中編6
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青田さんとシャボン玉

sound:34

いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日は何も持っていない青田さんのお話です。

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ある日気分転換に散歩してたらね、小さな雑貨屋があったのよ。

気になってふらっと入ってみたら、昔懐かしいおもちゃや駄菓子なんかが並んでいたの。

特に買うつもりはなかったんだけど、レジの横にあったシャボン玉がちょっと気になっちゃって…。

安かったし童心に返るつもりで一つ買ったの。

家に帰る前、近くの公園に寄ってシャボン玉を飛ばしてみた。

安物だし枠も小さかったのに、びっくりするくらい大きなシャボン玉が出来たの。

公園でサッカーをしていた男子小学生達が集まってきて、

「もう一回作って」と言われたから、もう一度液をつけてふーっと枠に張られたシャボン玉液の膜を吹いたの。

さっきよりも大きなシャボン玉が出来て、目の前にいた男の子がすっぽりと中に入ってしまった。

中の男の子も周りの男の子達も、大はしゃぎ。

私も心の中で興奮していたわ。

でもシャボン玉だから、そんなに長い時間は形を保てないでしょう?

十数秒ふよふよと揺れて、パッと一気にはじけたの。

男の子達も私も言葉を失ったわ。

はじけたシャボン玉と一緒に、中に入っていた男の子も消えたんだもの。

何が起こったのか誰も理解できていなかったと思う。

先に動けたのは男の子達の方だった。

まだ惚けている私を置いて彼等は走り去って行ってしまったわ。

きっと自分も消されてしまうとでも思ったのね。

彼等の親や警察が来てしまう前に私も帰ろうと、急ぎ足で家へ向かったの。

家に着けば可愛い次女と…可愛くない夫の連れ子の長女。

夫はあと三時間は帰ってこない。

せっかく気分転換をしても、結局長女の顔を見れば最悪な気分に戻ってしまう。

出来るだけ視界に入らないようにTVに集中する。

声も聞こえないようボリュームを上げたわ。

地元のお店の宣伝や週末の天気予報、水族館のイベントの情報など関係あるようであまりない情報が私の耳をすり抜けた。

水族館…次女は連れて行ってあげたいけれど、行くとなれば長女も一緒に行くことになる。

あんな子のために時間やお金を使うなんて絶対に嫌だったの。

TVの音に混じってかすかに聞こえる声も煩わしい。

当時毎日のように行方不明のニュースに登場していた男の子のように、長女もいなくなってしまえばいいと思った。

そして同時に、夕方の公園での出来事を思い出したの。

『次の土曜日、水族館行こうか』

気が付けばそんな言葉を発していた。

娘達は久しぶりの水族館に小躍りしながら喜んでいたわ。

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土曜日 約束通り夫と娘二人と共に、市内の水族館に行った。

