長編8
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一番怖いもの

たまたま、俺がその場所を通ったからで。

俺がたまたま、その光景を見てしまったからで。

そしてたまたま、彼女も近くにいたからで…

偶然ってこえーなーっと、俺は何となく考えた。

大学二年の秋だった。

俺は次の授業まで時間があり、飲み物でも買おうと自販機に向かっていた。

「…?」

自販機近くのベンチ。

近くに売店もあり、テーブルなんかもあるので、人が集まりやすく女の子たちなんかがよく話に花を咲かせている。

そんな中に、知った顔を見つけた。

同じサークルのユナさんだった。

ユナさんは一人ベンチに座り、どこか落ち込んでいるように見えた。

それだけでなく、おどおどと周りを見回しているように見える。

「…どうしたんスか。」

「きゃあ!!」

ユナさんに声をかけると、突然悲鳴を上げられた。

その声に驚いた周りの人たちの視線がこちらに集中する。

……。

あ、違います。

俺が何かしたわけじゃないです。

俺にまで非難するような視線がある。

いや、確かに角度的に後ろから話しかけたけど…そんなに驚かなくてもいいじゃない。

「す、すんません。びっくりしました?」

「こっ……古賀君!ごめん!ごめんね!びっくりしちゃって!」

あわあわとユナさんが謝るのをみて、周りの女性たちの“あらやだ痴漢かしら”みたいな視線は消えて行った。

「俺こそ突然すみません。なんか元気ないのかなーって。勘違いならいいんスけど。」

「あ…ああ!違うの!違う!えと…」

慌てるようにユナさんはぶんぶんと手を振る。

「違って…あの…」

ぶんぶん振る手が弱まっていく。

「あの…うう…」

……え。

「う…うわああああん!!古賀くーーん!どおしよおお!!!」

ユナさんは、突然。

泣き出した。

しかも号泣。

俺にしがみつきながら。

「は…はい!?なんスか!?え!?」

突然の事に俺は戸惑う事しかできず、泣く理由もわからないので慰めることも出来ない。

周りの視線が痛い。

誤解される!俺が泣かしたみたいになる!

「ユナさん!?ちょ…落ち着いてください!ね!?」

「ちょっと。」

横から女性の声が…

うあああ!非難される!

女子特有の集団で男を責める感じになる!

そう思って慌てて声の方を見ると、知った顔がそこにあった。

「わ…ワカさん!!」

「あんた何泣かしてるの。」

いつものなんだか不機嫌そうな顔。

いや、実際不機嫌なのかも。“一応”友達が泣いてるから!

つうか、泣かしたの俺じゃないよ!?

ワカさんの声に気が付いたのか、ユナさんがぱっと顔を上げた。

そしてワカさんを見ると、再び顔がくしゃりと歪む。

「う…うう…わかぁ…!」

今度はワカさんにしがみつく。

「うわああああん!助けてわかあああ!!」

…え!?

なに!?

俺!?俺から!?

俺が慌てて違う違うと手を振り、

ワカさんが俺を鋭く睨んだのと同時くらいだった。

「私…呪われちゃったかもおおー!」

ユナさんが、そう叫んだのは。

 

***** 

 

 

ユナさんをなんとかなだめて落ち着かせ、いい加減周りの視線で穴が開きそうになっていた俺たちは場所を移動した。

人の少ない場所を探して、別の場所にある自販機そばのベンチで落ち着いた。

ユナさんを挟むように座り、話を振る。

「で、何があったの。呪われたって何よ。」

最初に口を開いたのはワカさんだった。

ユナさんはぐすぐすと鼻をすすりながら、どこか言い辛そうにぽつりぽつりと話し出した。

以前サークルメンバーと肝試しに行った後(以前投稿した【触んないで】を先に読んで頂けるとわかりやすいかもしれない)、妙な視線を感じるようになった事。

背後に誰か居たような気がしたり…更には

「こ…この間非通知の電話が来て…うっかり出ちゃって…そしたら、変な声で…『また来てね』って言われて…!」

そこまで言って、ユナさんはまた泣き崩れてしまった。

「…なんで今まで黙ってたの。」

「だって…もうハルも話題に出したくないみたいだったし…この間…ワカは置いて逃げちゃったし…言いにくくて…。」

一応、置いて逃げてしまったことは反省しているようだ。

ワカさんもこれならわかってくれ…

「ふうん…うちらじゃどうしようもないね。」

ないのかな?

