従兄弟が見た、赤い傘の女の話

中編4
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従兄弟が見た、赤い傘の女の話

私の家には毎年、お盆の時期になると父方の親戚が多く集まります。

従兄弟のR君は私よりも10歳年下なのですが、歳の割にといいますか、少し大人しい子供でした。

R君より2歳年上のお姉ちゃんの方が、年相応にはしゃぎまわって、親戚連中のおじさん、おばさん達とにこやかに談笑していました。

そんな中でR君だけが1人ぽつんと部屋の隅っこで料理に端を伸ばし、もそもそと静かに食べているのです。

毎年、私はこの時期になると、このR君と会えるのが待ち遠しくなります。

そんな気配を知ってか知らずか、私が近づくとR君は先ほどより少しだけ、子供っぽい悪戯を考えているような表情を浮かべてくれます。

「また新しい話、聞く?」

私が彼の隣に座るよりも早く、R君はわたしを見上げながらそう言ってきました。

私は待ってましたとばかり横に腰掛けます。

私の従兄弟のR君はかなり強い質の霊感の持ち主で、同じく視える人である叔母さん(母方)と一度会って、2人で何事かをずっと話した後、叔母さんがぼそっと「R君は凄いね」と呟いていました。

自他共に認める怪談好きでありながら、霊感体質ではない私からすれば、何が凄いのかイマイチ理解しかねる叔母さんの評価でしたが、そういった人達からすれば何か感じる事があったのでしょう。

以来、私の怪談収集先の一つになったR君ですが、本人は心霊現象や怪談などに対しては関心が薄く、もっぱら私がせっついて話しを聞かせてもらうという形が恒例だったのですが、その年に限っては何故か、彼の方から「新しい話」と振ってきたぶん、期待も高鳴っていました。

「今日、もっちゃんの家に来る途中の事なんだけど」

そう言ってR君が話始めたのは、私の家に向かう途中、車の中から見かけた奇妙な女の人にまつわる話でした。

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私の家は丘の上という程ではありませんが、少し急勾配の坂の上に建てられています。

なので、毎年車でうちに来るR君達はその坂のある住宅街の道を通るのですが、その時は何故かお父さんが「たまには山側を抜けて行くか」と提案したそうで、いつもは通らない山の中を来たそうです。

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「それで◯◯山の中の、カーブのところでね、なんかの工事をしてたんだけど、俺 車の窓からそこを見てたら女の人が見えたんだ」

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R君曰く、車がカーブに差し掛かった瞬間、ふと窓ガラスの向こうにぽつんと立っているその女性を見かけただけ、らしいのですが。

何故かその姿がとても印象に残っていると言います。

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私が、へんな人だったの? と訪ねると、彼は少しだけ悩んでから「そういう訳じゃないんだけどね」と、なんとも歯切れの悪い返答をしました。

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従兄弟の見た女性は日傘を差していたそうです。

その時は日差しが強く、女性が日傘を持っていてもなんらおかしいとは思えないのですが、従兄弟にはその人物が一目でおかしいと分かったそうなのです。

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曰く、工事現場に似つかわしくないその女の人は真っ赤な日傘を差していたそうです。

どんな容貌だったのか、ぼんやりとしか思い出せないそうなのですが、それでも真っ赤な傘を差していて事だけはいやにはっきりと、頭の中に映像としてこびりついているそうです。

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「あれは多分 幽霊だよ。人っていう感じがしなかったから」

事もなげにそんな風に言う従兄弟を改めて凄いな、と思いつつ、ところで何故この話に限って彼が自分から私にしてきたのか、その点を尋ねてみました。

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すると、彼は家の中の庭に通じる窓ガラスの方をちらっと見てから「Yちゃんがさ」と切り出しました。

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Yちゃんと言うのは2歳半になる男の子で私の又従兄弟にあたります。

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そのYちゃんなのですが、先ほどまで従兄弟や従兄弟のお姉ちゃんと三人で遊んでいたらしいのですが、しきりに窓の方をじっと見つめているらしく、不思議に思ったR君が、何があるのかと尋ねると、拙い言葉で「まっあっあ」と何度も言ったそうです。

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最初それが何であるのか分からなかったのですが、親戚に振る舞われた出前寿司に並ぶ、赤身の魚を見ながらまたしてもYちゃんが「まっあっあ」と言ったのを聞いて、R君はそれが「真っ赤っか」と言う事であると気づいたそうです。

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「Yちゃんが庭の方を見て言ってたのは、真っ赤っかって事だったんだよね」

何故Yちゃんがその時、庭に続く窓を見て真っ赤っかと言ったのか、はっきりとした理由はありません。

ただR君は自分が車の中で見た、赤い日傘を差した女の事をすぐさま思い出したと言いました。

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「もしかしたらここについて来たのかもしれないなって思って。もっちゃんに聞かせたら絶対喜ぶと思った」

彼はまたしても、ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべていましたが、反面何処と無く申し訳なさそうな気配もその表情から漂わせていました。

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R君に、うちの庭先にその女の人が立ってるのを見た?と尋ねても、彼自身は見ていないと言います。

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結局、R君の話を聞いてすぐに2人で庭先へ出ましたが赤い日傘を差した女の姿は無く、またそれから女の姿を見たなどという噂も近所から聞く事もありませんでした。

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ただ少し不思議なのは、この話を聞いてから暫くして、私の家から数本の傘が無くなった事です。

しかも安物のビニール傘などでは無く、滅多に使われる事のない傘立てに仕舞ってあるだけの上等なものです。

それらが立て続けに無くなり、結局今でも家の中からは見つかってません。

家族の誰に聞いても自分は使っていないと言って、誰が持ち出したのかも判然としませんでした。

Concrete
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@車猫次郎

コメントありがとうございます。
得てして人から聞いたりする怪談は明確な怖さとかが無い場合の方が多いですよね。
ただその分、訳の分からない気持ち悪さや居心地の悪さとかを感じて…そういった時にゾゾっとしますよね。

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