長編14
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ゆきちゃん

 ゆきちゃんは赤いリボンの首輪がとってもかわいい、真っ白いトイプードルの女の子です。

 嬉しくなると子ヤギのようにぴょんぴょん跳ねるとても元気なわんちゃんですが、おうちがなくて町中をさびしくさ迷っています。

 ゆきちゃんは飼い主になってくれる人を探していました。

 でも心配いりません。すぐ見つかります。

 ゆきちゃんを見かけた人たちは一目で大好きになり、おうちに連れ帰ってくれるのです。

 そうやって家族の一員に招き入れられますが、すぐにおうちはなくなってしまいます。

 せっかくの新しい家族が不幸になってしまい、崩壊してしまうからです。

 だからゆきちゃんは何度もおうちを探さなければなりませんでした。

 ですが、白い犬をおうちに入れると不幸になるという噂が広まり、誰もかまってくれなくなりました。

 寒い冬の夕暮れ、枯葉の舞う路地でぽつんと寂しそうにしていても、誰も見向きもしてくれません。それどころかみんな逃げていきます。

 でも大丈夫です。

 ゆきちゃんはすごい犬なのです。人々が足早に逃げ去っても飼い主となる人の目利きをしています。この人と決めたらよく利く鼻でおうちを探し当てられるのです。

 そうやってそのおうちに行くと、中から人が出てくるまで玄関の隅っこに隠れています。

 ドアが開くとゆきちゃんは素早く中に潜り込みます。

 おうちの中に入ればもう安心。

 みんな、たちまちゆきちゃんのとりこになってしまうのです。

 なぜそんなことになるのでしょう。誰もわかりません。きっとゆきちゃんの可愛さで怖い噂を頭の中から消してしまうのでしょう。

 だけど、噂は真実です。

 ゆきちゃんからは絶対逃げられません。逃げられる方法があるとすれば、それは出会わないこと。飼い主として選ばれないこと。

 ですが、それはとても難しいことです。なぜなら、ゆきちゃんが現れる場所は特定されていないからです。家族を選ぶ基準も誰にもわかっていません。しかも、ゆきちゃんに効くおまじないもお札もありません。

