再会【神成弥子シリーズ】

中編5
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再会【神成弥子シリーズ】

ふぅ…私の話もそろそろ終わるかな。

あぁいや、別にもう話すことが無い訳じゃないけどね。

ん?…あぁ、この猫?何故かわからないけど、昨日から居座っててね。

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さて…猫のことはさておき、話をしようか?

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「はぁ…」

寒空の下、私は溜息をつきながら街中を歩いていた。

今は冬。寒くなり、外出をしたいとはとても言えない季節。

私は、ある悩みを抱えていた。私には夫がいるのだが、とても返済出来るとは思えない額のお金を借りていて、最近は毎日借金を返してくれ、と電話や玄関口で言われるまでになっていた。

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私は疲弊し、夫も家に帰ってくる時間が減った。

「そういえば…あの子、どうしてるのかしら……」

ふと、娘の事を思い出した。娘は幼い頃から妄言を繰り返し、周りを呆れさせていたが、娘にも恋人ができ、そして2人ですぐに同棲を始めた。

それっきり、娘はたまに手紙を寄越すだけで家には帰ってこない。私は孤独だった。

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「はぁ…」

何度目かもわからない溜息をつき、私は帰路を辿る。しかし、家に帰ってもまた借金返済の催促があるだけだろう。私は自殺を考え始めていた。

「自殺は、やめておきなよ」

唐突に声を掛けられた。

「え…?」

後ろを振り返ると、そこには20代半ばの女性がいた。すっかり大人びているが、幼さの残る顔立ちには見覚えがある。

「弥子…?」

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私は、久しぶりに故郷を訪れていた。別に何か目的がある訳じゃない。ただ、なんとなく帰ってきただけだ。そしてなんとなく、家にも行ってみようかと思い、朧気な記憶で家への道を辿る。

すると、前から不穏なモノを感じた。ふと見てみると、女性がいる。余程憔悴しているのだろう。フラフラと頼りなく歩いている。

思念を感じ取るよう集中すると、どうやら自殺を考えているらしい。私はつい、声を掛けた。

「自殺は、やめておきなよ」

「え…?」

急に話しかけられて驚いたのだろう、その女性はすぐにこちらを向いた。見覚えのある顔。

私は少なからず驚いた。

「弥子…?」

私の、母親だった。

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「弥子……弥子、なんでしょ?」

弥子はゆっくりと頷いた。

「そうだよ」

「あぁ……弥子、本当に、元気そうで何より…」

しかし弥子は私の言葉には返さず、すぐそこの喫茶店を指差した。

「とりあえず…話をするなら、あそこで。寒いし」

私は、態度も、表情も、声も冷たい弥子に驚いた。

「……え、えぇ、そうね………」

私は、弥子の言葉に頷き、一緒に喫茶店へ入った。

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私の指定した喫茶店に入り、注文を手早く済ませ、母と改めて向かい合う。

