長編6
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赦すよ。

ゾクリ系ではありませんし、不可思議現象も出ません。

なので、ご興味の無い方は、どうぞスルーしてくださいね。

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・・あれは、娘の瑠奈がまだ幼稚園の頃でした。

私は、猛烈な吐き気に狼狽えた。

『・・まさか・・嘘でしょう?』

薬局へ向かい、検査薬を買う。

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『・・・陽性・・・。』

望んではいけない妊娠だった。。。

私は、諸事情があって二度と産めないのだ。

なのに授かってしまった。

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・・いや。そうではない。

望んじゃいけない。のではなく、授かってしまった。のでもない。

~~

どんなに望んでも、切望しても産んでやれないのだ。

授かっても、この世に<生>をもたらしてやれないのだ。

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どうすることも出来ず、人工的な処置をしなくてはならない。

一人娘を出産できたのは、奇跡的だった。

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夢に描いた理想の家庭は、

夫と私と、子供が3人。そして、妻として、嫁として、勿論、母親としても仲良く睦まじく暮らす。笑顔の絶えない家庭。

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なのに、潰えてしまった夢の家族。

どこにでも有りそうな、普通の家庭が『夢』のまま終わらなければならない。

そんな現状を受け入れざるを得なかった。

~~

余りにも無慈悲で残酷だった。

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人工的な処置でさえ、命懸けなのだ。

どうせ命懸けなら、産む決断をしたかった。

けれど、娘にはまだまだ教えなければならないことがある。

女性としても教えてやりたいことが山のようにある。

そして私の代わりに娘を育ててくれる環境は、無かった。

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・・私は、欲しいものを手に入れる事が出来ない運命なのかな・・

何度目かの、心が砕け散る音を聞いた。

~~

瑠奈を授かった時は、周り中から反対され、それでも宿った命の尊さを優先した。

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普通の体だったなら、反対を受けるどころか祝福されるはずなんだ。

それなのに。。。

旦那は、領収書を切るみたいに<同意書>をサラサラと書いた。

ワタシは自分を呪うような想いで、震えながらサインをした。

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旦那は、妊娠するような覚えはない。という。

私も心当たりがなかった。

それでも陽性反応を示しているし、病院からも妊娠だと告げられた。

事実は、曲げようがない。

~~

そして、一つの命をこの世から消してしまった・・。

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なぜ私は、こうなんだろう・・。

数か月間、泣き暮らした。

実家とも絶縁状態にあった。泣き言なんて言えるはずもない。

現在に至っても、私がそんな状態にあることを母は知らない。

知って欲しいとも思わない。

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もう年齢が年齢なので、あんな想いは二度としないんだろうが、それでも悲しいものだ。

泣き暮らしていた頃に、絶縁してた母から突然電話があった。

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沙羅?元気にしてんの?

・・あぁ。元気だよ。何か用でもあんの?

用事は別に無いけど、暇だったから。

あっそ。。じゃ、切っていい?

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なぁに?折角久しぶりに電話したんだから、少しは相手してよ~。

少し拗ねたように母が言う。

(相手も何も、絶縁したくせに)

投げやりな気持ちもあったが、ふと思い立った。

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そういや、母?アンタ、中絶したよね?

私と兄貴の間に、もう一人男の子いたよね?

中絶した後、アイツはアンタに優しくした?

一気に話すと、ほんの少しの沈黙があって。

明るく返事が返ってきた。

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うん!お父ちゃんは、私の体も気遣ってくれたし、家の事も何でもやってくれたよ?

何々?沙羅も中絶したの?

なんでぇ~?パパは何もしてくんないの?

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処置したことだけ話した。

そして、そのついでに、母に聞いたの。

私が小さい頃、アンタ言ったよね?

「沙羅なんか産むんじゃなかった」って。

意味判んねぇわ。・・と。

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すると、物凄くあっけらかんと答えが返ってきた。

「うん。産みたくなんてなかったよ。でも産まされたから仕方ない」

あまりにも軽く告げられた事に絶句した。

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暫しの互いの沈黙を破ったのは私だった。

産まされたって何だよ?無理矢理かよ?

なんだそれ?異常にも程があんだろ!?

