中編4
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チャンネル

私には3つ離れた妹がいる。

一人は血が繋がってる『明優音』。

そしてもう一人の『萌々香』。

この子は親から酷い虐待を受け施設に入りそうになった時、私の母親が引き取った。

家も近く生まれた時から遊んでいる為特に違和感も無かった。

その上妹二人は大のオカルトマニア。

マニアつーか取り憑かれてるんじゃね?っていうレベル。

しかも何故か私を含め三人とも『視える』。怪異、怪奇、幽霊、バケモノ、、、色々な呼び方があるだろうがまぁなんでもいい。此の世のモノではないということだ。

この話は私と二人の妹が体験した話だ。

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さっき私含め3人とも視えると言ったが、それぞれに視えやすいモノってのがある。

要はどこを受信しやすいか。ほら、ラジオでもテレビでもこのチャンネルは映りやすいとか映りにくいとかあるじゃん。

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例えば私はヒト型のものが良く視える。ただフラフラしてんだろうなっていう怨念とか、ヤバい奴みたいな印象がないのも視える。

明優音は動物。目を背けたくなるような姿のが視えるらしく、まず道路は極力見ない。

多分轢かれたっていうのが多いからだろうね。

萌々香はヒトの一部、手とか目とかが良く視えるらしい。あー覗いてるなぁとかそういう感じ。

だから3人で歩いてて手を引かれることがよくある。

そんな時は暗黙の了解で「そこにナニかがいる」と思うようにしてる。

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前回、ライブという話を投稿したけれど他にも幾つかライブ・バンドに纏わる怪奇現象があった。

でも、それは私が体験したもんじゃない。妹たちが体験した話だ。

以下は妹目線とする。

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《萌々香》

姉のライブを見るのは好きじゃない。

まず煩い。爆音でギターとかドラムとか鳴り響いて、頭が痛くなる。

それに天井とか、壁とか床とか。日によって違うけれど、どこかしらに目が視える。

瞬きをすれば消えるけれど気味が悪い。

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でも1番厄介なのは手。

それも姉に向かって伸びるのだ。

その手は必ず同じ曲で現れる。確か姉が元カレ(ご存命だ)を想って書いた失恋ソング。

その歌を今、姉が歌い出した。

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「愛してる 決して消えることのない想い」

「でも気付いた 傍にいることが痛いと」

ステージから手が伸びる。

「バイバイしよう ただ幸せを願い...」

目を瞑って気持ち良さそうに歌い上げる。

今にも姉の足を掴みそうな手。

だけど姉が目を開けると少し距離を取り、困ったように手を動かす。

そしてまた目を瞑ると手が近づく。

それは次の曲にいくまで続く。

怖い。

曲が終わるまで、目を開けるまで気が気じゃない。

姉が連れて行かれてしまいそうで怖くて仕方ないのに。

私は目を背けることなく、手を見続ける。

もう歌うなと言いたいのに言えず。

セットリストにこの曲が組み込まれる度、私は姉のライブを見る。

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《明優音》

犬がいる。

ライブハウスのスタッフ入口の前に、まるで番犬のようにして。

まだまともな姿だったらと何度思ったことだろう。

その姿は見るに耐えない。

火傷のような跡。欠けた右後ろ足。

何度か見かけるうち、それは人間が故意にやったものだと知った。

跡をよく見た訳じゃない、犬の声が聞こえたなんてこともない。

ただ何となく知った。

そしてその犬が番犬なんていう良いものじゃないことも、後に知る。

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その犬は、姉のバンドメンバーや他のバンド、スタッフが通ると顔を上げる。

きっと顔を確認しているんだろう。

だから私は番犬みたいなものだと思っていた。

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ある日。対バンという他のバンドと姉のバンドが対決するというライブがあった。

最初はゲームでもして対決するのかと思ったが、演奏で競うらしい。

何を競うのか、何で競うのかは知らないし、合同ライブ的なのじゃダメなのかと思ったのを良く覚えてる。

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その日も犬は顔を確認していた。

そして対バンの相手の1人がそこを通った時。

犬がおすわりの体制から3本足で立ち上がり

その男の足に噛み付いた。

男はバッと足を見て叫んだ。

視えているのかいないのか。

分からないけど叫んだ。

「痛い!痛い!助けてくれ!!」

周りの人間は何がなんだか分からない様子だった。

そりゃそうだろう。

痛い痛いと叫び、男の足から血が出ているんだから。

姉と萌々香は私の顔を見て何となく察した。

そして遠巻きに黙って見ていた。

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結局。犬の鋭い歯が食い込んで、血はダラダラと流れ肉が見えた。

そして救急車が来て運ばれていくまで男は

「悪かったラッキー、ごめん」

と謝罪と犬の名前であろう言葉を繰り返していた。

犬はいつの間にか消えていた。

怖いとか気持ち悪いとか。

そんなものは無かった。

アホだな、とただ思った。

犬を虐待して殺したであろう男も、いつ来るかもしかしたら来ないかもしれないこのライブハウスで待ち続けた犬も。

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この他にも、些細な事は何度かあったらしい。

人間にはムリだろうという場所から覗く目。

壁から生えてヘドバンする頭。

ライブハウスに紛れ込んだ犬や猫。

そんな話を聞いた時、私はチャンネルが合わなくて良かったと思う。

人としてどうかなとは思うけどね。

だから皆さんも、ひょんなことでチャンネルが合うかもしれませんよ?

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