長編9
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あのね…

のんびり屋でホワンとした長女が、先日私にしてくれた話をしたいと思います。

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「お母さん、私が小さい頃、お母さん、昼も夜も働いてたよね。」

不意に長女が、そう話しかけて来たのが話の始まりでした。

「そうだね。あんたが小さい頃は、お母さん、働いてばっかいたね。嫌だった❓」

そう聞いた私に長女は、

「嫌じゃなかったよ。託児所にいたし、ニイニ達が居てくれたから。」

長女はそう言いました。

ニイニと呼ぶのは、妹の子供、私からすれば甥っ子達、

長女には従兄弟です。

「そうだね。小ニイニとあんたはとても仲良しだったもんね。よく、お母さんの部屋で、2人で寝てて、可愛かったよぉ〜。」と言うと、

長女は、

「冬の夜遅くに、お母さんが布団にモゾモゾって入って来て、私と小ニイニの間に割り込んで、抱っこして寝てたよね。」と笑いました。

「あんた達、あったかくて。お母さん、とにかく布団に入ってあんた達にあっためて貰ってたよ。お母さん、体冷たいから!あんた達最初嫌がるんだけど、『寒いよぉ〜、あっためて?』て言ったら、2人ともぎゅうってくっついて来て、可愛かったなぁ。」

と私が言うと、

「でもあの頃、小ニイニ、おねしょが酷かったんだよね。

だから、私と寝るようになったんだよ。

覚えてる?」と聞いて来ました。

そうだったね、と私が答えると、

「おねしょ、知らない間にしてるんじゃなくて、行けなくて漏らしちゃうって、小ニイニが言って、

どうして行けないのって聞いたら、『1人で行けないから』って。だから、トイレの前にある私達の部屋で、小ニイニも寝るようになったんだよ。」

長女はそう言いました。

「そうだったね。お母さんが帰って来た時に、小ニイニに声かけて、おトイレに行ったりしてたね。

よく覚えてるね。」

そう言う私に、

長女は、

「なんで、行けなかったか、知ってる?」と聞いて来ました。

「夜だし、暗いし、あの頃、パパがいなくなった頃だったから、心が弱くなってたりしたんじゃないかな。

大ニイニもよく、『昨日、フラフラお家の中歩いてたような気がする』って、言ってたりしたじゃない?

お母さん、帰って来た時、大ニイニと妹(私の妹)の寝る部屋を覗いたけど、そんなのは一度も見たことなかったけどね。」

私はそう答えました。

そう言いながら、私は、その頃の事を頭の中で、思い出していました…。

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当時私と娘は、海外に住むことになったお友達の家を借りて住んでいました。

2人で住むには、有り余る部屋数のある大きなお家だったのですが、

妹の当時の旦那が、浮気の果て、その相手の人と、失踪同然に姿をくらまし、専業主婦の妹は生活に困り、

子供を2人連れて、転がり込んで来たのです。

相手をなじるばかりで、仕事を探そうともせず、、小学校も休ませっぱなし…。1日の大半を、寝るか、泣くか、相手をなじることに費やしていました。

私から見れば、妹は、相手の肩を持つわけではありませんが、

よそを向かれても仕方のない嫁だったと思います。

それに、妹も、『息抜き』と称し、出かけた先で知り合った男と火遊びもし、何日か家に戻らない日もありました。

そんな事はまるで無かったかのように、

『私は、ちゃんとやってた。』

『私は、一日中家のことをしてた。』

『私は子供を必死で大きくしてたのにッ!』

『あいつは!』

『あいつは!』

『あいつは!!』

明けても暮れても同じことを口にし、甥っ子2人はそれを聞いて過ごしていました。

私と長女は朝から出かけ、仕事に、保育園に行き、

夕方帰って来て、週に3日は夜もバイトに出かけて長女は託児所に預けていました。

一緒に住み始めてからも、最初のうちは夜のバイトに行くときは、長女を託児所に預けて居たのですが、妹が転がり込んで来た事で、生活がきつくなり、

妹に、夜の私の留守の間、娘も見させることにしました。

長女は、夜の9時前には自分で布団に入って行くような子だったので、夜の9時前に出勤する私が部屋まで一緒に行き、布団に入るのを見届け、妹に

「何かあったら連絡してね。」と言い、出かけていました。

小ニイニと、長女が呼ぶ甥っ子が、私の部屋で寝るようになったのは、

我が家に来て2週間位経ってからだったと思います。

「にゃにゃみの部屋で、寝ていい?」

そう聞いて来た小ニイニは、泣き出しそうな顔でした。

「どうしたの?おねしょを気にしているの?」

そう聞くと、

「ママが、『臭い』って。

『トイレの前に布団引いて寝ろ』って言った。」と、泣き出しました。

…。

あの子はまた…。

どうしてそんな、抉ぐるような事しか言えないのかしら。

私は腹が立ち、

「にゃにゃみの部屋で寝たらいいよ?

