中編4
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薊と椿

昔、ある薄暗い街の店に女が2人居た。

女の名は椿。彼女は、人望が厚く皆から慕われていた。

もう1人の名は薊(あざみ)。気が弱く、嫌なことは嫌と言えない女だった。

椿は表では頼り甲斐のある女を演じていたが、何かある事に裏で薊に執拗な嫌がらせをしていた。

嫌がらせがエスカレートしていくにも関わらず、気弱な薊は拒否することができなかった。

「もうやめて」

このたった一言が言えなかった。

ある日、椿は薊に向かってこう言った。

「私はね、小さい頃から実の親の顔を知らないの。雨の日に草薮に捨てられていたらしいわ。

こんな話をしたら、皆に気持ち悪いくらい同情される。それに比べて何の能力も信頼も持ってないあんたが、家族に囲まれて幸せそうに生きてる!

本当に幸せになるべきなのは私なのに!あんたなんかが!」

普段は温厚そうな顔をしている椿だが、今は原型もないくらいにぐちゃぐちゃに歪んでいる。

…こんなしょうもない理由で毎日嫌がらせを受けていたのか、そう思うと途端に自分がとても情けなく思えてきた。

薊は悔しかった。

悔しくて悔しくて悔しくてどうにかなりそうだった。

そして薊は決心した。

いつかこの女に天罰を下すと。

薊は椿をを睨みつけるとその部屋から静かに出ていった。

自室に戻った薊は、まず自分の腕を刃物で切った。何度も何度も色んな場所に傷を入れた。

次に鉄の棒で自分で自分の体を殴った。

青アザになるまで殴り続けた。顔、胸、腹、手、足と順に殴っていった。

これほどのことをしているのに、不思議と痛みはそれほどなかった。

ふと鏡を見てみると変わり果てた自分の姿があった。これを見て皆は自分だと気付くのかと少し不安に思いながらも、店の長(おさ)の部屋へと向かった。

長は薊の悲惨な姿を見て心底驚いた。

薊にいくつもの質問を投げかけた。そして、彼女が一番待っている質問を口にした。

「誰にやられた?」

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数日後、街では処刑が行われるというので大勢の人々が広場に集まっていた。

壇上に一人の女が上がると、皆はどよめいた。

「なぜ椿が?」

「いい子なのに」

「可哀想に」

全員がそう思った。

「えー、皆の者静粛に。今回このような事態になったのは、全て椿のせいだ。この女は、薊という少女に残酷な嫌がらせを繰り返し、挙句の果てには薊をこのような凄惨な姿にした。そんな奴は、この街、いや、この世に存在してはならぬ者だと私は考えた。」

長の怒りと悲しみに溢れた演説、見るに堪えない傷の少女。

民衆の同情を買うには十分だった。

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「殺せ」

誰かが呟いたと同時に人々は口々に叫んだ。

「そんな奴殺してしまえ!」

「お前に存在する価値などない!」

「早く!」

椿の死を望む声が次々と飛び交った。

それを聞いた薊は胸が痛くなった。

苛められた事に変わりはない。しかし、このような事になったのは全て自分が仕向けたことなのだ。

横目で椿を見ると、あの顔、憎悪に満ちた顔でこちらを睨んでいる。

咄嗟に目を逸らした。

怖くてたまらなかった。

薊の複雑な表情には目もとめず、長はこう述べた。

「此奴の処刑方法は、三択。火刑、絞首刑、斬首。斬首においては薊本人にやって貰おうと思う。そして、その選択は薊に決めてもらう」

…そんなことは聞いていない。人の死に方を自分が決めるなんて。

全部自分のせいなのだ。

自分でこんな身体にしなければ、もっと穏便に済んでいたかもしれない。

しかし、ここで言ってしまっては次の標的は自分になる。況してや椿が死ななければいつも通りの日常が戻ってくるだけだ。

ふらつく足をしっかり踏ん張りながら薊は考えた。

そして、声に出した。

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「私が殺す」

長から斧を渡された。

壇上に上る、一段ずつ、確実に、上っていく。

縛られてうつ伏せになっている彼女を見下す。

恐怖、優越感、不安、様々な思いが駆け巡っていった。

椿は薊を睨みつけ、震える声で言った。

「…この外道!こんなことして楽しいかい?!私はあんたの世話をどれだけ見たと思ってるんだ!」

煩い。

「飲み込みが悪いお前のせいだよ!」

煩い。

「大体私はあんたに、暴力なんか…」

煩い!

ぐちゃっ

「がふっ…」

ぐちゃっ

「あがっ…ァ」

ぐちゃっぐちゃっぐちゃっ

何度も、何度も、何度も首を切った。

切りどころが悪いのか、それとも力が足りないのかは分からない。

ぐちゃっ

返り血なんて気にならない。

ぐちゃっ

こいつが悪い。

ぐちゃっ

ごろん

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どれくらい時間がたったのだろう。

薊は呆然と立ち尽くしていた。

周りを見渡せば、人っ子一人おらず、静まり返った街が広がるだけだった。

べちゃ

何かを踏んでしまったと思い、下を見てみると

「…椿だ」

Concrete
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>>ふたば様
コメントありがとうございます。
夢って独特の恐怖感がありますよね。私自身結構悪趣味な夢とか見るんですけど、今回の夢は自分が全く出てこないという内容だったので、余計に気味が悪かったです…。

すみません、少し笑ってしまいました笑
ある意味、スッキリしない夢ですね笑
そうですね、あんまり気にしないのが身のためかもしれませんね…!

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