら、来ないな…」

C「…」

俺「…」

C「俺、思ったんだけど…」

俺「なんだよ?」

C「あくまで仮定の話なんだけど、」

Cはもったい付けて話した。

C「『紙の部屋』からアイツらが出て来た訳だろ?もし仮にB達が開けるまで、あの部屋から何かしらの作用があって出られなかったんだとしたら…」

俺「なんだよ…。『封印』でもされてたってことか?」

C「お前だったら閉じ込められてた場所に、もう一度 入りたいと思うか?」

俺「思わないな」

C「もしかしたら『紙の部屋』には、アイツら入って来ないかもしれないぞ」

俺「確かに。もし入って来ても、もう一度 閉じ込めれば封印できるのかもしれないしな」

安易だった。

あくまで仮定の話だった。

しかし俺達には今、これしか望みがなかったのは確かだった。

俺「しかしアイツら、来ないな」

C「今の内に『紙の部屋』がどうなってるのか調べられないか!?」

俺「そうだな…。行ってみよう!俺達はもう、やるしかないんだ!」

俺達は見つからないように『紙の部屋』へと近づく。

カタカナの紙の文字が一層 不気味に見え、異様な空気を醸し出しながら扉が開かれていた。

俺達はアイツらが来ないことを祈りつつ、『紙の部屋』へと足を踏み入れた。

音も立てず、静かに扉を閉める。

俺は『封印』なんてものを、本当は信じていない。

信じてないし、随分と現実味のない言葉だ。

しかし、これほど非現実的なことが起こっている現状、俺は藁をもすがる気持ちだったのだろう。

もしこの部屋でやれることがあるとすれば、この部屋の構造・配置を確認し、見つからない場所に隠れる。

ヤツらをおびき寄せ、見つからないように部屋を飛び出し、扉を閉める。

おびき寄せても来ないようであれば、ヤツらはこの部屋には入ってこれない算段が高くなる。

閉じ込めることで封印できるだなんて思っていない。

しかし今の俺達には、こんなことしか出来ないだろう。

「ヤツらがこの部屋から出られない」という仮定の話が本当であることを祈って、可能性の低いことに命を賭けるしか方法が見つからない。

『紙の部屋』は部屋の中も色んな紙が散乱していた。

ただ それ以上におぞましい光景が、壁のいたる所に古い血がこびり付いていたことだ。

C「不気味な部屋だな」

俺「あぁ、そうだな。造りも変だ。奥の方が随分と狭いな…」

俺は恐怖ながらも、部屋の奥へと歩を進めた。

その時、一枚の紙が目に付いた。

C「どうした?」

俺「いや、なんかこの紙 気になって…」

俺は一枚のA4用紙を拾った。

俺「この文字、どこかで…」

その時だった。

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ギィー。

後ろの扉が開いた。

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《 凸ルッテ、ナニ? 》

《 凹ルッテ、ナニ? 》

 

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こんなにすぐに入って来たことに、

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俺は頭の中が真っ白になった。

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人間離れした爺婆。

真っ白な眼球。

不気味に上がった口角。

大きな頭。

Aが殺された時の光景が―― 刹那、思い出される。

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俺・C「うわぁ――――――!!!!」

 

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パニックになった俺は、部屋の奥へと走っていった。

Cも俺に続いて走る。

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《 デ コ ル ―――!!! 》

《 ボ コ ル ―――!!! 》

 

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奥まで走ると、天井に向かって伸びるハシゴが掛かっていた。

俺がハシゴに手を掛けたその時だった。

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「がっっっ!!」

 

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振り返ると、血を噴き出しながら倒れるCの姿が映った。

既にCの片脚が無かった。

俺の目には、何故か涙が溜まっていた。

Cとの別れを諭したかのように。

倒れたCの腕を、婆が刃物で切断し始めた。

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C「あ――――――っ!!!!!!!!」

 