あれ?ワカさん怒ってるの?なんか冷たい?

冷たく突き放されたユナさんは更に泣き出してしまった。

「うわああああん!お願いだから見捨てないでぇ!反省してるからぁぁ!」

「いや、だって。」

「わ、ワカさん!」

さすがに可哀想すぎる!

ユナさん反省してるし…ほっとくわけには。

「何か…何か考えましょうよ!どうにか出来る方法!」

「え、私らで?」

「そうです!みんなで考えれば何とかなりますよ!」

「こ…古賀くん…!」

大口叩いてるけど、実際俺はノープランだった。

でも、逆の立場だったら…頼れる人がいないなんて怖すぎる。

一人で立ち向かわないといけないなんて…怖すぎる。

ワカさんはどこか考えるような表情をして唸った。

そして口を開く。

「…どうしても私らでやるの?」

「はい!頑張りましょう!」

「…んー…別にいいけど…ユナ。家の中とかで違和感ある?」

「家の中は…何もないかな。今の所。」

「そ。じゃあもうしばらく大丈夫かな。」

乗り気じゃなかったワカさんの方が、何か策があるようだった。

「ちょっと、時間がいるかな。」

そう言って、小さくため息を吐いた。

 

しばらく考え、ユナさんの事をどうにか助けよう、となった上で俺が命じられたのは“ユナさんが夜道で一人にならないようにする”事だった。

ワカさんは何をしているのかちょっとわからなかったが、言い出しっぺは俺だし、俺は俺の任務を全うした。

なんだかんだ言ってワカさんは霊感あるみたいだし、この間も追っ払ってたし…きっと何か考えているんだろう。

そう考えながら二、三日過ぎた時だった。

俺は早くも後悔する事になる。

 

 

***** 

 

 

「じゃ、おつかれっした!」

「いつもありがとう古賀君。また明日ね。」

いつものようにユナさんを送り届けた後、時刻はもう夜の11時を超えていた。

そろそろ始まる学祭の準備で、サークルの集まりがあったからだ。

加えて朝は雨が降っていたので、俺は歩き。いつもは自転車なんだけど。ユナさんちまで押して行って、送った後は乗って帰るんだけど。

…怖い。正直怖い。

ユナさんの家から大通りに抜けるまでの道は外灯が少なく暗いのだ。

俺はほぼ早歩きで道を進んだ。

がさ…

「!!」

背後からすり足のような音が…聞こえた。

いや…

「(…ないない。さすがに。)」

怖くてビビっているだけなんだ。

誰かいるにしろ、普通の人間だろう。大丈夫。

そう自分に言い聞かせながら、背後を見た。

【ほら、ただの通りすがりの人だった】と、自分を安心させる為に。

きっと、それで安心して帰れた“筈”だった。

背後にいたのが…怒りの形相を浮かべた、男の首でなければ。

 

 

 

***** 

 

 

「ワカさん!!ワカさあああん!!!!」

俺は帰って家の鍵を掛けるなり、速攻でワカさんに電話した。

全力で走ったせいで息がつらい。苦しい。死ぬかも。

「何。煩い。」

なのに、ワカさん冷たい。

「ヤバいっス!ヤバいんです!もう!幽霊が!」

何をワカさんに言ったか…慌てすぎて怖すぎで覚えていないが。

ほぼ“ヤバい”しか言っていなかった事は覚えている。

ワカさんは全然慌てず、はいはい、となだめる様な返事しかしなかった。

そして

「じゃあ、明日捕まえようか。」

さらりと、そう言った。

 

 

捕まえる?

