長編13
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七不思議、誕生

今回のお話は就職一年目の年明けすぐのお話です。

その日、私は取引先の高遠社長からのお誘いで飲みに連れられました。

飲みにとはいっても居酒屋などの軽い感じの飲みではなく、私の住んでいるこの県で一番の歓楽街にあるいわゆるクラブという類のお店でした。

歓楽街の一角にあるビルの二階に入ると、一人の女性が出迎えてくれました。

「高遠さん、お待ちしておりました」

「ああ、ママ久しぶり、それじゃあ大事な話だから、今日はルイちゃん一人だけでお願い」

「はい、お待ちくださいね」

ママの口ぶりからどうも高遠社長は今日来ることを連絡していたようでした。

奥の席に通され、私と社長は座りました。

「この前はうちの藍ちゃんが迷惑をかけたみたいで悪かったね」

「いえ、そんな、僕は別に何も」

謙遜して言いましたが、本当にひどい目に遭ったものだと思いました。

高遠さんのところで働いている藍さんという事務員の女の子に心霊スポット探訪に誘われて、危うく人生を終わらせるような呪いに襲われるところでした。

そのときは本当に何の偶然か、私と藍さんはその心霊スポットの霊障から逃れることができました。

しかし、私はなぜ高遠社長がこのお店に私を誘ってくれたのか、その真意を測れないでいました。

というのも、単純に私をもてなすのであれば、このような女性が接待するお店よりも少し高めの居酒屋などの方がまだしっくりきそうでした。

もちろん高遠社長の和やかな性格からしても、私を口実にしてまでこのようなお店に通うようには思えませんでした。

「あの、この前の事件には僕なんかよりも黒川さんの方が・・・」

黒川さんは私の職場の先輩で、いわゆる霊感の強い女性でした。

この前の心霊スポット探訪騒ぎの時も彼女にほとんど助けてもらいました。

「ああ、黒川さんには先にカニ料理をごちそうしてお礼しているから」

既に高遠社長は彼女への対応を済ましているようで、それを聞いて私は安心しました。

また、女性の黒川先輩にはたとえ社長の話が何であれこのようなお店では居心地が悪いだろうと感じられました。

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そんなことを考えていると、社長の指名したと思われる女の子が私達の前に現れました。

「ご指名ありがとうございます、ルイでーす」

明るい笑顔でルイと名乗った女の子は挨拶をしました。

華奢ながら女性らしい丸みが随所に見える魅惑的な女の子でした。

そして、その、なんというか・・・特に胸が豊かでした。

胸元が大きく開いたドレスを着ていたこともあり、その白い乳房は私の目に痛いほどでした。

「えっ、社長、なんで?」

彼女は不思議なことに高遠社長を見てとまどったような表情を見せました。

私は社長が指名したのだから当然お互いに顔なじみで今更驚くことなどないと思っていましたが、どうも雰囲気が妙でした。

「え、ええ、なんで、ここにいるの!」

そして私の方を見た彼女は今度こそ驚愕したように声を上げて固まりました。

私も彼女のその姿を見て、なんなんだろうと思いながら、そういえばどこかで会ったことがあるような気もしてきました。

「藍ちゃん、ごめんね、ちょっと来ちゃったよ」

高遠社長はすまなそうな顔をして女の子に話しかけていました。

社長は彼女の名前を最初に名乗ったルイという名前とは違う名前で呼んだような気がしました。

確か、アイちゃんと・・・

「え! 藍さん?」

その名前を聞いてあらためて彼女の姿をじっくりと見ると、髪型や化粧のせいで見た目が全然違っていましたが、高遠さんのところの事務員をしている藍さんでした。

「どうしてこんなところで・・・」

「藍ちゃん、話してもいいかな?」

「・・・別に構いませんよ、社長も何か事情があるからこの人と一緒に来たんですよね」

まだ驚きのせいか、ぎこちない動きで私達の飲み物を作っている藍さんは諦めたように答えましたが、藍さんが言った社長の事情に関しては私も気になっていました。

高遠社長が何の意味もなく、このようなお店に連れてくることはないと思っていました。

そして、まず高遠さんは藍さんの身の上話を始めました。

「藍ちゃんはね、親の借金をこのお店で働きながら返してるんだ」

高遠社長の話はこうでした。

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藍さんの両親も高遠社長と同じく自分の家で事業をしていました。