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悲痛な叫びが響く。

爺の方が、俺に向かって来た。

俺はCの命を諦めた。

ヤツらが怖かった。

ただ単純に怖かった。

俺はCに構わずハシゴを登る。

爺はゆっくりと俺に向かって来た。

俺は焦りながら天井に到着した。

天井には人1人が通れそうな大きさの長方形の線があり、上から何かで抑えられている感じだった。

力いっぱい押し上げた。

すると、上に乗っかってる何かが前に倒れた。

最後に振り返る。

爺が不気味に笑っていた。

倒れてるCと目が合った気がした。

助けを求めているように感じた。

文句を言いたげにも思えた。

笑ってるようにも見えた。

婆が両手に持ってる刃物を振りかざし、Cをズタズタに切り刻み始めた。

Cはもう叫びもしない。

ただ切り刻まれるままだった。

不気味に笑ってた爺が、急に飛び掛かる勢いで俺に向かってきた。

俺「うわ――!!」

俺は急いでハシゴを登る。

爺が鈍器を振りかざす。

このままじゃ、脚が持っていかれる!

そう感じた俺は間一髪の所で地上に飛び出し、自分の脚を引っ込めた。

そう、登りきった先は地上だったのだ。

そして自分が飛び出した通路の前に、大きな石が倒れていた。

たぶん、上から抑えていた物だ。

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俺「クッッッソーーーーーー!!!!!」

かなり重い。でも火事場の馬鹿力だったのだろう。

俺は爺が来る前に、倒れた重石を再び起き上がらせるようにして穴を塞いだ。

俺「ヤッタ!ヤッタぞ!!!」

だが 次の瞬間、その重石の文字を見て俺は腰を抜かした。

俺「えっ!?」

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墓石だった。

 

 

その石には【 凸凹丸家之墓 】と刻まれていた。

ヤツらは追って来なかった。

辺りを見渡してみる。

そこは 只の、だだっ広い丘だった。

俺達が入った屋敷など存在しない。

あるのは屋上に見えた無数の四角い石のように――、墓石が並んであるだけだった。

ある墓には枯れた花が積まれており――、

ある墓には燃え残った線香が置かれており――、

ある墓には大量に水の撒かれた跡があった。

混乱はしていなかった。

ただ茫然としていた。

俺の頭は考えることを放棄していた。

冷たい風が耳をかすめる。

服のどこかにしまったらしい、あの時 拾った用紙が落ちた。

俺「これ、あの時の…」

そうか、なるほど…。

これは『紙の部屋』の前に張り付けられた文字と一緒だったのか。

それは誰にでも作れそうな、至極 簡単な文書だった。

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――――――――――――――――

 

      ケイヤクショ

 

  ココノサンチデ、ボチヲツクル

 

          ○○シヤクショ

 

――――――――――――――――

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あれから一週間が経ち、俺は学校に顔を出した。

死んだ3人は行方不明者として警察に捜索され始めたが、皆目 見つからないらしい。

俺は何度も警察から事情聴取をされたが、いくら本当のことを話したところで信じてはくれなかった。

挙げ句の果てに、俺がA・B・Cの3人に何かをやったんじゃないか?という見方まで出てくる始末。

でも、仕方のないことなのだろう。

なんせ俺が警察に話した屋敷は、俺が示した場所には存在しないのだから。

あるのは、ほとんど整備されてない墓地だけだったのだという。

学校の奴らも、俺を心配してくれる人間の方が少ない。

AとBとCが行方不明になってる中で、1人だけ帰ってきていることに不信感を抱いているのだろう。

無理のないことなのかもしれない。

そんな中で1人だけ、俺に声を掛けてくれた物好きな奴がいた。

そいつを仮にD(♂)としよう。

Dは噂好きで、『凸凹さん』の噂にも詳しいらしい。

D「なぁなぁお前、凸凹さんの屋敷に入ったって本当かよ!?」

俺「お前、知ってんのかよ?」

D「学校で噂になってんだよ」

もうかよ、って思った。

D「もし良かったら お前の体験したことを、俺に聞かせてくれないか!?」

俺はあまり この一件を他言する気はなかった。

どうしても、殺された3人の顔を思い出してしまうからだ。

俺の好きだったAは、助けることができずに撲殺された。

最初に解体されたBは、肉片を生花のように飾られていた。

脱出する一歩手前で捕まったCも、俺の目の前で斬殺された。

俺「俺はこう見えても、結構 傷ついてんだよ。噂好きも大概にしとけよ」

俺は席を立った。

D「怒んないでくれよ!実はさ、俺も その話に興味があって、色々 調べたことがあったんだよ!お前は知りたくないのか!?この一件のことを!」

Dは興味本位かもしれないが、話し掛けてはくれている。

もしかしたら、俺の知らない情報を教えに来てくれたのかもしれない。

と 俺は思い、少し考え直した。

何故なら、俺は やはり気になっていたからだ。

あの老人達、ヤツらは一体 何者なのか?

