百物語【第十七話~十八話】

長編9
  • 表示切替
  • 使い方

百物語【第十七話~十八話】

ああ、よもつ様のお話怖かったです。

なんでまりかちゃんは人殺しと知ってたんでしょう、怪奇です。

nextpage

次は私が話をしてもよろしいでしょうか。

でも、怪談も含めて私の心霊系のお話はほぼあの人が絡んでくるものばかりなんですよね。

ええ、職場の教育係の黒川先輩です。

彼女は美人で、頼りがいがあって、面倒見がよくて、その代わり氷のような冷たさも併せもって、ある意味近寄りがたい雰囲気で、またそれが逆に良かったというか・・・

あっ・・・失礼しました。

そして、黒川先輩は強い霊感のある女性でした。

そんな彼女のちょうど今回の百物語にふさわしいエピソードがありますので・・・えっと彼女のお話では十七番目のエピソードになるのでしょうか。

お話は就職一年目の冬に県外視察に行った時のお話です。

その視察はうちの会社も関わる新規事業に向けたもので、メンバーはうちの課長と黒川先輩、そして取引先と事業補助の関係で役所の担当者も同行していました。

県外の工場などを視察して回り、遠出となるので視察先の近くで宿を取っていました。

夕方には視察も無事終わり、私達はホテルに入りました。

夕食の懇親会までは時間もあったので、ゆっくりと宿の温泉に入り、浴衣に着替えて宴会に入りました。

黒川先輩も湯上りの浴衣姿でいつもとちょっと違った雰囲気で、しかも胸元から少し素肌がのぞいているので色っぽくて興奮してしまいました。

しかし、それは他の男性陣も同じだったようで宴会が始まると黒川さんは料理にほとんど手を付ける暇がないくらいにお酌をして回っていました。

また、宴会も中盤に差し掛かると予約していたホテル内の別の無料ラウンジに移ってカラオケが始まり、黒川さんは二曲に一曲ぐらいのペースでデュエット曲に誘われていました。

驚いたのは選曲が演歌や古い歌謡曲も多かったのに、黒川さんがうまく歌っていることでした。

後で聞いてみると、宴会で歌う定番の曲はある程度決まっているらしく、何回も参加しているうちに自然と覚えていったそうでした。

そしてカラオケも二巡ぐらいしたところで取引先の担当者の一人が彼女に新たな要望を持ちかけました。

「ねえ、噂で聞いたんだけど、黒川さんって幽霊とか視える人なんだよね」

どこで聞いたのかその言葉に彼女は少し返答に困っていました。

「え、ええ、まあ・・・」

「俺、そういうのに結構興味あるんだよね、ここで視える黒川さんの怖い話を聞かせてもらえないかな」

彼女は確かに視える人でしたが、好んでそのたぐいの話をすることはむしろ避ける人でもありました。

当然、話を向けられた彼女も困惑しているようなそぶりでしたが、会場の雰囲気が彼女の怪談を期待するような空気になっていたので、仕方なくカラオケのマイクを取ってゆっくりと話を始めました。

それは彼女が高校生の時のお話でした。

nextpage

第十七話

【雨の公衆電話】

私の高校の通学途中には女の幽霊の佇んでいる古そうな公衆電話がありました。

その霊は漠然と感じられる雰囲気があまりいいものではなかったのですが、橋の近くにある公衆電話のため、そこを避けて通学しようとすると少し遠回りになる隣の橋まで行かないといけなかったので、なるべく気にしないようにして横を通っていました。

その女は白い洋服に長い髪でうなだれて立っているため顔の表情は見えませんでした。

時々、女は私に向かって手をゆっくりと振ったり、手招きをしていることもありましたが、こちらが視えるとわかれば、憑いてきたり、すがってきたりする霊もいたので、私はいつも視えないふりをしていました。