久しぶりだからか、悩みを思考の隅に追いやろうとしているのか、母は矢継ぎ早に質問してきた。

「仕事、ちゃんとやってるの?」

やってるよ。

「上司とか同僚と上手くやれてる?」

自営業だからいない。

「自営業?なんの会社?」

心霊関係の相談事務所。

「心霊って…あなた、まだそんな事言ってるの?いい大人にもなって、まだ妄言を繰り返してるの?」

私はその言葉に強く反応した。そして、2人の時が止まる。

ウェイトレスが飲み物を持ってきてくれたが、礼も言わずに、時間だけが過ぎる。やがて、私の方から口を開く。

「妄言……ね」

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「妄言……ね」

弥子は哀しそうに微笑みながら、そう呟いた。

瞬間、とてつもない罪悪感が私を襲う。違う、私は、私はそんなつもりじゃ…。

「ぁ…」

そう考えているのに、伝えなくちゃいけないのに、声が出ない。

弥子はそんな私の事を一瞥もせず、

「お母さんは…なんで自殺をしようと考えてたの?」

「それ、は…」

途切れ途切れに、伝える。私の、今の状況を。

「ふーん…」

弥子は興味無さそうに私の話を聞いていた。

「ついてきて」

「え?」

「…速く」

弥子はそれだけ言い、立ち上がる。会計を済ませ、店を出る弥子を私は慌てて追う。

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母が喫茶店から慌てて出てきたのを一瞥し、私は続ける。

「自殺は……やめておいたほうがいいよ」

「それは…さっきも言ってた、けど…何故?」

「知りたい?」

私は敢えて問い掛ける。しっかりと、母を、母の眼を見据えて。

母はそれに気圧されたようにたじろぎ、それでも、

「………知りたい」

と言った。

「じゃあついてきて」

私はそれだけを言い、歩き出す。母はしばらくぽけっと立ち尽くしていたが、やがて走って追い掛けてきた。

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前を歩く弥子について行き、私はある廃屋へと案内された。弥子は私を振り返り、説明する。

「此処は…昔住んでいた家族の1人が、自殺した家。それから怪奇現象が起こるために放り捨てられたような家」

弥子の説明を聞いても、なにもわからない。

何故こんな所に来るのか。

何故そんな事を知ってるのか。

何故…そんなに冷たい目で私を見るのか。

「自殺の意味を知る覚悟が、お母さんにはある?」

弥子の問い掛けに、私は…答えられない。それでも…。

「えぇ………ある」

そう、答えた。弥子が前を向くその時、少しだけ、弥子が笑ったような気がした。

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私は母の言葉を聞き、そして廃屋の中に入る。

「こっちだよ。速く来て」

母を催促し、私は目的の部屋へ向かう。

そして、部屋の前で立ち止まり、母を待つ。

「弥子……この部屋がどうしたの?」

「この先、何があっても此処を穢すような行動はしないで。わかった?」

私はそれだけを言い、返事を待たずに部屋の扉を開ける。

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弥子は私に問い掛け、私が何か言う前に扉を開ける。

其処には…。

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ギィ……ギィ……と、縄の軋む音が聞こえ、その縄には人がぶら下がっている。苦しそうに喉を掻きむしり、そして……絶命した。

弥子はその光景を相変わらずの冷たい表情で見ていた。

「なに……なんなの、これ……?」

「これが、自殺の罪だよ」

弥子はそう言って、私の方を向く。

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自殺した子供の霊を見て怯えている母に、私は告げる。

「これが、自殺の罪だよ」

「自殺の、罪…?」

後ろで、また縄の軋む音が聞こえ始める。母は見ているのだろう。2回目の子供の自殺を。

「そう、自殺の罪」

「なに…それ?」

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「自殺って言うのはね、人間…いや、生物の犯す罪の中で最も重い罪なんだよ。自殺した生物は、天国や地獄、冥界にも行けず、この世を彷徨い、自殺の苦しみを永遠に繰り返し続ける」

「あなたは…いつも、子供の時から、これを見てたの?」

「ずっと…ね」

私がそう言うと、母の眼からは涙が溢れ、泣き出した。

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弥子が、こんなにおぞましい、恐ろしい光景を毎日見てたなんて…。とても、とても私には耐えられない。でも、何よりも、弥子にとっては霊よりも、親である私達に信じてもらえない方が辛かったはず。なのに、私はそれを…“妄言”と、決めつけて、理解しようとしなかった。

「弥子、ごめんなさい………本当、に、ごめんなさい…………」

私は弥子に謝る。

弥子は、

「自殺の罪がどれだけ重いかは、もう分かったでしょ?帰るよ」

私は頷き、弥子と共にその廃屋を後にした。

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私は母を家に送り、そのまま故郷を後にした。

雪が降っている。

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もう、すっかり冬だ。

Concrete
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この書き方は初めて見ました、面白い手法ですね。ぼ、僕も真似してみようかな…ひ…

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