綺麗な熱帯魚やイワシの群れ、気持ち悪い謎の生物なんかを見て回った。

そして施設の外にある広場で休憩も兼ねて遅い昼食を食べたの。

食べ終わった頃に、水族館の売店で買っておいたシャボン玉セットを娘二人に渡したの。

広場でシャボン玉をしている内に交代でトイレに行こうと提案し、

先に私がトイレへ行き、戻ってから夫がトイレへと向かった。

トイレまでは少し距離があるからその間に…ね。

二人が作り出す小さな普通のシャボン玉に混じり、大きなシャボン玉を作り出したわ。

もちろん長女に向けて。

1.5mはありそうなシャボン玉は見事に長女をすっぽりと包み込んだ。

娘達はあの日の男の子達と同様にとても嬉しそうにはしゃぎ始めた。

「すごい」「すごい」と言いながら次女がシャボン玉へと手を伸ばす。

小さな人差し指がシャボン玉に触れると、シャボン玉と長女がパッと消えた。

笑ってしまいそうなのを我慢して、次女と一緒に状況が飲み込めないようなフリをしながら夫を待った。

そんなに時間も経たず夫が戻ってきて長女がいなくなった事を伝えたの。

シャボン玉で遊んでいたらいなくなってしまったって。

次女も説明しようとしていたけれど「シャボン玉してたの」としか言えず、次女からバレることはなさそう。

夫は長女がシャボン玉を追いかけて迷子になったと思ったようで

すぐに迷子センターへ行き館内放送をしてもらった。

待つだけでなく、従業員や夫と館内を探し回り閉館時間を過ぎても探し続けたけれど、当然長女は出てこない。

事務室のようなところで、館長と夫が呼んだ警察と一緒に防犯カメラの映像を見たの。

誘拐かもしれないからって。

でもいくら見ても長女はどこにも映っていない。

防犯カメラは館内にしかなく、広場にはなかったの。

お昼も過ぎていてイルカショーの時間だったこともあり広場で長女が消えた瞬間を見ていた人もいない。

あまりの完璧さにまた笑ってしまいそうになったわ。

結局見つからなくて、その場で捜索願を出して帰ったの。

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邪魔者が消えて、ようやく幸せな家族になれる。

そう思っていたのに…

一週間経っても一ヶ月経っても、夫が長女の話ばかりするの。

出かけようと言っても、そんな暇があるなら長女を捜すって言ってどこへも行ってくれない。

家にいても溜息ばかりで全く楽しくなかった。

『もう忘れて3人で仲良く暮らしましょう』

そう言ったらすごく怒って…なんだか冷めちゃったのよね。

左手が自然とシャボン玉液を掴んでいて、家の中だけれど夫に向かってシャボン玉を吹いたの。

『そんなにあの子に会いたきゃ会いに行けば』って言って、割ってやったわ。

二日後に警察に『娘を捜しに行ったきり帰ってこない』と言って捜索願を出しておいた。

ちょっと怪しまれて家の中とか調べられたけど、シャボン玉で消えたなんて思わないでしょう?

家族が一気に半分になって少し寂しいような気もしたけれど、一番愛している私の唯一の娘が一緒だったから幸せだったわ。

でも、夫がいなくなっちゃうと収入がなくなっちゃって…

貯金も多少はあったけど限りがあるし、どうしようかなぁって考えて考えて…思いついたの。

友人を食事やショッピングに誘って、友人が財布から手を離している時にシャボン玉を吹くのよ。

知り合いばかりだと怪しまれちゃうから、出会い系サイトで食事に誘った男も数人消しておいたわ。

それでも収入は多いとは言えないから節約もしなきゃって思って、食費を削ることにしたの。

店主が一人でやっているカフェや小料理屋に行って、食べるだけ食べてシャボン玉を吹くの。

そうやって毎日慎ましく過ごして数ヶ月が経って

8月30日…私の誕生日なんだけどね、買い物をして家に帰ったの。

玄関を開けると娘が出迎えてくれて

「ママお誕生日おめでとう」って言いながら…シャボン玉を吹いたのよ。

水族館で買ってあげた魚の入れ物のやつじゃない。私のあのシャボン玉。

止めようとしたけれど間に合わなくて、あっという間にシャボン玉の中だった。

すぐに出たいけれど触ると割れてしまう。

どうしようもなくて涙を流していると、娘が笑顔で手を伸ばしてきたの。

私が喜んで泣いているように見えたんだと思う…。

「ママ」って呼ぶ娘の笑顔を最後に、私の視界はパッとはじけたの。

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私は相変わらず家の玄関にいたけれど、娘の姿はなかった。

代わりに…消した長女と夫がいたわ。

すごく冷たい目で私を見て、「出て行け」と言って私を追い出した。

外に出ても人はあまりいなくて、

誰かいると思えば今までに消してきた男の子や友人、出会い系の男、飲食店の店主だった。

みんな私を睨みつけて、話すらしてくれないの。

…...あの時のお代、これでもいいかしら?

私もう何も持ってないの。お金も家族も友人も。

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そう話し終えると、青田さんは何も食べずにフラフラとどこかへ去って行きました。

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