しかし、いつ通りかかってもその公衆電話ボックスの中にしかいなかったので、そこで亡くなって因縁に縛られている地縛霊なのかなあとも感じていました。

そんな風にやり過ごしていたある強い雨の日、傘をさしていつもの様にあの公衆電話のそばを通りかかった時でした。

不意に携帯電話に着信がありました。

雨の中だったので、鞄と傘で両手がふさがり、面倒くさいなあと思いながら鞄を脇に抱えて電話に出ました。

nextpage

「はあい、黒川です」

向こうからの返事はありませんでした。

不思議に思い、着信元を確認しました。

nextpage

『公衆電話』

その文字に驚き立ち止まると、前方に新たな気配が生まれました。

傘に遮られて、顔だけ見えませんでしたが、長い髪と白い洋服を着た女でした。

nextpage

「・・・なあんだ・・・やっぱり私のこと気づいてたんじゃない」

携帯電話から濁った声が聞こえてきました。

やられたと思いました。

彼女はおそらく待っていたのです、私と接触のできる絶好のタイミングを・・・

通常時であれば、私もこの電話がかかってきていた時点で着信元を確認して全力で逃げ出していました。

女の霊の不意打ちに身動きが取れずに携帯電話を耳に当てたまま立ち尽くしていましたが、

女は続けて携帯電話越しに呪いの言葉を吐きつづけました。

「あのくそ野郎が・・・わしを裏切って、あんな見た目だけの女のところに行って・・・くそ、くそ、野郎、しね・・・しね・・・」

私はこの言葉は聞いてはいけないと意識ではわかっていたのですが、身体の方が言うことを聞きませんでした。

「だから・・・わたし・・・あいつに電話しながら・・・しんでやったの・・・」

女の妄執の念に当てられて、私は頭がもうろうとしてきました。

nextpage

そのとき、携帯電話に新たな着信がありました。

新たな着信を不思議に思いながらもほぼ唯一動かせる指を使って電話に出ました。

「ねえ、お姉ちゃん、私傘持って来るの忘れちゃったよ、まだ学校にいるなら一緒に帰ろうよ」

電話から妹の高いよく通る声が聞こえてきました。

その声に金縛りのように固まっていた身体が反応して動かせるようになりました。

はっと、前を見ると女の姿は消えていました。

後ろの公衆電話の方を振り向くと女はいつもの様に公衆電話の中にたたずんでいました。

しかし、奇妙でした。

公衆電話までの距離がさきほどまでの間隔よりかなり離れているような気がしました。

私はとっさに今自分がいるところを確認するとちょうど橋の途中の柵をまたいでいるところでした。

下には増水した川がうなりを上げて流れていました。

nextpage

「お姉ちゃん、聞こえてるの?」

「・・・憑り殺されるところだった」

妹の電話がなければ、柵を乗り越えて、みずから川の中に落ちるところでした。

「ごめん、聞こえてるよ・・・ありがとう、助かった」

「えっ、どういうこと、助かったって?」

「ごめん、なんでもない、うん、今から迎えに行くから」

妹に答えると、私は足早にその橋を離れました。

もちろん、その後二度とその公衆電話に近寄ることはありませんでした。

nextpage

黒川先輩の話が終っても宴会の会場は静まり返っていました。

誰も話さないでいると、彼女に話を振った当人が声を上げました。

「いや、さすがだね、怖かったよ」

彼女の怪談が終わったことにより場の雰囲気も自然とお開きのムードとなったので、その日の宴会はそこで終わりました。

nextpage

第十八話

【身を焦がす炎】

宴会を終えて、私も疲れていたので、早く部屋に戻って寝ようと思いました。

しかし、黒川先輩の方を見るとさきほど怪談を要望した取引先の担当者が近寄っていました。

何か嫌な感じがした私は柱の陰に隠れながら、二人の後ろに近づいて聞き耳を立てました。

「ねえ、黒川さん、ちょっとこのあと俺の部屋で飲み直さない?」

「えっ、部屋でっていうのはちょっと・・・ホテルのバーもありますから、そちらにしませんか?」

黒川さんの提案に男はあまり反応を示さず、おもむろに黒川さんの肩を抱き寄せました。

nextpage

「もう、鈍いなあ、そういう意味じゃなくて、俺の部屋に来ないかってこと」

その男は明らかに彼女を自分の部屋に連れ込もうとしているようでした。

しかし、少々酔っているとはいえ、いつもの彼女であれば当然お断りすると思われました。

「ねえ、今回の新規事業、黒川さんが一晩一緒に過ごしてくれるんだったら、僕の裁量で契約してあげるよ」

なんと、その男は契約を盾に彼女を口説こうとしていました。

「い、いえ、そういうお話をされても・・・」

「だいじょうぶ、今夜のことはふたりだけの秘密にするから、今回の契約の重要さはわかってるんだろ、それが君の手柄になるんだったら将来的にも大いにプラスになるんじゃないかな」