なんなんだよ一体。。。

簡単に肯定されたことに涙が出た。

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幼い頃、国語辞典で調べた意味。

『要らない子認定』されて、どれほどの苦痛を味わってきたか・・

無視されないように、意地悪されないように

家庭内でも外せなかった仮面。

家庭に私の居場所を見つけられず過ごしたのに。

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クソッ!ってカーペット殴りながら、母に溜め込んできた負をぶつけ泣いた。

~~~

母は、黙って私が落ち着くのを見計らっていたようだ。

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さっきとは打って変わって、母の口調が静かに真面目になった。

沙羅?ウチに生まれてきて幸せだった?

お兄ちゃんが、お腹にいる時から、お父ちゃんは暴力してたんだよ?

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お酒が入ると、電気屋の集まりや、同窓会でも人目を憚らず私は暴力受けた。

髪の毛引きずり回されて、他人が止めに入って・・

大きなお腹、踏みつけられて。

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私はね、お腹の子が産まれたら二度と作らないと決めた。

で、中絶した男の子。お兄ちゃんが生まれてすぐの妊娠だったし。

お兄ちゃんの時に大出血してたから、二番目は中絶もやむなしで納得してくれたけど。

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中絶してすぐまた、妊娠したのが、沙羅なんだよ。

まだ、お兄ちゃんの出産後の体調戻ってない。

って言ったけど、あの中絶が相当お父ちゃんは嫌だったみたいでねぇ。

二度と命を疎かにしない!って無理矢理産まされたんだよ。

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お兄ちゃんも、ミルク飲んでても哺乳瓶ごと投げられたりね。

ヨチヨチ歩きの頃からワザと転ばされたりしてたの。

そんな環境で、生まれてくる幸せなんてナイって思った。

でも産んじゃった。それも女の子。

出来るだけ早く、この家に見切りをつけて出ていけるように辛く当たったんだよ。

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ごめんね。沙羅。

案の定、たくさん辛い事あったから

早く出て行って欲しかった。

~~

話を聞き、私は『コイツ、哀れなオンナ』って思った。

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あんな親父に振り回されて、哀れだったな。

酒乱癖は元々だったとしても、追い出す方法なら幾らでもあったのに。

バカじゃねぇの?

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私の悪態には耳を貸さず私の体調を心配し、

旦那も姑も誰も何もしてくれてない事を知ると、受話器越しに泣きながら言った。

「てっきり、幸せにしてるんだと思ったら!

もう。。もう。。帰っておいで。アパートでも借りて、瑠奈と暮らしたらいい」

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今すぐ、離婚して帰って来いという母に、私はもう同情と憐みしか感じなかった。

「まだ笑って過ごせる時間があるから帰らない。でも、母の事やっと赦せた。」

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私の呟きにも似た、「赦せた」との言葉がどんな風に聞こえたのかは判らない。

でも、本音が聞けて。

やっと、母から受けた仕打ちの数々を理解した。

だから、介護にあたふたする母を手伝おうとも思ったんだ。

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共依存な関係なら、私が口を出すことじゃない。

勝手に喧嘩しながら、好きにしてろよ。

そんな気持ちも無かった訳じゃない。

少なくとも、母が俄然元気な内に、赦せた。

それでいいじゃん。。

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生前の、素面の時に父が書いてくれた手紙。

「お前の笑顔だけが救いだ」

母の苦しみの中で産まなきゃいけない決断。

「早く出て行って幸せになりな」

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誰もが、勝手に生きてきた証明のようだ。

家族でありながら、家族じゃない。

これほどの苦しみは、なかなか無いよ?

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この後、私はもう一度・・・

命懸けの処置に遭遇するけど。。

その時には、どこか開き直っていた。

それも、ある意味、残酷極まりない。

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有り得ない妊娠を夫に告げても、前回同様

「覚えがない」と言われるだろう。

だから妊娠した事を誰にも告げずに。。

同意書も、自分で筆跡を変えて署名した。

連絡先も、自分の携帯に掛かるようにした。

もし死んでも、誰にも連絡取れないように。

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心のどこかで、万が一を望んでもいた。

二度の中絶。この手で死なせた罪。

二人の子の所へ行ってやりたかった。

そしたら、おゆみにも会えるかも。

・・バカだと思うが、本気でそう思ったの。

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けど、瑠奈は?

二度目は、瑠奈が小学生も半ば。

やはりまだ、逝く訳にはいかない。

出産なら、確実に・・・。

だからリスクの少ない方を選んだ。

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私は娘に対し、スパルタで色々教えるようになった。

いずれ、私も夫もその時を迎える。

その時に困らないよう、出来る限り正しい道を選べるよう。

そんな私を、娘は疎んだが知った事ではない。

疎まれようが何しようが、願いは1つ。

娘が幸せな生涯を送れることだ。

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折角、生まれてきたのだから。

苦しいのも辛いのも当たり前にくる。

私もその波を乗り越えて生きたい。

太陽の下、笑顔でね。それが目標。

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御幣を招くといけないので、補足させていただきます。

現在、世の中には『不妊治療』で辛く苦しい思いをされてる方がたくさんいらっしゃいます。
その苦しみを味わってる皆様にとって、私の決断を<贅沢>と思われるかもしれません。
または、夫婦二人の人生を送る決断をされた方も多いでしょう。
ですが、この手に無事に抱いてやれない切なさや苦しみは、同じです。
治療が成功した方々には、心から「おめでとうございます」と。
現在治療中の方には、どうか成功しますようにと、願ってやみません。

この度の投稿で不愉快な思いをされた方には、大変申し訳ありませんでした。