中編4
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彼女の部屋

これは夢の話なんだけど。

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ふと気付くと僕は薄暗い洞窟らしき場所にいて、背もたれのない椅子に括りつけられてるんだ。

しかも、僕を背後から抱き抱える形で女の子も一緒に拘束されてる。

つまり、ひとつの椅子に男女で縛られていて、女の子の膝の上に僕が座ってるって美味しい状況。

ただ、女の子には意識がなく、ぐったりしてた。

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そしてね。

僕の目の前にもうひとり別の女の子が立っていて、何かのスイッチを片手に高笑いするんだ。

「○○(僕の名前)くんが悪いのよ!?そんな女と仲良くしてるから!!とってもとっても反省してね??」

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あー、これはヤンデレってやつかなあ修羅場ってやつかなあとか思ってたら、ヤンデレちゃん(仮)が、持ってるスイッチを押してさ。

同時に、僕たちが座ってる椅子が動き出すんだ。後ろ向きに。

椅子の足に車輪がついていて、レールの上をトロッコみたいに走ってるらしかった。

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結構スピードが出てきた辺りで、椅子は何かにぶつかって止まった。

衝撃は強かったけど、背中側から激突したお陰で僕は無事だ。

僕は。

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後ろの女の子の安否を確認しようと身動ぎして、背中にちくりと痛みを感じる。

同時に、着ているTシャツがじっとりと濡れてきたことにも気が付いてさ。

それで、わかってしまった。

僕は椅子に拘束されている状態だし、本当ならほとんど見えないハズなんだけど。

これは夢だったから、何故かはっきり見えた。

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女の子の身体が、無数の針で串刺しになっている。

トロッコ椅子がぶつかったのは、鋭い針がたくさん生えた壁だったんだよね。

しかも、恐らく針の長さが調節されてる。

女の子だけを貫いて、ギリギリ僕を傷付けないように。

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じわりじわりと赤色に染まっていく、「夢を見ている僕」の視界。

嗅いだこともない程強烈な血臭。

ヤンデレちゃんが嬉しそうに、にたぁと笑った。

「反省、した?」

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そこで僕は目を覚ました。

携帯で確認すると、時刻は22時過ぎだ。

画面の灯りだけが、暗い室内を微かに照らしてる。

僕はたった今まで見ていた夢を反芻した。

当人からすればなかなかエグい内容だったとは思うけど、僕は二股なんてしてないし、いざ起きてみれば現実味は薄い。

ていうか何が一番怖いって、実際の僕には彼女がいないってところかな。

まあ、それでも好きな人くらいはいる。

同じアパートの真下の部屋に住んでる女子大生だ。

今日もコンビニバイトを終えて、そろそろ帰って来るはず…。

静かにベランダの窓を開けると、下の道路から丁度彼女の話し声が聞こえた。

珍しく誰かと一緒らしい。

2階のベランダからこっそり覗いてみる。

相手はあろうことか男のようだった。

彼女と勤務の時間帯が被ってるバイトのひとりだ。

確かに女性の独り歩きは危ないけれど、あんな男に送らせるくらいなら僕が迎えに行った方がよかった。

僕は、彼女の通勤距離をたった5分と軽んじたことを後悔した。

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楽しげなふたりの会話に暫く耐えていると、ついに彼女が「送ってくれてありがとう」と言った。

男は部屋に上がっていくような真似はせず、このまま帰るらしい。(当然だ)

ならば、僕もそろそろ部屋に戻ろう。

しかし安心するのはまだ早かったのだ。

不意に男が彼女を抱き寄せ…、その唇にキスを落とした。

動揺した僕は、手摺に巻きつけてある有刺鉄線で額を切ってしまう。

アパートのベランダに有刺鉄線だなんて物騒だが、留守中誰かに侵入されているような気がするという懸念から、苦肉の策で巻かれたものだった。

2階という部屋の高さは、侵入者を拒むには低すぎる。

ただ、そんなものは結局、全くの無意味なのだ。

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ああ。辛うじて繋がっていた僕の理性の糸。

それが、邪魔な男の登場によって無惨にも千切れてしまったのがはっきりとわかる。

酷い裏切りだと思った。

僕がいるのに、あんな男と仲良くするなんて。おかしい。

立場は違えど、さっきの夢みたいじゃないか。

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彼女が男に「また明日ね」と手を振る。

男が去るのを見送って、彼女は階段を上がってくるだろう。

このアパートは三階建てで、エレベーターなんてものはついていないのだ。

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僕はベランダから動けずに、有刺鉄線を見つめる。

無数に散らばる鋭い棘は、夢で見た針の壁を思い出させた。

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串刺しにされた少女の、よく見なかったはずの顔が…

想像の中で今、

彼女の顔へと 変わってゆく。

Concrete
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ろっこめ様、コメントありがとうございます´`*
おっ、そうお捉えになりましたか…!確かに元々そういう深層心理があったからこそそういう夢を見たのかもしれませんね。参考になります´▽`*
って、実際にこの夢を見た私、もしかしてヤバいやつ…?笑

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