何故 A達は、殺されなければならなかったのか。

この一件の真相を知ること、

真実を知ること、

それがアイツら3人への、せめてもの供養なんじゃないかと俺は思った。

俺は席に戻る。

俺「分かった。その代わり、お前の知ってることも全部 話せよ」

D「わかったよ」

俺「その前に聞きたい。俺の噂って どーゆー話になってんだ?」

D「『本当にあの屋敷に入った奴がいる』って話だよ」

俺「どーゆーことだよ、まるで入れないことが前提みたいな噂じゃねーか」

D「…。お前、本当は凸凹さんの話をちゃんと知らないだろ?」

俺「俺も又聞きだからな」

Dの言うことは図星だった。

俺「たしか俺が聞いたのは『外装がデコボコしてる面白い家があって、今は誰も住んでない』って噂だった。だから皆で行ってみよう って話になったんだ」

D「それは話が ねじ曲がった後の噂だな。元々の話は全然違うんだ」

俺「じゃあ、最初は どーゆー話だったんだよ?」

D「そうだな。その話をする前に まず――、あの地域に まつわる話から始めよう」

今度はDが語り始める。

D「あそこは近隣の人達から『撤去してほしい』と懇願されるほど不気味な墓地があるんだ。普通、墓地ってのは供養できるように近くに寺や神社があったりと、何かしらの管理がされているものなんだ。でもそこは管理はおろか、ろくに整備もされてなかったらしい」

俺「なんでだ?」

D「ある悪徳業者が設けたものらしいぜ。それで整備も整理も整頓も、何も成されていない、ほったらかしのデコボコな墓地が丘の上に出来上がってしまったんだよ」

俺「それがどう ねじ曲がって、あぁいった噂になるんだよ」

D「あの場所のこと、お前らは何て言ってた?」

俺「『凸凹さんち』だ」

D「その発音じゃ凸凹さんの家ってことだろ?よく間違われてるようだけど、違うんだ。『凸凹山地』だよ。整備されてない不気味な墓場を、近隣の人達が忌み嫌ってそう名付けたのさ」

俺「じゃあ噂になってた『凸凹さんち』ってのは、本当は『凸凹山地』っていう整備されてない墓地のことだったってことか」

D「いや、噂の元は別にあって…、俺が知りたいのは その先なんだよ」

俺「どーゆーことだよ…」

D「最近 奇妙な目撃情報があって、」

Dは言葉を探すように話した。

D「お前が言ってた屋敷だよ。本来あるはずのない家が、凸凹山地で度々 目撃されるようになったんだ」

俺達が入った、あの屋敷のことか…。

D「つまりはだ。俺が一番 最初に聞いた噂はこうだった、『凸凹山地に屋敷が存在する。そこに家なんて無いはずなのに』って。でも、それがいつの間にか『凸凹さんちという名前の屋敷がある。そこには誰も住んでいない』って、ねじ曲がった噂になっていったんだよ」