おねしょなんて、気にする事ない。

にゃにゃみが帰って来たとき、目が覚めたら、一緒に連れて行ってあげるから。

もし、にゃにゃみが帰って来てない時、トイレに行きたくなったら、○(長女)を起こしな?

○着いて行ってくれるから。それに、おねしょシートも引いてあるから、大丈夫よ。」

そう…。

そんなやりとりがあったなぁ、

そんな事を思い出していました。

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「小ニイニ、何回か私を起こしたことがあるの。

眠くて、でも目を開けたら、ものすごく泣きそうな顔して、『ごめんね。おトイレについて来て?』って、そう言うんだよ。

私はまだ、小学校にも行ってなかったし、二イニ達より小さかったけど、本当に、かわいそうだった。

2人で手を繋いで、おトイレに行ったんだよ。」

長女はどう行ったわけか、幼い頃から、

暗がりを怖がるとかいうことがない子だったのですが、

だからこそ、

『あー、小ニイニ、本当に怖いんだな。』と思った、と言いました。

そうでなければ、普段、

「大丈夫?○、僕につかまって?」

「○、こっちにおいで、危ないから手をつなごう。」

○、○、そう言って名前を呼んで、自分を助けてくれる優しい、強いニイニが、泣き顔で、ついて来てなんて言ったりしない…。

長女は、

「だからね、『眠たいのになぁ。』とか『起こさないでよ。』とか、ちっとも思わなかった。

いいよ、行こう?って、2人で手を繋いで、トイレに行ったんだよ。」

そうだったんだね。

私は話を聞いて、胸がぐっと詰まっていました。

すると長女が、

「お母さん、小ニイニ、何が怖かったんだと思う?」

そう聞いて来ました。

何だろう。

単純に、大きなお家の真っ暗闇は、子供なら普通は怖いだろうし、あの頃はだから、パパがいなくなってすぐだったし、ママも何だかおかしかったし…。

「さぁ、不安だったのが、怖い気持ちを大きくさせてたのかなぁ。」と

私は答えました。

長女は、

「小ニイニ、寝る時いつも、

『にゃにゃみがいつも、お家にいればいいのに。』って言ってた。

どうしてって聞いたらね、

『にゃにゃみが居ない時、ママは本当におかしいんだよ。』って言ったの。

何がおかしのって聞いたらね、

『ママ、たまに、夜とか昼とか、紐を持って、ウロウロするんだ。』って、そう言った」

紐を持って、ウロウロ?

何やってんだ、あの子は。

そういう私に、長女は、

「私もそう思った。

だからね、何をしてるの?って聞いたらって、小ニイニに言ったの。

そしたらね、

『聞いた。』って、

『ママ、僕の縄跳びで何をするの?』

そう聞いたんだって。

何回も何回も、聞いたって。

そしたらね…」

『うるさいな、お前は連れて行ってやらない』

小ニイニは、そう、言われたんだって。

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何も言えず、ただ、驚いて言葉の出ない私に、

長女は、

「…すぐにわかったんだと思うの。ママがどこに行こうとしてるか。

小ニイニは、

夜に、部屋がたくさんあるあの家のどこかで、

ママが死んじゃってるんじゃないか

って、

それが怖かったんだと思うの。

お母さん、さっき、大ニイニが

『夜にフラフラしてた。』って言ってたことあったって言ったでしょ。

ママに連れられて、歩いてたんだよ。

紐を持ったママに、連れられて歩いてたのを、大ニイニはあんまり覚えてないんだよ。

小ニイニは、それをおトイレ行って、部屋に戻る時に見たんだよ。

小ニイニ、置いていかれるって、

どんな事か、深く理解できなくても、そう思ってたんだと思うんだ。

だけど、死んじゃうのも、怖いじゃない。

小ニイニ、どうしていいか、分からなかったんだと思う。

それが、小ニイニがトイレに行けなかった理由だよ。

トイレが怖いんじゃなくて、

置いてけぼりにされるって思った事が、1番怖かったんだよ。」

長女は、そう言いました。

何であんた、そんな話を、

ちゃんとその時してくれなかったの?