 避けようがないのです。

 そう、いつかあなたはゆきちゃんに出会うかもしれません。そして飼い主として選ばれてしまうかもしれません。それはきょうか、あしたか。あさってか。

 ――お気をつけて。

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「っていう、都市伝説あるのしってる?」

 巳並(みなみ)は親友の隆子に訊いた。

「都市伝? ううん。知らん」

 隆子はストローを咥え、ずずずっとオレンジジュースを飲んだ。

「最近仕入れた話なんよ」

 巳並は好物のほろほろクッキーを口に放り込んだ。

 隆子もクッキーに手を伸ばす。

「あんまり食べんといてや」

 巳並はクッキーの袋を自分のほうに引き寄せた。

「なんよ、わたし持ってきたんやん」

 隆子も負けじと袋を引っ張り返す。

「その代りジュース出したったやん」

「じゃ、おかわりちょうだい」

「ふっふっふっ」

 意地汚い二人のやり取りを見て巳並の祖母が笑った。

 ここは加藤家のリビング。

 隆子は毎週日曜日になると勉強するという名目で巳並の家に遊びに来る。

 だが、女子高生二人がおとなしく勉強をするはずがない。恋話やお洒落の話、男子の品定めにクラスメートの噂話に花を咲かせる女子会と化する。

 リビングの女子会にはいつも祖母の楠宝子(なおこ)も交えていた。

「なあ隆子。ポテチ食う?」

 巳並はキッチンからジュースのボトルとポテトチップスの袋を持ってきた。

「食う、食う」

 隆子がボトルを受け取りグラスに注ぎ、巳並のグラスにも注いだ。

「おばあちゃんは?」

 と尋ねる隆子に楠宝子は、「お茶がええ」とクッキーをつまんだ。

「もう、おばあちゃん。うちのクッキー食べんといてや」

 巳並がポテトチップスの袋を開けながら訴える。

「もうほんまいやらしわぁ。ええやんねえ、おばあちゃん。はいお茶」

 隆子が熱い茶の入った湯呑を差し出す。

 楠宝子はそれを受け取りふうふうと吹いた。

 クッキーの袋を独り占めした巳並とそれを取り戻そうとする隆子の攻防がまた始まった。

「白い犬っちゃ、あの話を思い出すなぁ」

 楠宝子の声にふたりは手を止め振り返った。

 老女は若い頃いろいろな話を聞き集めていたという。主に不思議な話や怖い話だそうだ。

 巳並が都市伝説マニアなのはきっと祖母の血を濃く引いているのだろう。

「なになに? 聞きたい」

 楠宝子はお茶をずずっとすすった後、ゆっくりと話し始めた。

「村上家には白い犬がいた――」

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 村上家には白い犬がいた。

 賢くてなんでも言うことを聞くかわいい犬だった。

 名前は雪といった。

 パパはまじめで働き者の村上良助。

 しっかり者のママは美佐子。

 八歳の長女、美良(みら)と五歳の長男良実(よしみ)。

 この四人が雪の家族だ。

 雪が村上家に来たのは美良が小学校に入学した年だった。ちゃんと面倒を見るからとねだって買ってもらったのだ。

 購入したばかりの新築を汚されてはかなわないと美佐子はいい顔をしなかったが、「買って買って」と連呼する美良と良実に根負けし、面倒を見るということを必ず守ると約束させしぶしぶ許した。しかし御多分にもれず、今は雪の世話を美佐子がすべて担っている。

 子供たちはというと、自分の都合のいい時だけ雪にかまった。

 美佐子は約束を守らない美良たちに小言を言いつつも、甘え上手の雪がかわいくて仕方がなく、かいがいしく世話をした。餌を上げている自分に一番懐いていたので、口答えをする子供たちより愛おしいと思うことさえあった。

 新しいマイホームに頼もしいパパ、怒ると怖いけど優しいママ、明るく楽しい二人の姉弟にかわいいペット。絵にかいたような幸せな家族。

 だが、その幸せにぽつんと黒い染みが落ちた。

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 良助の部署に一人の若い女が派遣社員として入ってきた。名前を光代と言った。

 タイプだったのか、光代はすぐ良助に近づいてきた。妻子のいることがわかっていてもアプローチしてくる。

 初めは戸惑い、避けていた良助だったが、度重なる誘惑に負けて飲み会の後、一線を越えてしまった。それでも、まだその頃は単なる浮気だと割り切っていた。

 光代も妻子の存在を尊重し、週にたった一回でいい、ひと時の逢瀬を楽しむだけで満足だと潤んだ瞳でささやいた。

 献身的で健気な美しい愛人。良助は次第に光代にのめり込んでいった。

 彼女が陰でほくそ笑んでいることも知らずに。

 光代が妊娠したと知らされたのは、付き合い始めて半年が過ぎた頃だった。

 良助にとってそれは寝耳に水だった。光代が自分で避妊することを約束していたからだ。

 確かな方法で細心の注意を払うから、あなたは気にせず思い切り楽しんでくれればいいと。

 良助はそれを真に受け、若い体を隅々まで楽しんだ。それは美佐子とは味わえない淫靡で解放的な悦楽であった。だが、報いは愛人の妊娠という形ですぐに返ってきた。

 話が違うと良助は光代を責めたが、わざとではない、注意していたがそうなってしまったのだと泣いた。

 どうしても生みたい。もとから妻の座は望めないのだからせめて子供が欲しいと、必殺の潤んだ瞳で請うた。

 良助はまたもや負けた。自分が本妻と子供のもとに帰っている間、彼女は一人きりで寂しい思いをしている。それを思うと愛しくなった。

 光代が着々と村上家に浸食してきていることにはまるで気付いていなかった。

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 美佐子は最初から夫の様子がおかしいと感づいていた。

 会社の接待や残業だと遅い帰宅の言い訳をしていたが、今までそんな仕事はなかったし、正面から美佐子の目を見ていないからだ。根が真面目でそもそも嘘が下手なのだ。

 上着からにおう柔らかな香水の匂い。ワイシャツに付いている淡いオレンジ色の口紅。それはけばけばしい職種の女性のものではなく、ごく普通の女のものだ。ということは割り切れるような簡単な関係のものでないと予測できるし、実際この女は宣戦布告している。