俺「なるほど。そして俺達はその屋敷に入った、って訳か…」

D「やっぱり、お前ら屋敷の中に入ったんだな!?」

俺「声がデケーよ…」

D「ここから先の話は、お前の体験と照らし合わせたいんだよ!頼む、お前の話、聞かせてくれ!」

俺「分かったよ、こっちからも頼むわ。声小さくしてくれ」

俺は あの日の出来事を話した。

一片の隠し立てもなく、洗いざらい全て話した。

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流石のDも黙り込み、困惑の色を隠せない様子だった。

D「…。マジかよ。半端ねぇな…」

俺「信じてもらえねーとは思うけどよ、他の誰にも言うんじゃねーぞ」

D「俺は信じるよ!」

俺「頼むから声を小さくしてくれ…」

D「しかし、あれだな。その爺と婆、もしソイツらが本当に『凸凹さん』なんだとしたら、俺の中では全てが繋がった気がするよ」

俺「どーゆーことだよ?お前、まだ何か知ってるんだろ?教えろよ」

D「凸凹山地が出来るまでの話なんだが、」

Dは話し始めた。

D「あの丘は元々、ある老夫婦の所有地だったらしいんだ」

俺「地主ってヤツか?」

D「あぁ。でも、ある業者があの丘に『墓地を設けたい』って老夫婦に申し出たんだ」

俺「さっき話した悪徳業者か?」

D「そうだ」

俺「でも何で墓地なんだ?」

D「さぁな。悪徳業者の考えることは分かんねーよ。ただ俺らに近い年代の、若い奴らだけで結成された組織らしい」

俺「ふ~ん」

D「でもあの土地は老夫婦が新しい家を建てる予定だったんだとか。そこで組織の人間は、土地の権利が 市 に移ったんだと老夫婦に取り立てに来たんだ。それが恐らく、お前が最後に 紙の部屋 で拾った書類の内容だよ」

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【 ココノサンチデ、ボチヲツクル 】

(此処ノ山地デ、墓地ヲ作ル)

 

と記載した契約書。

明らかに粗悪な偽物の書類。

なぜ全てカタカナにしたのかと言うと、その方が どういう訳か老人達は信じ込み易いんだとか。

でも その老人は耄碌(もうろく)したのか、契約書が偽物だって気付いたのか、

爺「これ、こうじゃないかぇ?」

と言いながら契約書をビリビリに破り、文字を並べ変えた。

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【デ】【コ】【ボ】【コ】【サ】【ン】【チ】【ヲ】【ノ】【チ】【ツ】【ク】【ル】

(凸凹サンチヲ、後 造ル)

 

と。

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若「デコボコさんだと?」

爺「わしらは そう呼ばれとるもんで」

笑いながら そう答える老夫婦に頭に来た若者達は、

若「じゃあ、お望み通り凸凹さんにしてやるよ。どっちが凸で、どっちが凹よ?」

と、質問を投げかける。

意味が分からなかった老夫婦は、

婆「何かしてくれるのかぇ?助かるねぇ~」

というようなことを言ったらしい。

若者達は最初から、話が拗れるようであれば老夫婦を殺すつもりだったんだとか。

若「じゃあ 婆を凸(デコ)るから、爺は凹(ボコ)ることにすんよ」

こうして若者達は、老夫婦が死に至るまで執拗な拷問を始めたんだという。

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凸る(デコる)とは若者言葉でデコレーション(飾り)を意味するが、彼らは刃物で婆を斬殺した後にバラバラに解体した肉片を生け花のように飾り付けたらしい。

凹る(ボコる)とは言葉の通り ボコボコになるまで酷く殴りつけることだが、若者達は金属バット等の鈍器を使って爺を撲殺したらしい。

無論 老人達にその言葉は通じなかった。

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拷問をしている間、若者達の「凸(デコ)ってやるよ!」「凹(ボコ)ってやるよ!」という声と、老夫婦の「許してくれぇ」という すすり泣く声が絶えなかったという。

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俺「ヒデェ話だな…」

D「あぁ。結局 老夫婦の遺体は見つからず『失踪』扱いになって、その土地は凸凹山地と呼ばれる墓地に変わったんだ」

俺「じゃあ 悪徳業者の若者達に殺された老夫婦は、凸凹山地にその遺体を埋められたんだな。それが あの場所で怨念となって現れたのが…」

D「そう、それが『凸凹さん』だ。凸凹さんは時々 自分達が殺された時と同じように嬲り殺しする為に、若者達を おびき寄せてるらしい」

俺「それが俺の入った屋敷って訳だ」

D「普通なら信じられねーような話だけどな」

でも、俺は信じるしかなかった。

何せ、その怪異に遭遇した本人なのだから。

D「まぁ俺も あたかも知ってるように話したけど、人から聞いただけなんだ。噂はあくまで噂、どこまで本当のことか分かんねーよ」

俺「そうか…。………。あの屋敷って、老夫婦が建てる予定だった屋敷なのかな?」

D「さぁな?俺は話に聞いただけだからな、何とも言えねーよ」

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『 凸凹サンチヲ、後 造ル 』か…。

あれは、殺された老夫婦の描いた夢だったんじゃないだろうか?

