【夏風ノイズ】喰らう(異聞)

短編2
  • 表示切替
  • 使い方

【夏風ノイズ】喰らう(異聞)

 黄昏時に外へ出てはいけない。少女は幼い頃、祖父からそう聞かされていた。

少女の住む町には、ガリョウ様という妖怪の言い伝えがあった。ガリョウ様は、黄昏時になると町のどこかに現れ、霊を食べるのだそうだ。確かに不気味な話だが、なぜ外に出てはいけないのかと、少女は祖父に訊ねたことがあった。すると祖父はこう答えた。

「ガリョウ様は、毎日黄昏時になると、腹を空かせて現れる。じゃから、近くに食える霊がおらん時は、人を食らっとる」

しかしそんな言い伝えも、今の世代ではほとんど忘れ去られ、次第に黄昏時でも平気で外を出歩く者が出てきた。

nextpage

 少女が中学生の頃、大好きだった祖父が他界して一年が経ったある日のことだった。朝食時にテレビを観ていると、少女の住んでいる町でここ数年間謎の不審死が多発しているというニュースが流れた。死因は心不全だが、その全員が道端で突然倒れて亡くなっているらしい。

 その日、少女は友達と遊んで帰りが遅くなり、帰路に着いたときにはすでに空が赤く染まりかけていた。ふと祖父の言葉を思い出した少女は、早く帰らなければガリョウ様に会ってしまうかもしれないと思い、なるべく足早に歩を進めた。

 その直後だった。

 丁字路を曲がったところに、何かがいた。それは、異様に背が高く、白いミイラのような怪物だった。

 少女は足が竦んで動けなくなり、その場に硬直していた。すると怪物は大口を開け、ノソノソと少女の方へ歩み寄ってきた。

 殺される。少女がそう思ったその時、誰かの声が聞こえた。

「だから外へ出ちゃいかんと言ったんじゃ」

その声は祖父のものだった。少女の目の前に半透明の祖父が現れ、怪物の方へスゥーッと近付いて行ったのだ。そして祖父は怪物の大口に捕まり、少女の目の前でガブガブと喰われていった。怪物は満足したのか、後ろを振り返りノソノソと歩き去っていった。もう、辺りは暗くなっていた。

 それ以来、少女は黄昏時に外出をしなくなったという。

Concrete
コメント怖い
3
8
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信

プリン不足人間様、コメントありがとうございます!

返信
表示
ネタバレ注意
返信