見上げてごらん128億光年離れた夜の星を

中編5
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見上げてごらん128億光年離れた夜の星を

その日、我々が管理する立ち入り禁止区域内で、一人の少女が保護されたとの連絡が入った。

少女の身体は酷く衰弱しており、我々はその回復を待つ間に、メディアを使い広く情報提供を呼びかけた。

しかし残念ながらこれといった有力な情報を得る事は出来ず、代わりにマスコミは騒ぎたて、少女の容姿に興味を持った輩たちが殺到する騒ぎとなった。

突然変異か未来人(タイムトラベラー)か?

うちで飼いたい、金ならいくらでも出す。

神の啓示だ。近いうちにこの星は滅亡する。

少女の噂は瞬く間に世界中へと広まった。

生命維持装置の設置された無菌室の中で、渦中の少女は栄養補給を受けながら徐々に身体を回復させていった。

目を覚ました少女の瞳はどこまでも青かった。

頭部以外の体毛は極端に薄く、あるはずの尾っぽもなかった。

少女は聞いた事もない言語を使い、杖もつかずに後ろ足二本だけで歩いてみせた時には、さすがに我々の誰もが本気で驚いた。

少女の観察を初めてから三週間。何の進展もないままのこの現状に業を煮やした我々は、第三の眼を持つというテリア氏を呼びよせた。

さっそくテリア氏は、麻酔で眠らされた少女の潜在意識から過去の記憶を探った。

「ボストンさん、あなたは太陽系という天体のはずれにある、地球って星をご存知ですか?」

テリア氏は私に向かって静かにそう言った。

首を横にふると「すぐに調べてきます」と、フレンチ博士が無菌室を出ていった。

テリア氏の話では、少女の名はエミリーといい、少女の星でいうところの、西暦2080年の地球という星からやってきたのだという。

その時エミリーは、家族で時空を自在に行き来できる特殊な装置のついた円盤型の乗り物を使い、100年前の過去である1980年代を旅していたらしい。

それが何かの拍子で装置に不具合が生じ、目の前にできた大きな亀裂の中へ乗り物ごと吸い込まれてしまったというのだ。

「つまり、その亀裂の出口が奇跡的にこの星へ開き、奇跡的に少女は無傷でこの星に降り立ったと?」

私がそういうと、テリア氏は「まあ、そんなところですかね」と頷いた。

「はははは!全く何を言いだすかと思えば、我々にそんな三流のSF映画みたいな話を信じろというのかね?」

共に話を聞いていたハウンド長官が大声をあげた。

「テリア君、我々を馬鹿にするのもいい加減にしたまえ!まだ結果は出とらんが、おそらくこの子は猿か何かの奇形か突然変異の産物だろう」

「長官殿、お言葉ですが私もそんなに暇じゃない。わざわざ皆さんを楽しませる為にこんなところまで呼び出された訳じゃありませんよ」

テリア氏はそう言うと、念写を使ってエミリーの頭の中にある映像を大型モニターに写しだした。

「これが地球という星です」

「ほう、これはなかなか綺麗な星じゃないか」

私と長官は、地球と呼ばれたその星の美しさに思わず見惚れてしまった。

「そうですね、とても綺麗です。

この星は我々の星と同じく水も大気もある。緑も豊富で多くの生命体が息づいているようです。

時空移動を可能にした装置が本物ならば、その技術水準も恐らく相当なものでしょう。

彼らは、彼らの呼び方でいうと、自分たちの事を「人間」と呼んでいるそうです」

テリア氏はそこでもう一度、第三の目を少女に向けた。

「やはりか」

テリア氏はため息を吐いた。

「今から話す事は、我々にとってかなり衝撃的な内容です。神は我々に一体どうしろと仰るのか」

エミリーは依然、装置の中で眠ったままだった。

「皆さんもご存知の通り、我々の祖先はその昔、今とは別の銀河団にある、緑豊かなアダムという星に暮らしていました。

しかし神がお決めになった一種進化形の法則が崩れ、一つの星の中に二種類の知的生命体が誕生してしまったんです。

当たり前の話ですが、お互い種の存続をかけて大規模な戦争が勃発してしまいした。

