短編1
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××者

人はからくも、誰かに自分を見て欲しいと思う。思ってしまう。

愛する者、仲のいい友人、人気者ーそれは、時として、狂気を孕むほどに。

「私は、私」

少女は鏡に言い聞かせる。

けれど僕は、首を振った。

自分を他人で塗り固めた君は、君じゃない。

すると少女は、狂ったように叫び始めた。

「どうしてそんなことを言うの!!!?私は私よ!!!私なの!!ねぇ、お願い!!!私の…私をー!、!!!」

これ以上、見ていられない。

赤い飛沫が、鏡を汚す。

開け放たれた襖の向こうで、狐がこちらを見ていた。

僕はいつでも、彼らに見られているらしい。

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今日も彼女は、鏡を見て言い聞かせている。

嘘で塗り固められた彼女は、僕の知っている彼女ではない。

いつまでそうしているの?

問いかけた声は、彼女の肉を裂く音で遮られる。

可愛いでしょう、この子。

そう言って見せられたそれは。

ああ、また、襖の向こうで、今度は烏が僕を見ていた。

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唇から、鮮血が滴り落ちる。

僕は一体、彼女の“何”だったっけ。

ああ、彼女以外の人間の声がする。

何かあったのだろう、騒がしい。

サイレンの音がする。

警察?どうして。

彼女が何か喚いている。

ああ、でも。それよりも。

「君、君!大丈夫か、自分の名前は言えるかい?」

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僕って、“何者”だったっけ。

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皆様コメントありがとうございます。
私事で大変申し訳ないのですが、今回は一括で返信とさせて頂きます。
これは刀路・木藤シリーズの一部になります。しかし誰のものの一部なのかはわかりません。(ということにしておきましょう笑)
この世の中、マイナンバーだの免許証だの戸籍だの、物体としてあるものが自己証明の唯一になりますが、語り部の場合は…というお話です。
さて、次回もお楽しみくださいませ!

返信

そういえば、以前銀行の印鑑登録を変更するのに、自分が自分である事を証明するのに、保険証や免許証のない私はエラく大変な目に遭いました。
自分が自分である事を他人に知ってもらうのって案外難しいのかもしれません…

返信

こ、これは!今のシリーズの一部なのでしょうか?それとも違うシリーズ!?気になります!
何にしても何故だか不気味な雰囲気の文章に引き込まれてしまいました。

返信

これからスタートのシリーズですか(^^)
楽しみです。

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