中編4
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幽霊屋敷

暗闇に目を凝らす。

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一組の男女がこっちに来る。怯えた目で周りを伺っている。手を繋いで...と言うよりお互いの手をがっしりと掴んで、恐る恐るこっちに向かって来る。

まだ早い。もう少しこの哀れな犠牲者たちを引き付けよう。

彼らの恐怖が最大になって、ここは大丈夫という束の間の安堵に切り替わる瞬間...心に生じる「虚(きょ)」に乗じるのだ。

あと一歩、もう一歩...女が大きく息をつく、

ここだ!!!

shake

「ううううヴヴヴヴヴぉぉぉぉぉぁあああ!!!!」

両腕を突き出しながらも、手首から先は、むしろ垂れ下がった感じ。中腰に構えて、動きにタメを作って両足と両肩を同時に動かしながら、摺り足で二人に迫る。

レクチャーを受け、何度も練習した、「貞子」的な動き。

脅かすのではない。あくまで怖がらせるのだ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

男が腰を抜かす。大抵、男の方がビビる、男ってダメね。

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街中の空き家を利用した、期間限定のお化け屋敷。そこで惨殺された一家が化けて出るという、まぁベタな設定。

私はお姉さんの役。勤務シフトの関係で持ち場は日々変わり、今日は一階の廊下の影に潜んでいる。

お化けは全て訓練された人が演じてる、それがここ「惨劇の家」の売りだ。

あっ、また来た。

男の人が二人。お化け屋敷に男二人か...ああ、そういう事ね。

私はその場に潜んだまま二人をやり過ごす。彼らは俯いたまま淡々と歩いて行く。

そういう事というのはソッチ系という事じゃない。霊のフリをする人、それを怖がる人。そういう場所には「かつて生きていた人たち」が集まって来るのだ。

毎日2~3組は、そんなアッチ系のお客さん。他のみんなには視えちゃいないと思うけど。

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「今日、結構シンドかったね~。」お母さん役、カナはそう言ってアイスを一口。

「いやいや、お母さん大活躍だったじゃん。台所のカナってヤバイわ~。」お兄ちゃん役のタカハシはカナにソノ気がある...んじゃないかな!?

このバイトは入れ替わりが激しい。お化け屋敷が始まる時に一緒に研修を受けたダイキ、チサト、ナカムラは8月に入る前には辞めてしまった。シフトが入れ違いになるのと、何よりも職場が真っ暗なせいで新人(?)さん達とは中々打ち解けられない。

カナとタカハシはアフターバイトを共に出来る残り僅かな同士なのだ。

「確かに顔分かんないヤツいるよね。今日風呂にいたヤツとか誰?って感じ。」

「てかさ、真っ暗な中にいると何だか不安だよね。知らない人が側にいる、ってさ。」

肝試しで本当に試されてるのは、お化け役の方なのかも、何て、ちょっと思った。

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8月も終わろうとしていた。もうすぐシーズンが終わる、お化け屋敷の期間も残り僅かだ。

そのせいか、最近お客さんが多い。運営には残念な事にアッチ系のお客さんばっかりだけど...きっとこの家には彼らを引き付ける強力なナニかがある。

そんな家で、暗闇の中居続けるってコワイ。そう思い始めたある日、

「俺、辞めるわ」タカハシからlineが来た。カナの事はいいの?

「大きなお世話。てかさ、あの話ガチみたい。」

「何?」

「一家惨殺」

あの家では、かつて男が押し入り、其処に住む一家が殺されるという事件が本当にあった。

「そんな所でお化けやるとか、ヤバいっしょ。」

次の日だった、その事故が起きたのは。

お客さんが階段から転落したのだ。登ってる途中でお化けが現れ、驚いて足を踏み外したのだという。

危険防止のため、お化けが出るポイントは決まっている。そんな所に出るはずはないんだけど...

お客さんのケガは打撲程度だったが、そう言う訳で開催期間は短縮され、その翌日が最終日という事になってしまった。

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最後の持ち場は二階の部屋だった。

(またアッチ系か...)

今日のお客さんは死んだ人ばっかり、あんな事があっては当然かもだけど。

死んだ人、か。

かつてこの家で一家全員が殺された。

お父さんはお風呂で、

お母さんは台所で、

兄は一階の廊下で、

弟は階段で、

それぞれ遺体で見つかった。犯人は仏間で首を吊っていた。

もう一人、一家には娘がいた。彼女はどこに...?

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夜9時前、あと5分程で閉館という時。

階段を登って、カナが部屋に入って来た。

(カナ何やってんの?ヒマだからって持ち場離れちゃダメじゃん。)

声を掛けようとして絶句、全身が粟立つ。

カナは俯き、淡々と通り過ぎていった。

「カナ?死んだ...の?え?...え?」

続いて、ナカムラが部屋に入って来て、俯いたまま通り過ぎていった。チサト、ダイキがそれに続く。

最後にタカハシが、今まで見た死者たちと同じ様に部屋を出ていった。

みんなの亡霊を視ながら、私は悟った。冷たい汗が全身に流れる。

この家で、生きてるのはもう私だけだ。

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女は震えている。

私はずっとこの部屋にいて、彼女が来るのを待っていた。

不意にハッとして、恐る恐る振り返ろうとしてる。やっと私に気付いのね。そう、後ろからあなたを見てた。

この家に来た人たちは、みんな私たちが連れて行く。あなたで最後。

眼が合ったとき、あなたもこっちの人になるの。

一緒よ、ずっとね。

Concrete
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ふたばさんコメントありがとうございます。
靴箱の上からとはスゴイですね(笑)
作中のお化け屋敷は、居住している街のイベントとして実際に行われたものをモデルにしてます。地元の大学の演劇部の学生がお化けを演じていて、とても怖かったです。
まさに、虚に乗じてくるんですよね...

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