「も、もちろん、今回の事業のことは十分わかっていますが・・・」

彼女は動揺しているように見えました。

男は巧みに誘惑しながら、ゆっくりと自分の部屋へ向かって移動しています。

もう見ていられなくなった私は情けないことに自分の部屋へと駆け込み、自分のベッドに倒れこみました。

このときほど一緒に来ていた課長と二人部屋でなくてよかったと思いましたが、黒川先輩のことを思い、やりきれない思いのままベッドの上でゴロゴロし続けました。

nextpage

彼女の白い柔肌があんな奴に・・・

nextpage

今頃二人は行為の真っ最中だろうかと考えると、もういてもたってもいられず、涙ぐんだまま廊下に飛び出しました。

nextpage

すると・・・いました、彼女が・・・

nextpage

「あれ、黒川さん? なんで、ここに?」

「お、ちょうどいいところに、料理ほとんど食べられなかったから、私お腹すいちゃったんだ、ホテルの居酒屋にラーメンでも食べに行きましょう」

彼女のお誘いにきつねにでもつままれたようなふわふわした気持ちでついていきました。

ホテルの廊下を移動する途中で彼女にさっきのことを聞きたかったのですが、怖くて別の話を振ってしまいました。

nextpage

「今日はお疲れさまでした、でも何だか理不尽ですね」

「何が?」

「だって今回のメンバーで女性は黒川さん一人で宴会ではまるでホステスみたいに接待役をやらされてたじゃないですか」

「まあ、もちろんね、女というだけで不本意ではあるけど・・・」

私の意見に同意をしつつも彼女は続けました。

「今回の視察は観光じゃなくて全面的に仕事だったわけだし、役所の人間もいるからおおっぴらにお金のかかるコンパニオンとかを呼ぶわけにはいかないでしょ」

「・・・まあ、そうですね」

「そんなときに同じメンバーの私が接待役に回れば、無理なく場の雰囲気も華やぐじゃない」

「確かにおっさんだけで飲む宴席は暗くなりそうですよね」

「それぐらいの事情は理解してるつもりよ、それにちゃんと対策もしてるしね」

彼女は浴衣の胸元から何かを取ろうとしていました。

「・・・それは?」

「安全ピン、必要以上に浴衣がはだけないように」

しっかりしてるなあと感心しているとピンを取った拍子に彼女の浴衣がはだけて下着のキャミソールが見えてしまいました。

私は顔がかっと熱くなってなぜか恥ずかしくなり、反射的に顔を背けました。

「うふふ、うぶだねえ、おっさんたちよりあんたのそういう反応を見る方がお姉さんの清涼剤になるわあ」

にやにやしながらそう言うと彼女は十二時までやっているホテルの居酒屋に入っていきました。

そして二人ともおすすめメニューの潮騒ラーメンを頼みました。

nextpage

「あの、なんでここにいるんですか、部屋に誘われてませんでしたっけ?」

どうしても気になった私は聞いてしまいました。

「うおっ、見てたの、恥ずかしいなあ、ちゃんときっぱりと断ったよ」

彼女はバツが悪そうに答えました。

「というか、先輩の女性が連れ込まれそうになってるんだから、お前が助けろよ」

全くの正論で恥ずかしい限りでした。

「す、すいません、でも契約のことを持ち出してるようだったので・・・」

言い訳にもなりませんでしたが、一応言ってみました。

「ああ、あれはだめよ、契約のことなんか」

「どういうことですか、少なくとも黒川さんの成績にはなるんじゃないですか?」

「あの男ああは言ってたけど、絶対に私とやったあと、自分の功名みたいに彼女を食ったぜとか言いふらすにきまってるんだから」

確かに男のさがとしてとして、そういう自慢をすることは考えられました。

「そうなると私は枕で契約を取ったことになって余計に仕事がやりづらくなるじゃない」

彼女の話によく考えてるなあと思っていると、彼女はちょっと真剣な表情をしました。

「それにあの男、後ろに鬼女達が憑いてたしね」

「鬼女って、あの鬼? 妖怪か何かですか?」

「いや、たぶん女達の生霊、おまけに炎に包まれて彼女達の肉が焼け焦げてたし、だいぶ派手にやり散らかしてるんじゃないかな」

「それってやばいんですよね」

「命にかかわるんじゃないかなあ、私もあんなにえぐい生霊久しぶりに見たし」

吐き捨てる彼女の言葉に人の姿を保っていない生霊のひどさが感じ取れました。

「命にかかわるって・・・何かしなくていいんでしょうか?」

黒川さんの雰囲気で答えは何となくわかっていましたが一応聞いてみました。

nextpage

「女のことを自分の欲を満たすモノとしか思っていないやつのことは私も人間じゃなくてモノとしか思えないなあ」

こともなげに言い放ちながら、彼女は無表情で絶品のラーメンをすすっていました。

Normal
閲覧数コメント怖い
1,22820
30
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意

ともすけ様にお褒めいただくと自信になります!
今のところは何とかエピソードをつなげることができています。
こういうイベントがあると、新たな刺激があって本当に頭の中で消えていたエピソードが再び浮かび上がったりするんですよね。
ともすけ様とも一緒にイベントができて私も励みになります。

表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意

おでん屋様、導入スムーズでしたでしょうか、いつもユニークな導入部分で楽しませていただいているおでん屋様に言っていただけると嬉しいです。

失礼ながらおっさんの気持ち悪さはお仕事のリアルです。
幽霊はある意味異世界からの恐怖ということで違いはありますが、どちらもどのようにしてうまくやり過ごすか苦慮するのは同じかもしれませんね。

ふたば様、本日は遅出の仕事でお返事が遅れて申し訳ありません。

蠟燭の間の臨場感がありましたか、そう言っていただけて良かったです。
今回は実話系百物語のイベントということでいつもの黒川先輩シリーズですが、普段の生活、仕事に密接なエピソードを選ばせていただきました。

ラーメン屋さんも・・・お願いできるでしょうか、うふふ。

表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意

ラグトさん、こんにちは!
黒川さんシリーズ、素晴らしい作品ですね!
無事で何よりです!
怖面白い作品ありがとうございました!

表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意
表示
ネタバレ注意