 幸福に満たされていた心にどす黒い渦が巻いた。存在を隠そうとしているならまだしも堂々と匂いを撒きちらし、わざとらしく口紅をつける女に怒りを覚えた。

 だが、何事もないように日々を過ごした。

 朝早くから手の込んだ朝食を作り、夫や子供たちを送り出す。足元にまとわりつく雪をあしらいながら掃除や洗濯など家事をこなし、雪の散歩に買い物、夕食は健康を気遣うものばかりをテーブルに並べた。風呂に入るのも最後だった。慌ただしく入った後には浴槽の掃除までもした。

 今まで通り、いやそれ以上の居心地のいい家庭づくりを心掛けた。

 笑顔を絶やさず、浮気が進行していても腐ることなく、一日たりとも家事に手を抜くことがなかった。

 相手は妻と子がいることなど百も承知だろう。その上で人の男を寝取る薄汚い女に良助が本気になるはずがない。

 魔が差したのだ。相手の女が悪いのだ。人のものを欲しがる女。そんな女は飽きたらすぐ次を見つけ、良助などあっさり捨てられる。

 美佐子はそう固く信じ、その日が来ることを待っていた。

 だが、良助は日に日に変化していった。子供たちの塾や習い事の相談をしても上の空で返事がない。何を話しかけてもどっちとも取れる相槌だけで、それでもあればましなほうだ。

 子供たちや雪が帰宅した良助にまとわりつくだけでひどく叱るときもあった。そんなこと今までにないことだった。

 良助の女が家の中にいて、自分たちをあざ笑っているように美佐子は感じた。

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 あの宣戦布告はただの優越感だと思っていた。見せつけているだけなのだと。何の取り柄もない妻子のいる男に本気で惚れるはずがないとも思っていた。