しかし、藍さんが高校の卒業を控えたある日、密かに借金を抱えていた藍さんの両親は彼女を残して夜逃げをしました。

当然、残された彼女は訳も分からないまま、債権者達に詰め寄られることになり、最終的に彼女の両親の債務は連帯保証人だった叔父がある程度は処理することになりました。

高遠社長のところも藍さんの両親と取引があり、高遠さんと藍さんに個人的な繋がりができたのはその時でした。

「え、借金は叔父さんが処理したって」

「もちろん、債権者が納得するためにはある程度のお金が必要だったけどね、その際に藍ちゃんが両親の借金は私が返しますってタンカ切ったんだよね、あれはカッコよかったなあ」

社長の言葉に藍さんは恥ずかしそうにします。

「そのときに僕が彼女を馴染みだったこのお店のママに紹介したんだよ」

「それでこのお店で二年半働いた後、叔父の方から毎月の返済をもう少し減らしてもいいって言われて・・・

ちょうどそのときに高遠社長のところで事務員さんが必要になったから、それでね・・・」

「今、藍ちゃんは夜の仕事の日数を徐々に減らしてて、今月末で完全にうちの仕事に移ることになっているんだよ」

「ほんと、社長がいなかったら、私風俗で働いてたかも・・・」

藍さんから風俗という言葉を聞いて、私の頭はいかがわしい方向に反応してしまいました。

藍さんが風俗で働いていたのなら、お金を出せば藍さんと・・・

「あっ、今風俗って聞いてエロいこと考えてたでしょ、ほんとにわかりやすすぎ!」

おまえはエスパーかと思いましたが、やっぱり自分が顔に出やすいのが原因でしょうか。

「今日は・・・こういうお店だから、遠慮なく私の胸を見ていいわよ」

そう言いながら、藍さんは自分の胸を私に強調しました。

自分の欲望丸出し具合に対して自己嫌悪に陥りながら、もうこの話題を終わりにしたいと思いました。

「なんで藍さんが返そうとしたんですか、もちろん自分の両親というのはわかりますけど」

「そりゃあ、絶対に私が返す必要はないかもしれないけど、借金が残ったままじゃ、うちの親がもう一度事業を始めることもできないじゃない」

彼女がいつも金欠そうにしている理由、そしていつもにぎやかに振舞う彼女の芯が意外に強いこともわかりました。

「それで社長なんで僕をこのお店に連れてきたんですか?」

藍さんの身の上話は分かりましたが、必ずしもここで話さなければならないものには思えませんでした。

「うん、君と藍ちゃんはこの前、行政管理心霊スポットに関わったそうだね」

行政管理心霊スポットとはその性質があまりに危険なため、行政が直接管理している心霊スポットの総称でした。

私達は頷きました。

「実はね、僕はそのスポットに関わった人物と昔関係があったんだ」

その話に私と藍さんは驚きました。

「あのスポットが元々の心霊スポットを観光地に変えようとしたっていうのは知ってるよね」

あのスポットとは私と藍さんが訪れようとした行政管理心霊スポットの赤華村のことでした。

その村は元々心霊スポットだったところを観光施設に変えようとしていたのでした。

しかし、その赤華村の名前を直接口にしてしまうと呪われてしまうかもしれないので社長も絶対に口にはしません。

「・・・はい」

「そのオーナーとは何度かここで話をしたことがあるんだ」

社長とそのオーナーがこのお店でどんな接点があるのか不思議でしたが、社長の話ではそれこそ行政管理スポットでのつながりのようでした。

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「突然で申し訳ないけど、悪い人ってどんな人だと思う?」

本当に唐突で意味の分かりづらい質問でした。

「え、どういうことですか?」

「今からそのスポットのオーナーの話をするんだけど、心霊スポットを観光施設にするって考えるぐらいだから、悪い人ってイメージがないかな?」

「そうですね、何となく・・・」

「僕が考えるにその人は世間一般でいう悪い人ではなかったんだ」

高遠社長は少しずつ当時の話を始めました。

話は今から二十五年近くも前のお話でした。

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その人は当真さんという四十代の若手実業家で、大阪や神戸での飲食業を中心に事業をしていました。

その日も若き日の高遠さんと当真社長はこのお店で会っていました。

用件は行政管理心霊スポットのことについてでした。

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「あの村はよかったな、いい観光施設にできそうだ」

「そ、そうですか」

「この県へのアクセスもインフラが整ってきたし、どっと観光客が押し寄せるようになる、その時の売りにしたいんだよ、県にとってもいいことだろう、事業補助の話もじっくり進めないとな」

