中編3
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転生

ボコッ

鈍い音が部屋中に響く。

当時、小学六年生だった前田祥子は、父親からに酷い虐待を受けていた。

彼女の父親は、小さな会社を運営しており、洋服や持ち物は充実していた。

一見すると、恵まれた裕福な家のようだが、実際は大きく違った。

彼女の父親は自分が他人にどう見られるかしか興味が無かった。

だから会社を建て、見栄を張った。

言わば、会社は父親の「社長」という肩書きのためだけにあるようなものであった。

そんな会社が満足に経営ができるはずもなく、会社は倒産してしまった。

元々凶暴な性格だった彼女の父親は、職を失ったことでますます凶暴になった。

そしてその矛先は祥子と、その母親に向けられた。

毎日のように殴られた。

しかし、彼女達は堪えた。

刃向かったところで無駄だと分かっていたからだ。

ボコッ…ボコッ…

彼女は殴られ続けた。

黒ずんだアザが体中にでき、目は腫れ、とても弱っていた。

いつもならこのまま殴られ、そのまま朝になる。

しかし、この時は違った。

「やめてください!!」

娘の様子を見て堪え切れなくなった母親が叫んだ。

父親の拳が止まった。

「文句があるのか??」

父親はゆっくりと母親に近づいていく。

後ずさる母親。

父親は拳を振り上げ、母親に向かって振り下ろした。

ボコッ

朦朧とした意識の中で祥子は見た。

父親に殴られ、そのまま階段から落ちていく母親の姿を。

ボキ

「グエエ…」

下から音がした

祥子にはその音の意味がよくわからなかった。

涙が頬を伝った。

彼女はよろよろと立ち上がると、台所から包丁を取り出し、手に取った。

父親を真っ直ぐ見つめ、走り出した。

ドス、という音と共に鮮血が飛び散った。

父親は体勢を崩し、その場に倒れこんだ。

ドクドクと血が溢れる。

祥子は父親の上に立つと、刃を向けた。

「生まれ変わってでも殺してやる!」

父親は叫んだ。

グサッ

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「ただいまー」

私は靴を脱ぎながら言った。

「お帰りなさい。」

母さんがリビングから、大きなお腹を抱え出てきた。

「そんな無理しなくてもいいよ。安静にして。」

「美香、あなた妊婦舐めてるでしょ。」

そんな他愛のない話で私は一日を過ごしていた。

母さんは今、妊娠中だ。

始めは混乱したが、兄弟ができると思うとワクワクした。

母さんも昔は色々あったらしい。

両親がどちらとも亡くなって、そのショックで精神病になったらしい。

今ではちゃんと治療をして普通の人だ。

病院で検査すると、お腹の赤ちゃんは男の子らしい。

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一ヶ月が経ち、私には弟ができた。

可愛かった。

しかし、心なしか母さんの様子が少し変だった。

それから、しばらく経ったある時、弟が喋った。

「祥子」と。

ハッキリと、さらに母さんを指差して。

そしたら、母さんは急に青ざめて家を飛び出した。

一日経って母さんが帰ってきたけれど、

明らかに母さんはおかしくなっていた。

弟を見て、

「父さん」

と何度も呟いたり、包丁を持って泣き始めたり。

弟を見ただけで叫んだ時もあった。

しばらくすると、母さんは自室にこもるようになった。

そんな時、弟は母さんの部屋の前でじっと立ち竦んでいた。

もう、私の知っていた母さんはいなくなってしまった。

その日は、珍しく母さんが外に出てきた。

そして、早足で弟の方に向かうと言った。

「父さん、もう私を苦しめないで!それが無理なら、死んで!」

母さんは血走った目で包丁を持ち、弟に振り下ろそうとした。

母さんの表情は全ての負の感情を密集させたようだった。

反射的に体が動いた。

止めなきゃ。

私は母さんの体を掴んだ。

母さんはバランスを崩して転び、包丁は母さんの目に…

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あれから十年。

母さんは死に、死体の第一発見者の父さんは行方不明。

私達兄弟は二人で生きてきた。

弟は、至って普通の子供だった。

祥子、というキーワードについても何も知らなかった。

私は結婚して、子供を産んだ。

「美香」

そんな声を聞き、振り返ると娘がいた。

娘の表情は全ての負の感情を密集させたようだった。

私がおかしいのか、それとも呪いか。

私は娘に強烈な殺意を抱いていた。

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