捕まえるって…

俺はこの時、なぜかワカさんに対して絶対的な信頼があった。

たぶんワカさんは只者じゃないんだ!

きっと隠してただけで除霊の仕方とかわかっているんだ!と。

だから次の日、ユナさんをわざと夜道で一人にした時も。

物陰にワカさんと二人で隠れた時も従った。

外灯の少ない小道。

ユナさんを一人で歩かせていると、通りすがりの人が後ろから近付いてくる。

一人になったら、幽霊がでるのかなーっと考えていた時だった。

「古賀、いけ。」

「へ。」

突然ワカさんが俺に言う。

いけって…どこに?

「…なにしてんの?早く!」

「え…何が…」

「早く捕まえて!あいつ!!」

ワカさんが指さすのは…通りすがりの男性。

「早くしなさい!」

「!?はい!!」

ワカさんに背中を殴られ、俺はわけもわからないままユナさんの後ろを歩く人に飛びついた。

衝撃で一緒に倒れこんでしまったのは男性で、酷く驚いている。

そらいきなり見知らぬ人に飛びつかれたらビビるわ。

…カラン

地面に乾いた音が響いた。

音の方を見るとそこには…ナイフ。

「え…え!?」

「きゃあ!!」

「ユナ!こっちに来なさい!古賀はそいつ抑えてなさい!」

ワカさんはユナさんを自分の背後に隠し、携帯を取り出す。

「そいつがストーカー!逃がすな!」

そう言って、警察に通報していた。

 

 

 

*****

 

 

 

結論から言うと今回の騒ぎは、一切幽霊の仕業ではなかった。

ユナさんには…ストーカーがいたのだ。

ユナさんの行きつけのコンビニの店員だった。

視線も気配もストーカー行為から、非通知電話の【また来てね】は、“店に来てほしい”の意味だった。

ワカさんはユナさんの最初の話の時点で察しがついていたようで…だから何度も『自分たちではどうしようもない』『自分たちだけでやるのか?』と確認していたのだ。

そしてストーカーをおびき寄せるため、わざと俺にユナさんと帰らせた。

ワカさんはその様子をちゃんと近くで見ていたようで、俺を彼氏だと勘違いしたストーカーは、まんまと姿を現したという流れだ。

ワカさんが初めから警察を頼らなかったのは曰く『やつらは被害が出ないと動かない』からだそうだ。失礼な。

つまり…以前の心霊スポットとは、関係なかったのだ。

でもそれなら…俺が見た生首は?とワカさんに尋ねると。

「ユナもそうだけど…あんたがビビりすぎただけ。」

「え?」

「人の脳は恐怖で幻覚を見るものなの。あんたが“幽霊だったら怖い”って、極限までビビってみたからそう見えたの。あの男の服装見たでしょ?ストーキングばれないように全身黒ずくめだった。夜だと見えにくいから、ビビったあんたには首しか見えなかったの。」

「ゆ…ユナさんもそう…ってのは?」

「多分、あの肝試しより先にストーカー行為は始まってたんじゃない?ユナが幽霊にビビってたせいで気配に敏感になったから、やっと気が付いたんでしょ。」

なるほど…とつぶやく俺に、あきれた様にワカさんが続ける。

「大体あんたらね…何で幽霊だなんて決めつけんの。この世で一番怖いものなんか人間でしょう。なんで最初に疑わないの。馬鹿みたいになんでも幽霊のせいにするんじゃない。」

あんたら…と言いつつこの場に俺しかいないので、普通に俺が説教食らう形になった。

たまたま俺らが肝試しをした後で

たまたま怖い目に合っていて

そしてたまたま、誤解してしまうようなストーカー行為があって

偶然とはほんとに怖いものだ。

でも結局

これによってユナさんがストーカーの被害にあわなかった事は、不幸中の幸いとも言えるだろう。

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