当真さんはいかにも勢いに乗っている感じの社長でした。

そして、こういう類の人達の中では珍しく、自分の気に入らないものでも良いものであれば受け入れる寛容性も持ち合わせていました。

「その、私もスポットの管理に関わっている人間として思うのですが、本当にあの類の心霊スポットが観光地になるのでしょうか?」

「何言ってるんだ、寺や神社だって同じようなものじゃないか、それを上手く企画していくのが私の仕事だよ」

当真社長は高遠さんに具体的なプランの一端をあらためて説明しました。

「各心霊スポットの成り立ちや逸話をうまくプロモートして盛り上げる。

一部の歴史のあるスポットに関してはお伽噺風の伝承で雰囲気を出して、近くにある温泉地や景観地ともタイアップしたり、お土産のグッズもメーカーと作成する。

スポットの一部には雰囲気を向上させるために追加の建物や彼岸花などの花畑を設ける。

やりたいことは山ほどあるよ」

「その・・・心霊スポットというのは曰くはあっても本当に確かなものかどうかは不明瞭な要素もあると思いますし」

「ああ、それなら大丈夫だ、今回行ってきた村は私が直に視てきたから」

その言葉に、私ははっと当真さんを見ました。

「え、視てきたって、当真さんは・・・」

「ああ、世間でいうところのいわゆる霊感の強い人間ってことだな」

当真さんは自分で心霊スポットの村を視てきて確認したということでした。

「それで高遠君、今この県域で登録されてるスポットはいくつかな?」

「はい、最も歴史の古い紫鬼峠から始まり、最近うちが関わって登録された白護病院など・・・全部で五つです」

「・・・五つか、それで今回の村をまさしく行政が管理するスポットして加えれば、六つだな」

そこまで確認して当真さんは腕組みをしてしばらく考えだしました。

「うん、もう一つ欲しいなあ、そうすれば意味のある数字になる」

「??・・・意味のある数字って何ですか」

「ああ、わかりづらかったかな、あるカテゴリーのものを数字でくくってやることで差別化するんだよ。

例えば四国八十八箇所とかはまさにそうだろう、素人が聞いたらその選ばれた八十八の寺院は何か別格のものに感じてしまう」

「それじゃ、当真社長の言っていた心霊スポットの特別な数字というのは?」

「もちろん七だよ、あと一つだろう」

「七・・・ですか?」

当真社長は私に答えを出させようとしているようでしたが、私はその考えが分かっていませんでした。

「七不思議だよ」

七不思議、一般的には学校などでの怪異の一形式として有名でしたが、確かに日本全国で見ても地域の奇異や神秘を表すものとしても使われていました。

当真さんは行政管理スポットというこの県域の忌地を七不思議に無理やり数合わせをして、その格を上げようと考えているようでした。

「まあ、そういうことだから、高遠君、もう一つ何か考えておいてよ」

当真社長はにやりと笑いました。

私も彼の考えにはなるほどと思う要素もあったのですが、あの腰の重い行政がわざわざ管理しなければ危険と考えるテラースポットを合理性の名のもとにあまりに軽く考えすぎではないか、そういう気持ち悪さを感じていました。

「それで今日のこの後だが・・・玲」

当真さんは仕事の話はここまでという感じで私達のテーブルで接客していた女性に話しかけました。

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「あの、当真さん、他のお客さんのこともありますので、本名で呼ばれるのはちょっと・・・」