その夢を悪徳業者に邪魔され、若者達に『凸る』や『凹る』等の理解できない言葉を浴びせられながら嬲り殺しにされた。

そして、本来 建てるはずだったあの屋敷が怨みの形となって、墓地であるはずの凸凹山地に具現化された。

そしてA達は――、殺されてしまった。

そう 思ってた時だ。

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D「――ただ、俺はこの噂を聞いて、何で老夫婦が『デコボコさん』なんて呼ばれてたのか意味が分からなかったんだけど、ようやく理解できたよ」

俺「まぁ、あの名字だからな。愛称で デコボコさん とか呼ばれてたんだろう」

D「しかし、凸凹丸(あいまる)ねー…」

俺「本当、珍しいよな」

D「キラキラネームが流行ってる ご時世だから名前なら まだ分かるけど、名字で凸凹丸(あいまる)なんて普通あるか?」

俺「…。あんだろ普通に。世の中『こんな読み方すんのか』って名字ばっかだぞ」

D「…。今 調べてみようぜ」

Dは携帯をいじり始めた。

俺「調べるまでもねぇだろ。墓石にそう書いてあったんだから」

D「それがおかしんだって。何で失踪 扱いされてる人間の墓石があんだよ。墓があるってことは死亡が確認されてるってことだろ?何か矛盾してないか?」

俺「でもよ…」

Dは携帯を見て固まった。

D「おい、あったぞ。『凸凹丸(あいまる)』。―― 幽霊名字だって」

俺「嘘だろ…」

D「いや嘘じゃねーよ、見てみろよ」

俺はDの開いているサイトを見た。

確かに『凸凹丸(あいまる)』は幽霊名字に指定されていた。

俺「信じられるかよ…。幽霊名字?幽霊名字だって!?」

D「あぁ。『凸凹丸』なんて名字の人は、最初から存在しなかったってことになる。凸凹さんの噂も全部、誰かが でっち上げた作り話かもしれない。つまり俺達の今までの考察は、何の意味も無かったってことに…」

俺「ふざけんな!」

俺の中で何かが溢れ返る。

俺「だったら、Aは!?Bは!?Cは!?一体 何に殺されたんだよ!」

俺は机をバシッ!と叩く。

今度は俺が声を荒らげてしまった。

俺「幽霊名字!?意味 分かんねぇよ!辻褄が合わねーだろ!じゃあ 俺が今まで見たものは何だったんだよ!なんでアイツら殺されなきゃいけなかったんだよ!」

D「おい、落ち着けよ」

俺「落ち着いてられるか!友達が死んだんだぞ!訳も分からず!しかも俺のせいなんだ!俺があの時『面白いことないのか』なんて言わなきゃ、アイツらが死ぬことなんてなかったんだ!せめてアイツらが死んだ理由くらい、真相くらい、俺は知るべきなんだよ!」

俺の中の何かが爆発した。

知らず知らずの内に、心に溜め込んでいたものが溢れ出した。

クラスの何人かが こっちを見ている。

そんなことすらどうでもいいくらい、頭の中が真っ白になった。

D「真相が知りたいんなら、行くしかないだろ。凸凹山地 に」

俺「あんなとこ、二度と行きたくねーよ…」

D「真相、知りたくねーのかよ…」

俺「…」

D「もし幽霊名字じゃないってんなら、真相に近づけるんだろ?」

俺「そんなこと…、分かんねぇよ」

D「…」

俺「…」

D「わかった。俺も行く。だったらどうだ?」

俺「……。……。わかったよ。じゃあ、一緒に頼むわ…」

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俺は本当に二度と、あの場所には行きたくなかった。

正直、あの場所は怖い。

でも俺には これ以上、自力で真実を追求できる自信がなかった。

俺達は――、凸凹山地に訪れた。

あの時のように、俺の目の前に屋敷は現れなかった。

あるのは だだっ広い丘だけ。

ただ点々と、整備されてない墓石が並んでいた。

俺はDを あの墓石のある場所まで案内した。

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しかし――、

 

