中編3
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結婚式

 これは高校時代の友人、サトミから聞いた話。

 サトミは父方の従兄(いとこ)である6歳違いのツヨシが大好きだった。小さい時からよく遊んでくれる兄のような存在だった。幼いながら恋心を抱いていた。

大人になったらツヨシ兄ちゃんのお嫁さんになると真剣に思っていた。

法律的にはいとこ同士の結婚は認められているが、ナイーブなことであるし第一、親が許してはくれないだろうと段々と理解はしていたので、親には秘密だった。

 ツヨシはサッカーが得意で、いったいいつ勉強するのかと思うほど成績も優秀だったから女の子にモテた。

日に焼けた精悍な顔はサッカー日本代表の○崎選手に似ていた。年頃になったサトミにもボーイフレンドは何人かできたが、いずれも長続きはしなかった。どうしてもツヨシと比べてしまうからだ。忘れられずにいた。

ツヨシは大学卒業後、大手電機メーカーに就職し、間もなく結婚した。職場の女性に猛アタックを受けたらしい。

新婚旅行はハワイ。ツヨシの母親、つまり叔母さんが二人の旅行のスナップ写真をアルバムにして見せに来てくれた。

ハワイで一緒に買ったらしいお揃いのTシャツを着て、楽しげに写っている。

高校生だったサトミは胸が苦しくなり、まともに見ることができなかった。

そして夜、こっそり写真に写ったツヨシのお嫁さんの顔、胸、ありとあらゆる箇所にマチ針をブスブスと刺しまくった。

二ヶ月後、ツヨシのお嫁さんが亡くなったと親から聞き

サトミは震えが止まらなかった。

帰国した直後に、潜伏していた結核菌が肺や脳にまわり、高熱のあげく意識不明のまま亡くなったとのことだった。

まだ20代前半の若さである。

その後ツヨシと家族はしばらく悲しみに打ちひしがれていたが、若さとは薄情なものですぐに二番手の女性がツヨシに結婚を迫り、それを受けた。

悲しみに沈み込んだ若い男ほど魅力的なものはない。それが判るほどにサトミは女になっていた。

サトミの心は再びざわめきだした。

19歳のサトミはそれを表に出さない術も身につけていた。

ツヨシの結婚式は前回のこともあったので、大人達の配慮により地味に執り行われた。

サトミはコバルトブルーのパーティードレスをレンタルで借りて着た。鏡に映る自分の姿にうっとりしたが、心は激しく乱れていた。

「おう、サトミ、お前いい女じゃんか」と白いモーニング姿のツヨシが声をかけた。ツヨシは昔と変わらずサトミを子供扱いする。

「まぁね。きゃはっ」おどけてみせた。

親戚一同の集合写真も撮り終え、式はつつがなく終わった。

いつもと変わらない日々が過ぎていったが、ふと違和感を覚えた。

用事がなくてもしょっちゅう家に来る叔母さんが、写真を持ってくるどころか、パタリと顔を見せなくなったのだ。

ツヨシの近況も知りたかったサトミはしびれを切らし、休日に叔母の家を訪ねてみることにした。

「叔母さん、ツヨちゃんの写真まだ届いてないみたいだけどどうしたの。見せて欲しいんだけど」

叔母さんは困ったような顔をしてサトミの目を覗き込んだ。

「サトミちゃん。困った事があるのよ。どうしていいのかわからないのよ。これ見てくれる?」

そう言うと戸棚の引き出しを開けて、大きな封筒に入った結婚写真を取り出しパタリと広げた。

集合写真だった。

新郎新婦が前列中央に座り、その周りを親戚一同が取り囲んで写っていた。

白無垢に身を包み、綿帽子をかぶった新婦の顔に息を飲んだ。

あるはずの顔が、まるでそこだけを切り取ったかのように黒くなっている。あるいは墨で塗りつぶしたように真っ黒なのだ。

「最初に見たときはこうじゃなかったの。だんだんとこんなふうに……」

叔母さんは泣きそうな声で言った。

次にサトミは写真の中の自分と叔母さんの姿に目を止めた。

二人とも骸骨の顔になっていた。

その後サトミは故郷から離れた遠い街で独身を続けている。

親戚とも疎遠になったらしい。

【了】

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