責めるつもりではなくても、私は長女にそう言っていました。

「ごめんね、でも、私も聞いた時は、よく分からなかったんだよ。

それに私、怖いって思うより、小ニイニが可哀想で仕方なかった。

何で、ママなのに、小ニイニにそんなこと言うのって、

とても、悲しかった。

だから『もう、怖くないよ。』って言ったんだよ。

『お母さんが、いるからね。』って。

『絶対、お母さんが、ニイニ達の事、助けてくれるよッ!』って、私、そんなふうな事、何で言えたのかな、でも、言ったんだよ。

そしたらね、お母さんがその日、夜の仕事のお客さんから、事務員の仕事を貰ってきたんだよ。

覚えてる?

お母さん、その日、

ニイニ達のママを真夜中叩き起こして、

「明後日面接だからッ!用意しなさいよッ!

いつまでも、メソメソしてないで、ちゃんと立ちなさいッ!」って、

大声で、怒ったんだよ。

大ニイニはその時も寝ぼけてて、外はまだ真っ暗なのに、

「今日から3学期?」っとか何とか笑、

おかしな事言って、着替えようとしてたよね。」

そう言って、ウフフフフと、涙を浮かべて笑いました。

何で今、そんな話を、思い出したの?

そう聞いた私に、長女は、

「ニイニ達が、今のパパの所で家族になって、お別れした時に、

小ニイニが、

『大きくなって、僕達が中学生とかになったら、もしかしたら会えなくなってるかもしれない。

でも、○の事も、にゃにゃみの事も、大好きだからね。

助けてくれて、ありがとう。』って、言ってくれたなぁと思って、

私はニイニ達と離れて、毎年12月になったら、

ニイニ達があの家に来た時の事、思い出してたんだよ。」と言いました。

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どんなに長女に頼まれたとしても、私が妹に連絡を取る事はありません。

それが甥っ子と連絡を取るためだとしても、

私は妹に連絡を取る事はしません。

その事は長女もよくわかっています。

「私も、ニイニ達のママには、連絡は取らない方が良いと思うよ。」

長女はそう言います。

でもね、

もし、小ニイニが、大ニイニが頼って来たら、

また、助けてあげてね?

2人は私の、大切なお兄ちゃんなの

長女はそう言って、すっぽり、頭まで毛布を被りました。

私は、毛布の上から、長女に覆い被さって、

「わかってる。」とだけ言い、頭を撫でました。

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まだ、小さかった甥っ子達、今ではもう高校生になっているはずです。

大ニイニも小ニイニも、あの頃の事をどのように覚えているでしょうか?

小ニイニは長女に話す事で、母親がおかしいことに対する不安を、ほんの少しでも解消できていたのかもしれませんが、

大ニイニは本当に、あまり覚えていないのでしょうか?

人は、辛い記憶や出来事を、思い出さないように蓋をすることができる生き物です。

どうか、なぜか思い出して、1人で辛くなってたりしないように、そう願うしか出来ない私ですが、

今だって、甥っ子2人のことは、昔と変わりなく、

長女が想うように、私も大切に思っています。

2人が、母親に振り回されず、大きく成長しているように…、

今はそれを願い、いつか会えたらと、

そう想うばかりです…。

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にゃにゃみさん、ご無沙汰しております。
作品、読ませていただきました。
幼い子供はどんなに小さな行動にも敏感に反応しますよね。
それが家族、実の母親の行動なら尚更です。
私も見て胸が痛くなるところがありました。
甥っ子さん達の幸せを願うばかりです。

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なんだろう…何故か、涙が出そうです。
子供って…子供の頃って、そんな大層な事ではなかったり、その時に大人に言えば、難なく解決できたであろうことを、何故か子供同士
“これは言ってはいけないことだ”
と、秘密にしていることってありましたよね…
当時、にゃにゃみさんにさえ、誰かが相談していたら…と思うものの、それを言ってしまうと、妹ママが出ていって、大変なことになるのかも…等…
子供の知恵なりに、色々考えたのでしょうか…

私も、大ニイニ・小ニイニの現在の幸せを願います。
そして…今回は、可愛い長女ちゃんに免じて、妹ちゃんへの悪言は控えますね(*´ω`*)

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