中編4
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失敗作

music:4

僕はある日不思議な夢を見た。

僕は一面真っ白な空間の中に居て、目の前に光の塊がいた。

その光が僕に話しかけてくる。

「子供達よ。私はお前たちを甘やかしすぎていたようだ。お前たちは失敗作だった。私は、お前たちを失敗作としてつくってしまった責任を取ろうと、お前たちが暮らしやすい世の中になるよう、手助けをしてきた。しかし、今世の中は私が思い描いた平等なものとはかけ離れてしまった。私はこれより、真に平等な世の中の実現のために動く。お前たちはこれまで通り暮らすことはできないかもしれない。これからの世の中でどう暮らすかは、お前たち自身で見つけ出すのだ。」

そこで僕は目を覚ました。

不思議な夢だとは感じたが、僕は夢のことは深く考えず、朝の支度を整えて仕事に出かけた。

その日は特に変わったこともなく、僕は家に帰ってきた。

その夜、テレビを見ているとあるニュースが入ってきた。

「特集のコーナーです。今日の特集は新しい給与体系についてです。障害者差別解消法が施行され、様々な障害に対する関心が高まりました。そんな中、ある企業では障害を持った人の能力を活かそうと新しい給与体系を実施しています。」

この特集で取り上げられていた企業は僕の会社とも取引がある、某大手企業だった。

特集によると、その企業が実施している給与体系は能力別基本賃金制というらしい。その内容をまとめると、「障害者」「一般」双方の従業員に能力値測定試験というものを受けさせ、能力を数値化する。その結果により従業員が最も能力を活かせる部署に配属される。そしてその部署で最も重要視される能力値に対応した固定賃金が従業員ごとに設定され、業績をあげれば、さらに賃金がそこに上乗せされる。

この制度の狙いは、能力の評価と固定賃金によって、従業員の自信とモチベーションを高めることで、従業員がより良い業績を上げるようになり、結果的に企業全体の業績が上がることらしい。

次の日、僕が出社すると部長から能力値測定試験を受けてから普段の仕事をするよう言われた。来月から僕の会社でも能力別基本賃金制を導入するらしい。あまりに急な決定に僕は少し違和感を感じていた。

翌月、能力別基本賃金制が開始された。結局僕は部署の異動はなかったが、数人の同僚が異動となり、また他の部署からも数人が僕の部署に来たようだった。ちなみに僕の固定賃金は以前の月給よりすこし少ないくらいだった。

その後部署内で固定賃金のことがけっこう話題になり、同僚たちと話をした結果、障害者枠で入社した従業員のほとんど、特に発達障害者は固定賃金が以前の月給より多くなり、逆に一般枠で入社した従業員のほとんどは固定賃金が以前の月給より少なくなっていることがわかった。

それから能力別基本賃金制を導入する企業は増えていき、年が明ける頃にはほとんどの企業がそうなっていた。

さらに年度が変わった頃、障害者の雇用率が急激に上がったとテレビで見た。背景には能力別基本賃金制の導入により、障害者枠で入社した従業員の業績が飛躍的に上がったことがあるとされていた。

さらに数年後には、中小企業を中心に、障害者枠で入社した従業員が社長や副社長になるということが増えていた。

これほどに世の中が変化したのを見て、僕は夢のことを思い出していた。そしてあの夢の光はもしかすると神様だったのではないかと思い、僕は教会に行き神父様に夢のことを話した。

「なるほど、あなたは神の啓示をうけたのかもしれません。だとするとこれは神が私たちに課した試練なのでしょう。そして、よく聞いてください。あなたが神の啓示を受けたのなら、きっとあなたは神の試練を乗り越えるのに重要な位置にいるのでしょう。あなたはそのために動くべきです。」

そう神父様は僕に言った。

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あれから10年、俺は教会に行った後、真に平等な世の中を作ることを目的とした組織を作った。組織にはいろいろな人間が集まってきた。障害者、そうでない者、俺と同じ目的をもつ者、俺の考えに共感した者、俺と同じように神の啓示を受けた者もいた。そして今、組織は十分世の中を変えられる規模になった。

music:6

俺は今、世の中を変える作戦を実行しようとしている。

まずは永田町に乗り込み、国の中枢をたたく、そして国の主導権を握る。次は、全国の失敗作どもを徹底的に粛清し、この国の仕組みを根底から崩す。そして、新しい世の中を作るのだ。

「さあ、革命の始まりだ‼︎」

Concrete
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プラタナスさん、ご無沙汰しています。
これは… 今後の日本、世界中で起こったらと思うと言葉では表せない恐怖感が襲いますね。。
どうか日本に、いや全世界に平和を祈るばかりです。

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これは何とも言えない、実際に行われたらと思うと(-̀ω-́ ;)
深く考える程恐ろしい話ですな。

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