中編4
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はりがねむし

「ハリガネムシって知ってる?」

同僚のAが訊いてきた。

俺の地元はけっこう緑に囲まれてたから勿論知ってる。

「ああ、あのカマキリに寄生してる奴?」

Aは首をポリポリ掻きながら嫌そうな顔で

「そうそう。俺この前玄関で初めて見てさ、めっちゃびびったよ!

あれは殆どエイリアンだよな。」

と、返す。

確かにあれを初めて見たときはかなり怖かったなあ。

死んだカマキリからにょろにょろと出てきて、

(出てきたからカマキリが死んだのかも知れないが)

うねうねと去っていった姿は強烈だったのを覚えている。

無機物のような姿と、そのまさに「蟲」といった蠢き方のギャップ、

地球の生物と言うよりエイリアンや妖怪と言われた方が納得できるだろう。

こんな街中でもいるんだな。

やはりあいつらも環境に順応していくのだろうか?

俺達はその後もくだらない話をして、それぞれ家に帰った。

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次の日、会社でAを発見したのだが、何か様子がおかしい。

お昼に尋ねてみると、

「何か体調が良くないんだ。下痢ぎみだし、たまに吐き気もあんだよなあ。」

とのこと。

肩もこっているのか、ずっと首周辺を手でいじっている。

「言ってるとまた腹が痛くなった。ちょっとトイレ」

かなり顔色が悪かったな。

大丈夫だろうか。

俺はしばらく待っていたがその後10分程経っても戻ってこない。

まさか倒れていることは無いと思うが、

様子も様子だったので少し心配になりトイレを見に行くと、Aは個室の外にいた。

倒れてはいなかった。

むしろ真逆、

Aは洗面台の前でぼうっと突っ立っている。

微動だにせず、棒立ちしている。

その目は一体どこを見ているのかも分からない。

俺はその異様な光景に少しの間固まってしまったが、なんとか声を絞り出す。

「お、おい。A大丈夫か?」

するとハッと我に帰った様子のAが振り向いた。

「あ、ああごめん。ちょっと居心地が良くてぼーっとしてたわ。」

居心地?トイレがか?

「しっかりしろよ。もう休みは終わるぞ。」

「ごめんごめん。」

俺の方から先にトイレの外に出ると、またおかしくなるかもと思い

Aを先にトイレから追い出した、

んだけど、その時、襟で隠れていた彼の首の後ろ側がチラッと見えた。

何故か真っ赤になっていた。

引っ掻いた跡の様なものもある。

「おい!それ!」

俺は慌てて声をかけたが、Aは何故か無視をして早足で去っていった。

仕事が終わった18時過ぎ、いつの間にかAはいなくなった。

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翌日、Aは会社に来なかった。

昨日の事もあり不安だったので昼に電話をかけたところ、病院に行っていたらしい。

「病院は何て言ってたの?」

「食中毒か何かだろうって、でも、違うんだよ。

首がめちゃくちゃ痒いんだ。ずっと痒い、

だからそんなんじゃないんだ……」

実はアレルギーか何かかも知れない。

「……だからあんなに首がはれてたんだ。でもあんまり掻くなよ、悪化す」

「そうだけど勝手に掻いちゃうんだよ!首が痒くて仕方ないんだ!」

言い終える前にAは声を荒らげて俺の発言を遮る。

やっぱりおかしい。

嫌なかんじ。

精神的にもまいってしまっている?

「ま、まあゆっくり体調を整えろよ。」

「ああ、……ごめんな。」

Aはどうしてしまったんだろう。

そう言えば、ハリガネムシが人にも寄生すると言う都市伝説を聞いたことがある。

寄生虫って下痢とかがデフォなんだっけ。

……そんなわけ無い。

あれはただの都市伝説だ。

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次の日もAは来なかった。

昼、電話しても今度は出なかった。

仕事が終わり、俺はAのアパートに向かう。

ドアの前に立ち、インターフォンを押した。

その時、

ドアの新聞受けが

独りでに動き、

その隙間から

にょろにょろと、うねうねと、

這い出てきだした。

ハリガネムシだ、と思ったが

ナンダコレ、新聞受けから続いているソレは、

後退った俺の足元でうねうね、うねうねと円の形になり、

長さ2メートルはある、

というのに、

まだしっぽは新聞受けの中から出てきていない。

まだ全身は出てきていないんだ。

俺はいつの間にか座り込んでいた。

ただ茫然と

何となく

蟲が新聞受けから這い出る様子が、いつか見たカマキリの尻から蟲が這い出た光景と似てるなあ、

とか

呑気に思いながら、

次第に意識が遠のいた。

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Aは結局死んでいた。

解剖の結果、体内の臓器が食われたかのようになっていたそうだ。

そんな怪事件だというのに、報道は全くしないし、警察が俺を疑ったりもしなかった。

……というより、あの日の警察の変な様子を思い出すと、どうやら警察は何かを知っている気がする。

疑わないのはその為だろう。

アノ生き物は絶対エイリアンだ。

そうでなければ妖怪だ。

犠牲者もホントはもっといるのだろう。

「おい、なにやってんだ!」

おっと、上司に怒られてしまった。

ついつい考え込んでしまったのだ。

「考え事でも突っ立ってたら危ないだろ。とっとと机に戻れよ。」

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そうは言っても、ここが居心地良かったのにな。

俺は首を掻きながら、しぶしぶトイレから出た。

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バンビさん
僕は子供のころ生でハリガネカマキリ脱出劇を見ちゃったことありますが、「妖怪っているんだな」と感動(?)しましたよ。

ハリガネムシ…
未だに怖くて見れないんですよ〜
トラウマになりそうで((((;゚Д゚)))))))
そんなのに寄生されたら〜嫌だ〜