 すぐに飽きてしまう。そう信じていた。

 なのに――

 ある日からなぜか良助は妻や子供たちに優しくなった。

 反省したのか。危機はもう過ぎたのか。

 美佐子は胸をなでおろした。

 だが違った。女の妊娠で負い目を感じていただけだったのだ。

 変化は着々と進んでいた。 

 やがて家族への愛が完全になくなり、もう美佐子に触れることや美良や良実に笑いかけることすらしない。何もわからずまとわりつく雪も足蹴にする。

 美佐子の世界は完全に崩された。

 良助は悪びれもせず光代を家に呼んだ。皆の前で妊娠を告げて彼女と家族になることを宣言した。

 夫の目を覚ますには遅すぎた。光代の腹は臨月に入り、堕胎を促すこともできなかった。

 認知は仕方ないとしても家族を捨てようとすることだけは止めたかったが、良助は愛人の言いなりで聞く耳を持たなかった。

 光代は完全に村上家を崩壊させた。

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「家はお前にくれてやるんだから文句はないだろう」

 良助が荷物をまとめ家を出て行く日、そう吐き捨てた。

 残していく者への思いやりや謝罪さえ口にすることはなく、離婚届を差し出し名前を書くよう促す。

 がくがくと震える手で名前を書くとそれをひったくった。

「手続きは全部こっちでやっておくから」と冷たく言い放つと、いそいそと光代のもとへ飛び立っていった。

 壊されたのは家庭だけではなかった。美佐子の心も破壊された。絶対の幸福のもとにいると思っていたのに、いとも簡単に愛人に乗っ取られた。

 揺るぎないと信じていたものは何だったのか。これから何を信じて生きていけばいいのか。

 悲しすぎて悔しすぎて、子供たちに目を向ける余裕はなく、彼らを心の支えに生きるという選択肢は思い浮かばなかった。

 夫から女として見放され、愛人から妻の座を奪われ、母という役割を放棄してしまった彼女の選んだ未来は一つだけだった。

 美佐子は美良と良実に睡眠薬入りの食事を食べさせ、ソファーで眠る子供たちを延長コードで一人ずつ絞め殺した。

 そして、自分自身もドアノブを使って首を吊った。

 残ったのは雪だけだった。

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 雪はすべて見ていた。

 ママが眠ってしまったお姉ちゃんお兄ちゃんと電気の紐で遊んでいる。

 雪も遊んでほしかった。

 そのひもちょうだい。いっしょにあそぼ。

 くんくん鳴いても、ママは怖い顔で力いっぱい引っ張っている。

 雪は少し不思議に思った。なにやらいつもとちょっと違う。

 いたずらするとママの怒りをすぐ察知できる雪は怖い顔のママに何かを感じた。

 首を傾け様子を窺っていると目が合った。

 ママは笑った。すごく優しい笑顔だけど、すごく悲しそうでもあった。

「雪ちゃん。ママね、ほんとはこんなことしたくないんだよ。あいつらが悪いんだ。あいつらが」

 雪は何を言っているかわからなかった。ただ、すごく悲しくてつらい気持ちが伝わってきた。

「ク~ンク~ン」

 雪はママのそばに行って目から流れている水をなめた。

「ありがとうね。雪ちゃん。雪ちゃんだけだよ。ママの気持ちわかってくれるの」

 そう言って雪の頭をなでてくれた。手の平には紐の痕が赤く付いていた。

「雪ちゃん。見て。美良も良実もこんなになって。悔しいだろうね。かわいそうだね。これも全部、パパと光代のせいなんだよ。あいつらがわたしたちをこんなにしたんだ。

 美良。良実。ママもすぐに行くからね」

 ママは目から水をいっぱい流し、遠吠えする隣のジョンみたいに叫んだ。

 雪はパパと一緒に来た女を思い出した。その女からは嫌なにおいがした。おうちに来る人はみんな雪の頭を撫でるけれど、その女は見向きもしなかった。

「雪ちゃん。覚えていてね。もし、パパに会ったら、わたしたちの恨みを晴らすこと。絶対、パパとあの女を許さないでね」

 ママはそう言いながらリビングの外側のドアノブに輪にした電気の紐をかけ、それを上から中へ通してドアを無理やり閉めた。ぶら下がる輪に首をかけて体をぐるぐる回し、紐をねじる。

「雪ちゃんごめんね。一人ぼっちにして」

 ママの顔が赤く染まり紫色に変わっていく。力尽きて膝が折れ、ママはブランコになった。ばたばたと激しく脚を動かしている。遊んでくれているのだと思い、雪はそれに合わせてジャンプした。

 ママのお尻が水で濡れていた。くんくんと匂いを嗅ぐ。

 シート以外におしっこをした時、雪はこっぴどく叱られる。それを思い出して小首をかしげた。

 おしっこ? おこる?

 雪はじっと見ていたが、ママはブランコしたままもう動かなかった。

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 雪はリビングの隅にあるケージに戻った。寝床に入り、そろえた前足に頭を載せため息をつく。

 みんなしずかだな。おなかすいたな。

 体を起こし、ケージを出てママのそばに行く。

 ママはまだブランコをしていた。

「くーくーきゅ~ん」

 おなかすいたよ。ごはんちょうだい。

 だが、どんなに鼻でついても前足で掻いてもママは動かなかった。

 雪はしばらく「くーくー」鳴きながらうろうろしていたが、やがてあきらめ寝床に戻った。

 腹の虫がぎゅるるると騒いだ。

 雪ははっと顔を上げた。ごはんのありかを思い出したのだ。キッチンまで走り、棚を見上げる。ペットフードの入った籠が見えた。自慢のジャンプ力で何回も飛びつき、籠を落とすことに成功した。

 以前、ママたちがお出かけした時、同じようにして盗み食いをしたことがあった。お漏らし以上に叱られてからは二度とやらなかったけれど、背に腹は代えられない。怒られないことをいいことに、ご褒美でしかもらえないおいしいおやつまで袋を引き破り完食してしまった。