当真さんに源氏名ではなく、玲という本当の名前で呼ばれた彼女は少し困ったような表情を浮かべました。

玲さんは気配りができ、知性溢れる魅力的な女性でした。

そのうえ、話術と接客にも優れていて、経済誌などにも目を通しているのか当真さんの話についていけるほどのビジネスの知識も備えていました。

そのため、彼女は当真さんがこの店に通い始めてからのお気に入りの女性でした。

しかし、母子家庭で病気がちの母親の面倒を見ながら生活するためにホステスをやっているということを私も当真さんも懇意にさせてもらってから密かに聞いていました。

また、彼女自身もあまり身体が強くはなく、ときおり夜のこの仕事をしていて疲れているように見えるときもありました。

しかし、そのはかなげな雰囲気が彼女の美貌と相まって周りからの人気を集めている面もあり皮肉なものでした。

「実はな、玲、私はこれからここでの仕事が増えるから、別荘として海沿いのマンションを一つ購入したんだ」

「へえ、すごいですね」

「そのマンションをお前にやるから、今夜から一緒にそこに泊まるんだ」

突然の申し出に当然驚いたそぶりを見せる彼女でしたが、当真さんの話の意味は素早く理解しているようでした。

「私がここにいないときにマンションは好きにしろ、そして私がそこに泊まるときは私の身の回りの世話をしてくれればいい」

そう言って、当真さんは現金が入っているであろう分厚い封筒を懐から出してテーブルに置きました。

「手当も毎月払おう、これで安心してお母さんの世話もできるだろう」

彼の妻子は神戸に住んでいると聞いていたので、要は愛人契約ということでした。

玲さんはしばらく考えているようでしたが、テーブルの上のお金をすっと当真さんの方に戻しました。

「当真さん、大変勿体無いお誘いではありますが、申し訳ございません」

申し出を断った彼女に幻滅したのか、当真さんは神妙な面持ちで話を始めました。

「力を持っていない者は社会に自分が生きていく許可をもらわないといけないんだ。

ある人は時間を捧げて、ある人は労働を捧げて、ある人は知識を捧げて・・・」

その話は皮肉などでは全くなく、むしろ彼女を諭しているような口調でした。

「君に力はないが、美貌というものをもってこの社会に生まれた、そしてそれをうまく捧げて世間に許しを請わなければ生きていけない。

現に君は今このお店で男達に対して媚びを売って生活しているじゃないか」

当真さんの話に玲さんの表情はさすがに動揺しているようでした。

「そして、私は君の美貌と体を最も高い報酬を払って捧げてもらおうとしているんだ」

かすかに・・・玲さんは体を震わせました。

「まあ、今日の話は玲にとってもいい話だ、もう一度よく考えておいてよ」

当真さんの考え方は人間というものを善や悪というもので見ているのではなく、もっと客体的・・・

そう、人間というものはそういう善と悪、両方の性質を元来持っている。

だから、人間の行動のいわゆる善悪の要素には頓着せず、実利だけを取っていく。

そんな風にとらえているようにも感じられました。

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その日からしばらく経ったある日、当真社長は失踪しました。

その後、手がけていたテーマパーク跡は行政管理心霊スポットの中でも最悪のものの一つというほどの呪いの忌地へと変貌していました。

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社長の話を聞いて私も藍さんもしばらく沈黙していました。

しかし、唐突に藍さんが思い出したように尋ねました。

「あれ、確か社長の奥さんの名前って・・・」

「ああ、気づいちゃったか、うん、玲さんだよ」

それは高遠さんの今の話に出てきた女性でした。

「実は僕もあまり性に合わないこういうお店に通い始めたのも玲さんに一目惚れしたからなんだ」

社長は恥ずかしそうに続けます。

「だからあの時彼女に愛人の話が出たすぐあとに意を決してプロポーズしたんだ。

もちろん、議員の親父を中心に水商売の女性ということで大反対されたよ」

高遠さんは当時を思い出しているようでした。

「けど、僕は彼女が満足に生きていけるように仕事に邁進して、世の中に許しを請うてきたつもりだよ」

社長の表情は落ち着いていました。

「何でこんな話をしたのかというと、当真さんが二十年前に失踪して、それでこの話は長らく進展しなかったんだけど」

高遠さんの話ではそもそも行政はあらかたの危険な心霊スポットの調査を終えているので、本来は新たな管理心霊スポットが登録されるということはよほどのことがなければあり得ないことのようでした。

「けどね・・・二年前に強烈な心霊スポットが見つかってね、そこが七番目の管理心霊スポットに登録されたんだ」

高遠さんは詳しいことはもちろん話しませんでしたが、どうも山を切り開いて新道を通すときの工事で偶然そのテラースポットは見つかってしまったようでした。

そして、それ以上に社長の言葉にはもっと重要な単語が含まれていました。

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「二年前に七番目が・・・」

「そう、だから今揃ってるんだ、あの当真さんが思い描いていた強力な心霊スポット群、『七不思議』が・・・」

高遠社長はつぶやきました。

「だから、君達はこれ以上この案件に関わってはいけない、もちろん何の情報もこれ以上は話さない、意味は分かるね」

「・・・はい」

「最近、七不思議の心霊スポットで君達のことだけでなく、色々と動きがあったよね。

このことが単なる偶然で私の懸念が杞憂であることを願いたいね・・・」

強い口調で話す高遠さんは何か視えない大きな悪意が進んでいるのではないかと恐れているように思えました。

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とりあえず…『僕くん』エロすぎでしょう…

このお話し自体の続編はないのでしょうか…
気になることが多すぎ…でも、ここで終わるからこその面白さもあって…
あぁ…(´д`|||)

続編希望で…

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