中編3
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死んだバンドのライヴ

僕は大のロック好きで、とくに地元のミュージシャンを大切にする。そのためにTwitterで専用のアカウントを作り、日頃から地元のシンガーやバンドとつながって交流している。

そんな僕に、どこでつながったのか見知らぬバンドからDMが来た。

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「こんにちは、雑魚野(僕の地元)で活動してるバンド、FX/ADです!

明日クアトロ雑魚野でライヴします!

open17:00/start17:30

1000yen(1D500yen)

よろしくお願いします!」

こんなバンドあったっけ?なんてことは置いといて、超地元だ。しかもクアトロ雑魚野でライヴできるのは相当なレベルのバンドだ。行かないわけがない。

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僕はその日、クアトロ雑魚野へ車を飛ばした。

しかし…オープン時刻の17時00分0を1、2分過ぎて到着してしまったにも関わらず、駐車場には1台も車が停まっていない。

「おかしいなー」と独りごつ。

 

その瞬間、ドアが開いた。

sound:26

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「こんにちはーー!待ってました!!」

金髪の男が満面の笑みを浮かべて出てくる。

これは僕のためのサプライズ…?そんなわけない。こんなバンド知らないし、ましてや僕の誕生日でもない。

当然、オーディエンスは僕一人だ。入場料はたった1500円。こんなことしたら間違いなく大赤字だ。

「いいから、入って入って!!」

他のメンバーなのか、黒髪ロン毛の男も僕の背中を押すように会場に入れた。

メンバーが準備している間、スクリーンにメンバーたちの楽しそうな思い出写真のスライドショーが流れた。

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そして10分後くらいに幕が開いた。

「今日はありがとーう!最高のFX/ADやりまーす!」

全身真っ黒のギタリストがギターを掻き鳴らして煽る。

ドアを開けた金髪はヴォーカルだ。

ガタイのいいタンクトップのドラマーがスティックを交差させて4回叩くとギター、ベースが爆音で一気に入った。

 

ベースは一人だけ影が薄く、音を出すまで存在に気付かなかった。なんというか、どこにでも居そうな男だ。

 

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曲は突き抜けるような清々しいロックナンバーや綺麗なバラードナンバーだった。

僕は彼らがステージの上から全力で投げてきたモノを全力で返すべく、翌日の筋肉痛が確定するほど頭を振り拳を掲げた。

なんせ、観客は僕一人なのだから。

十曲、いや二十曲近く、飽きる事のないライヴがあっという間に過ぎた。

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「今日はこれで最後になります!」

彼らは最後にひときわハジケたロックナンバーをかまして行った。

「♪壊れかけた僕らの夢は

キレイ事抜きで守らなきゃ

誰かのために犠牲になんて

なった事でもあるのかよ」

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幕が閉まり、僕が会場を後にしようとすると、メンバーたちが握手を求めて見送った。

その時、彼らの手がライヴをした直後とは思えないくらい冷たかったのを覚えている。

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ライヴの翌日、僕はTwitterにこうつぶやいた。

「8月11日のクアトロ雑魚野行ってきました!

僕、何か当たったんですかね!?嬉」

すると、よく絡むロック好きやバンドマンたちから、思いもよらぬ返信が送られてきた。

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「8月14日のファズキャットの間違いじゃなくて?」

「誰の??」

僕は素直にこう返した。

「僕も初めて聴いたんですけど、

FX/ADとか言うバンドさんですよー笑」

すると一昔前から地元でロックファンをしている人から

「え!?FX/ADは…」ときた。

「何ですか!?」と聞くと、

「メジャー行ってもおかしくないバンドだったんだけど…」

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music:5

「でも10年以上前に機材車が事故って全員死んだんじゃ…?」

「へっ?」

僕は、死んだバンドのライヴに行っていたのだ。

あの日握りしめていたチケットはいつの間にか消えていた。

けれど、あのメロディを忘れることは一生ないだろう。

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