 雪は満たされてゆっくり眠った。

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 目が覚めると部屋は真っ暗だった。

 またおなかが空いてきたので、ひっくり返った籠を探った。数個のドッグフードが散らばっているだけで満足する量はない。ケージに戻って給水器の水を飲んだ。

 雪はママのそばに行って甘えた声で鳴いてみた。やっぱりママは動かない。

 明るくなって暗くなってが何回も繰り返された。数えきれないくらい寝床とママの間を行き来した。

 おなかすいた。おなかすいた。おなかすいた。

 雪はきょうも訴えた。

 すると、ママの首がぐらりと雪のほうを向いた。

「雪ちゃん、いい子ね。これをお食べ。

 わたしたちの恨み、忘れないでね」

 そう言った。

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 近隣の住人の通報で警察官が村上家を調べに来た。

 ドアを開けた警察官はむっとした異臭に家の中で起きたことを一瞬で察知した。

 リビングを開けた時、ドアにぶら下がった白骨死体が出てきた。腐敗の進んだ肉がほんのわずかに残っているだけだった。

 ソファーには小さな子供の白骨死体が一体あり、そのすぐ下の床に少し大きめの子供の白骨死体があった。

 三体とも腐敗して肉が溶けたにしてはソファーや床に体液によるひどい染みがなく、警官たちは不思議そうに顔を見合わせた。

 一人の警官が唸り声に気が付き、リビング奥のキッチンに目を向けた。暗がりに小さな何かがいた。

 白い犬だとわかり、捕まえようとしたが、素早い動きで警官たちの足元をすり抜けるとリビングのドアから逃げ出してしまった。

 小型犬でも人に危害を加える恐れありと捕獲を試みたが、近所中どこを探しても村上家の白い犬はついに見つからなかった。

 のちに警官たちは、あれは犬じゃなかったとか、見たこともない生き物だったとか、赤い眼が光っていたとか陰で噂しあったという。

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「という。って話や」

 楠宝子はクッキーをぽんと口に放り込んだ。

 巳並は最後の一個を食べられていても気付かないで身を乗り出した。

「良助や光代はどうしたん? なんか腹立つわー」

「聞いた話ではな、事件のあった家はまだ名義変えてなかったんで良助が売ってしもたらしいわ。

 そんな事件あった家やさかい、安かった思うけどなあ。それでもまとまった金額入ったやろな。それをな、美佐子や子供たちの供養に使うでなく、金持ったまま二人は姿くらましたらしいわ。どっか知らん土地で家族仲ようしてんと違うか」

 そこで楠宝子はずずっと冷めたお茶を飲んだ。

「ますます腹立つ!」

 巳並が眉間にしわを寄せ、ポテトチップスを頬張る。 

「いや、光代らも気になるけど、ツッコむとこ別にあるやろ」

 隆子が巳並の肩をばしっと叩いた。

「犬が何で生き延びたかやろ? 死体の肉食ったいうことや。水も足りへんかったら血もなめたやろな。でも仕方ないわ。食いもんなかったら人の肉でもなんでも食うよ。動物ってそういうもんや」

