短編2
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続 死にゆく男の記憶

何社も受けてやっと受かった中小企業に入社する事ができた。コツコツ真面目に働き、少しづつ昇進していく。

時が経ち久しぶりに会う高校の同窓会で、同じクラスだった同級生と付き合う。やがて結婚し子供を作る。ギリギリより多少給料も上がり少し余裕ができた。これでマイホームが買える。可愛い子供と愛する妻のために頑張ろう!!そう心に決める。

これらは全て死ぬ間際から生まれた彼の妄想である。

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中小企業に入社して真面目に働いてはいたけれども、要領が悪くスグにミスをしてしまう。上司から説教の毎日で、きっとこの頃から少しづつ病んでいたのだろう。そんな説教される毎日に周囲も士気が下がっていたに違いない。勿論、定年近いという事は仕事場の後輩も出来て来るわけだが、この調子なので後輩からも同僚からも追い抜かれていたのだろう。

ただなんとなく時間だけが無駄に流れる感覚の中、彼はゆっくりと孤立していったのだろうか…

そんな男に明るい希望やら楽しい暮らしなど、夢の話でしかなかった。未だ尚独身貴族…っと言えば聞こえはいいのだが、この歳で独身貴族も本心で謂うならきっと堪えてただけなのだろう。それでも彼は唯一の心の癒しになって居たのが大家に内緒で飼っていた野良猫だ。しかし所詮猫なので気ままなものである。部屋にはいつもいないお腹が空いた時にだけ帰って来る。その猫は今はどこにいったかは分からない。

或る日、そんな彼の元に高校の同窓会の案内が届いた。そんな1番輝いてた1番楽しかった青春時代と向き合えるほどの形ではないので、その案内ハガキは屑篭の中に放り投げた。『今ここで同窓会に顔を出したら、恥晒しだ!!』そんな想いを込めて、ハガキを細かく細かく何枚も破いた。1番楽しくて輝いてた青春共々、粉々にして捨てた。

もう孫がいてもおかしくない歳にさしかかってきた同級生の孫自慢は聞くに耐えない。

田舎から上京してきた定年間際のおっさんに、親しい間柄の友と呼べる対象も、大切に愛を育む大切な人も居ない。完全に孤独そして孤独する老人と同じ境遇だっただろう

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あの日記を読んだのは紛れも無い今自分が住んでいるマンションのこの部屋である。

所謂、事故物件というやつで、それなりに家賃が激安で、都心から二駅しか離れていない一等地なのに、ズバ抜けてこの部屋だけ激安だったので、今この部屋に住んでいる。

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定年間際のこの男は、この部屋で首を吊った。

そして時々猫の声が爪を研ぐ音とともに部屋に響く時がある。

Concrete
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うぅ…(´っω・`。)

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