しかし力の差は歴然で、我々の祖先は相手の核攻撃に遭い、残念ながらそのほとんどが消滅してしまったんです。

わずかに生き残った我々の祖先は、なんとかこの星へたどり着き、相手側も使えなくなったアダムを切り捨てて、どこか別の銀河系へ移ったのではないかと記録されています。

我々が知る最古の文献はそこで終わっています」

「それは知っておる!で、君はいったい何が言いたいんだね?」

ハウンド長官が、じろりとテリア氏を睨みつけた。

「心して聞いて下さい長官。

少女の記憶を辿ると地球という星には我々とよく似た… いや、我々の祖先と寸分違わない生命体が人間と一緒に共存しているようなのです。

恐らくはその昔、捕虜として捕らえられた我々祖先の末裔でしょう。現在、人間は我々の祖先を鎖で繋いで自由を奪い、まるで家畜のように扱っています。

環境が変わり知能が退化したのか、それとも長い年月をかけて人間にうまく改良されコントロールされているのか、ともかく我々の祖先は、今のところ争う事もなくうまく地球に適応しているようです。

ああ、それから人間は我々の祖先の事を「犬」と呼んでいます」

「ふん、こんな弱そうな種族に我々の偉大なる祖先が滅ぼされかけただと?」

「その可能性は高いですね、長官」

「仮にそれが本当だとしても、そんなバカげた話を信じる者がどこにおるんだ!」

後に我々が調査した結果、少女が発見された周囲3キロメートル圏内から、ボロボロになった見た事もない材質で作られた円盤型の乗り物と、少女の特徴とよく似た3体の遺体が回収された。

フレンチ博士によると、太陽系という天体は確かに存在しており、我々のクズラ銀河から遠く128億8000万光年離れた「天の川」という銀河の中に位置するという。

我々の今の技術ではさすがにこれだけの距離を移動できる手段はない。残念だが今後エミリーを故郷へ帰してやる事は不可能かも知れない。

一度は滅ぼし合いお互い別々の場所で進化を遂げた種族が、偶然とはいえまたこうして出会うという奇跡は、もしかするとそれは本当に偶然などではなく、何かを啓示している前兆なのかもしれないと思うのだ。

そしてエミリーの記憶が全て本当の事実だとするならば、ここにいる誰もが少なからず衝撃を受けた内容だった事に違いはないだろう。

「ほう、天の川銀河というのかね。なかなか洒落た名前をつけおるな人間も、わははははは!!!やるじゃないか!ははは」

この男を除いては。

【了】

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どぅん、どぅん、どぅん、

どぅどぅどぅん、どぅん、

まだかなー?\( ͡° ͜ʖ ͡°)( ͡° ͜ʖ ͡°)( ͡° ͜ʖ ͡°)/ひひひ

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どぅんどどぅん、どぅん、どぅんどどぅん、どぅん、やあロビンミッシェルだ。

皆様、この度は「見上げてごらん128億光年離れた夜の星を 序章」をお読みくださいましてベリベリサンクスです。

よもつ先生と僕はもしかすると腹違いの「姉弟」かもしれませんね。僕が密かに望んでいた事をいつもズバリとお当てになる…ひひ…

ここで、中途半端に終わってしまったこのお話を膨らませて頂ける「ビビっ!」とこられた同士様を募集したいと思います。

どぅん、どぅんどぅん、どぅん

もう、似ても焼いてくれてもお好きにして頂いて結構ですのでどうぞよろしくお願い致します!とりあえず、よもつ先生とラグト先生は決定ですよね?…ひひ…

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田中啓文先生のイルカは笑うを思い出しました。
どこかの分岐で違う選択が成されればあるかも知れません。
これは、誰かに続きを書けと言うことでしょうか?( ̄ー ̄)ニヤリ

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