「ええっ、ええんかぁ、あんたの価値観怖いわ~って、ツッコむとこ、そこ違う。犬の名前!」

「あっ、ゆきちゃん!」

「そう。都市伝のゆきちゃん」

「ふっふっふっ。あんたらの言うゆきちゃんはその白い犬かもしれんなあ。

 良助と光代の家探してんのやろなあ」

 そう言いながら楠宝子は湯呑をテーブルにことっと置いた。

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 ある家に一匹の白い犬が迷いこんできた。

 あまりのかわいらしさに、その家の坊やは抱きしめて離さなかった。

 両親はその犬を飼ってあげることにした。

 しかし、それから坊やの言動がおかしくなり始めた。

 奇声を上げて暴れ出すようになったのだ。突然泣きわめくこともあった。それは父親に対しての行為だった。それまでパパ大好きの坊やだったのに。

 やがて母親もおかしくなってきた。夫を必要以上に疑い始めたのだ。

 毎日毎日、何もないところから疑惑を作り出して責めたててくる。

 それまで帰宅時には必ずキスをし、暖かい夕食で出迎えてくれていたのに。

 親子三人強い絆で結ばれ、幸せだったのに。

 母子ふたりだけ鬼面のように面変わりし、夫を父を冷たい瞳でじっと見つめる。二人の間に会話はなく、ただ顔を見合わせて不気味に笑うばかりだった。

 そのそばには必ず白い犬がいた。

 耐えきれなくなった父親は駅のホームで電車に身を投げた。

 家には妻と息子の絞殺死体があり、遺書はなかったが警察は無理心中と判断した。

 捜査の際、家中を隈なく調べたが白い犬がいたという報告は一切なかったという。

Concrete
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いさ様
怖ポチ、コメントありがとうございますm(_ _)m
素晴らしいコメント貰っときながら遅くなってすみません。
いささんがおっしゃってくれる通りだといいんですが(≧◇≦)まだまだ。どうしても新しい話を進めることができなくて、旧作を直しているのですが、それもままならない。あかん時はあかんのですね。ま、いつものことです。
いささんの新作待ってます!

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鏡水花様
こちらにもありがとうございます。
はじめまして。だったのですね。読みに行った先のコメント欄でお見掛けするのではじめましてではない感覚が(≧◇≦)
嬉しいお言葉もありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

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ふたば様
この話以外文章になってないんですよ。設定だけで。でも書けたら書きたいと思ってます。
嬉しいお言葉ありがとうございます。今年もよろしくお願いします!!

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はな様
嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m
いや~マジでうれしくなってきた。
もともとひねくれてるんで、「みんなお世辞言ってくれてるんだよ。本気にすな」と自分を叱咤しているんですが、お正月ということもあり、ここはひとつ心から喜んでみよう\(^▽^)/♪
今年もよろしくお願いします!

月船様
嬉しいお言葉ありがとうございますm(_ _)m
上記に書いたように素直に喜びます!!
ところで、月船さんの勘違いではありません。明らかな私のミスです!
あれだけ読み直しているのに、実際は上っ面しか見てないんだな~と反省。違和感バリバリなのに(^σ^)テヘ 
助かりました。よくぞ教えてくれました。これからもよろしくお願いします。と、あつかましくお願いしてみる。誤字脱字の見直しは基本中の基本。やってるつもりでやれてないので人頼みです。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました。
早速直したよ!!

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いやー、面白かったです❗😍✨
色んな視点から描かれていて、これぞ怖話っ!

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mami様 あけましておめでとうございます!
いつもコメント・怖ポチありがとうございます。
話ごちゃごちゃになってませんでしたか? だとしたらほっとしました( *´艸`)
登場人物が多いとか、視点を多々変えるとか、あんまりいい手法とは言えないのですが(上手な人ならいざ知らず、私のようものには(-_-;))書いてて楽しければいいさをモットーにやってますのですみません。でも入り込んでしまったなどとうれしいお言葉頂いてキャッホー♡でした。
今年もよろしくお願いいたします!

ラグト様 あけましておめでとうございます!
いつもコメント・怖ポチありがとうございます。
巳並、隆子、楠宝子婆の話はまだあるのですが、設定だけで文章になってません(≧◇≦)ノシナンジャソリャー
都市伝説などにこの三人のやり取りをくっつけてるのですが、無駄っちゃあ無駄だなと思ってます(笑)ばあちゃんの若い頃の話の設定もあります。これも文章になってませんけどねー(≧◇≦)ノシ
うれしいお言葉ありがとうでした。今年もよろしくお願いします!

むぅ様
いつもコメント・怖ポチありがとうございます!
おばあちゃんの名前かわいいでしょー。伝奇や幽霊話などなど収集している物語の主人公の名前なんですが、日の目見てないんでおばあちゃんとして登場させました。危険を顧みず収集に励むかっこいい美女という設定でーす。文章にはなってません(≧◇≦)ノシ

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