中編4
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約束のヒマワリ

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「私、死ぬのは怖くありません。」

ベッドに横たわった妻が、消え入るような声でつぶやいた。

「まだそんなことを言っているのか。やめてくれ。君は生きるんだよ。」

私は妻の腕をぎゅっと握りしめた。

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だが、私も本当は分かっていた。

妻がこの世にいる時間が、もうほとんど残されていないことを。

今までの出来事が、走馬灯のように蘇る。

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大学を出て、大手企業に就職して順風満帆の人生だった。

だが、度重なる権力争いに嫌気がさし、その会社を辞めた。

そしてその時に培ったノウハウを活かし、生まれ故郷のこの町で小さなベンチャー企業を立ち上げた。

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大手企業にいたときの私は堅物真面目そのもののイメージを持たれており、あまり人付き合いもなかった。

そんな私に手を差し伸べてくれた女性。

それが今の妻、ジュリである。

私が故郷に戻るという時も、唯一私に付いていくと言ってくれた。

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だが、運命とは時に残酷だ。

彼女が癌に侵されたのだ。

発見が遅かったことが災いしもはや完治の見込みはなく、余命はもう残りわずかだった。

心から妻を愛していた私にとって、死刑宣告のようなものだった。

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そして妻は今、ベッドに寝ている。

残り僅かな生涯を、大好きだったこの家で過ごしたいという彼女の希望だった。

郊外に、奮発して建てた大きな家。

庭一面のヒマワリ。

すべて、彼女のためのものだ。

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「分かってはいるさ。でも、どうやって受け入れたらいいんだよ。」

私は涙を必死にこらえた。

そんな私にジュリは、私の頬に手を当てて言った。

「これは運命なの。私たちに課せられた。

大丈夫。あなたなら一人でも生きていける。たくさんの人に愛されているもの。」

もはや私は言葉を絞り出すことすら出来なかった。

「でも、忘れないで。

私はいつまでも、あなたのそばにいるから。」

数日後、容体が急変し妻は帰らぬ人となった。

私は彼女の葬儀で、ひたすら慟哭した。

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それからしばらくして。

私に新しい出会いがあった。

依然として悲しみから抜け出せず、町のバーで一人寂しく飲んでいると、

ある女性が声をかけてきた。

「社長?社長ですよね?」

新入社員のユキ。

気立てもよく仕事もできる、才色兼備の女性だ。

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「君にこんな姿を見られたら、話すしかないな。」

私は洗いざらい話した。

ユキも長く交際した彼に別れを告げられ、ちょうど落ち込んでいたという。

意気投合した私たちは、ほどなくして交際を始めた。

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だが、交際にあたってなかなか家に呼ぶ勇気は無かった。

あの家には、私とジュリとの思い出が詰まっている。

交際を続けている時はジュリを失った悲しみからは開放されていたが、

家に戻ってジュリが寝ていたベッドを見るたびに、ジュリの顔が浮かんで

後ろめたいものを感じていた。

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だが交際が順調になるにつれ、次第に結婚の話も出てきた。

そうなると、いつまでもかたくなに家に入れないわけにはいかない。

私は意を決して、ユキを家に呼ぶことにした。

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当日。

初めて家にやってきたユキ。

「家、すごく大きいね!」

大きな家と広々とした庭に、ユキは大満足だった。

そしてヒマワリ畑に、ユキは駆け寄った。

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「これは?」

「前の妻がヒマワリが好きだったんだよ。このヒマワリは彼女との思い出なんだ。」

「ふーん…」

ただ彼女はそこまで興味はないのか、ただ眺めているだけ。

そのうち茎を持って手遊びを始めた。

「おいおい、乱暴に扱うなよ」

「こんなに立派なヒマワリの畑作るんだから、二人本当に愛し合ってたんだろうね。羨ましいよ」

その時だった。

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shake

「いやあああああ!!!!」

「どうした!」

ヒマワリから謎の飛沫が出て、ユキの顔にかかったのだ。

「な、何これ…熱いよ!!!」

ヒマワリからそんな液体が出るなんて聞いたこともない。

何が起こっているのか?

私は慌てて、彼女を家に入れ介抱した。

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しばらくして、焼けるような感触は治ったが、

ユキの顔に飛んだ飛沫は、黒いぶつぶつに変わった。

そう、まるでヒマワリの種のように。

その黒いぶつぶつは、何度顔を洗っても、クリームなどをつけても落ちず、病院に行くことになった。

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医者によると、ぶつぶつは湿疹の一種らしいが、今までほとんど見たことない症状らしい。

一旦、湿疹なので薬で治療し、もし治りが悪ければ手術で切除することになった。

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その日の夜。

ユキは突然また、苦しみ始めた。

なんでもまた、ぶつぶつが焼けるように痛み出したという。

「た、助けて…」

ユキがうめく。

救急車を呼ぼうとしたその時。

私は何かにつまづいた。

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見ると、それは植物のツタだった。

「こ、これは?」

それはベッドの横の窓から出ていた。

窓の外。

大きなヒマワリが部屋を除きこむように生えていた。

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「な、なんでこんなところに…」

そしてツタは生き物のように、私の手に絡まった。

「うわああああ!!!」

ヒマワリの花弁が生きているかのように、もぞもぞと動き出して、顔のような形になった。

そのヒマワリを見た瞬間、私は全てを悟った。

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「だから言ったじゃないですか。

私はいつまでも、あなたのそばに居るって」

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