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D「で、どこだよ。凸凹丸さんち の墓は…」

俺「ここだよ」

墓石があったはずの場所に立つ。

D「…。何もねーじゃねーか…」

あの墓石は まるで初めから無かったかのように、その場から消えていた。

俺は膝から崩れ落ちる。

D「本当、何がどうなってんだろうな…」

あの時と同じように、冷たい風が頬をかすめた。

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D「あのよー、別にお前のせい とかじゃねーと思うよ。誰も悪くない、ここまでの話を聞いてる限りはよ?確かにお前ら、そこまで悪いことはしてねーと思うし、」

その時、Dは俺を慰めたつもりだったんだろう。

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D「たまたま、怪奇現象に遭遇しちまっただけだよ。『屋敷に侵入した』とか『封印を解いた』とか『若者だった』とかに関係なく、ただ単純に――、」

でもその言葉が、俺には一番 残酷に聞こえた。

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「 運が悪かった だけじゃねーのか? 」

 

 

 

 

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Dは言う。

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噂も、大抵が曖昧なんだと。

話も、大体は推測なんだと。

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真相かどうか、根拠なんて ほとんど無い。

真実かどうか、証拠なんて カケラも無い。

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『 誰のせいでもない 』

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『 何が原因でもない 』

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ただ 運悪く――、怪奇現象に見舞われただけ。

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それが今 出せる、何一つ根拠も証拠も無い、真相も真実も見出せない、適当で曖昧な唯一の推測だった。

 

 

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俺の心の中は空っぽだ。

俺の頭の中は真っ白だ。

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まるで走馬灯のように、

さながら回想シーンのように、

事件の情景が、脳内を駆け巡った。

 

 

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――もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

 

俺「なんだこりゃ。何て読むんだ」

A「『でこぼこまる』かな?」

C「『あいまる』だよ。多分ね」

B「だから『凸凹さん』なんじゃない?ほら、家の形じゃなくてさ!」

 

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――もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

 

俺「『凸凹サンチヲ、後 造ル』?意味わかんなくね?」

B「家を後で建てるってこと?でも凸凹さんちってこの家だよね?」

C「自分の家を建てた後に こんなの貼り付けて、何の意味があるんだろうな?」

 

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――もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

 

俺「悪徳業者の若者達に殺された老夫婦が、あの場所で怨念となって現れたのが…」

D「それが『凸凹さん』だ。凸凹さんは時々 自分達が殺された時と同じように嬲り殺しする為に、若者達を おびき寄せてるらしい」

俺「それが俺の入った屋敷って訳だ」

 

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――もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

 

若「デコボコさんだと?」

爺「わしらは そう呼ばれとるもんで」

 

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もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

《 凸ルッテ? 》

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

《 凹ルッテ? 》

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

【 凸凹丸家之墓 】

 

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もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら、

もし本当に 凸凹丸 が幽霊名字だったら――、

 

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全ての辻褄が合わなくなる。

 

 

 

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あの表札は何だったんだろう?

あの墓石は何だったんだろう?

あの屋敷は何だったんだろう?

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あの日 一体、

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何が起こり、

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何故 襲われ、

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何の為に友達が死んだのか、

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もうすぐで全ての理由が分かりそうなところで、

全てが分からなくなった。

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俺は在るはずのない屋敷には辿り着いたが、

事の真相には――、辿り着けなかった。

 

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この一件、

何が原因で、

何に襲われ、

何に殺されたのか、

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本当のところは、

一切の真相に触れることなく、

静かに幕を下ろした。

 

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【 幽霊名字 】 ― 実際には実在しない名字

Concrete
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実際に不可思議な現象に遭遇した人は、こんな感じで曖昧な終わりになるんだろうなと思えるぐらい引き込まれました。

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