短編2
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とある患者

これは私の実体験です。

私はとある病院で薬剤師をしています。うちの病院の薬剤部は霊安室と同じ階にあります。ですから御遺体を見ることもあります。私はそれに出くわす回数が多いらしく昨年から働き始めたのですがもうすでに6回は見ています。薬剤部内では皆さん1、2回見たぐらいだそうです。この時はタイミングが悪いなあ~ぐらいにしか思っていませんでした。

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ある日の当直中のことです。外来に薬を持っていく時でした。霊安室につながる廊下にエレベーターがあり、それを使って1階に行こうとしました。するとエレベーターの所に患者らしき人がいました。21時頃だったと思います。なぜこんな場所に?と思いましたがそのエレベーターは職員用でもあるので患者が間違えて乗ってしまったのではないかと思いました(たまに間違える患者がいるので)。

声を掛けようとした時その患者が振り向き、「すみません。忘れ物をしてしまいまして。」と話しかけてきました。私は先に外来に行かなければならなかったので「すぐに戻りますので少々お待ち下さい。」と言ってエレベーターではなく階段を使いました。何かおかしいと思いながらも私は地下のエレベーターまで戻ってきました。患者はまだそこにいました。

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私はその患者に名前を聞きました。患者は「5階の520号室の○○です。」と答えました。その患者をエレベーターに乗せ5階まで行くと、その患者は「ここからは自分で行けますので。ありがとうございます。」と言って病室の方まで歩いて行きました。このことを病棟の看護師に報告し私は薬剤部に戻りました。ですがなぜか妙な感じがしたままでした。

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翌々日、このことが気になり520号室に行きました。ネームプレートには○○と書かれていました。あの時患者の名字しか聞いていなかったのですが同じ名字だったので病室に入りました。するとあの患者ではなかったのです。私はナースステーションに行き、○○という患者が他にいないか聞きました。3日前まで520号室に居たそうです。その方は亡くなっていました。私はゾッとしました。その患者が何か忘れ物をしていなかったか聞くと、お孫さんがあげた折り鶴を1つ忘れていたとのこと。大事にしていた物なのでナースステーションで保管し昨日御家族が取りに来たそうです。

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私が当直中に報告した時には今の患者が入っており、この患者は徘徊癖があるので特に不思議に思わなかったそうです。

私にとってはゾッとした体験でした。

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