中編5
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禁じられた2人

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時は昭和の時代。

関東のとある場所に、地図に乗っていない幻の湖があったという。

ある人は言った。

「この世に行き場を無くした人間が、最後にたどり着く場所である」と。

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「目を開けて、優子さん」

ゆっくりと、一人の少女が目を開ける。

「ここが…幻の湖なのですね。伝説などではなく、本当にあったのですね」

湖のほとりで、二人の少女がただずんでいる。

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「追っ手は?」

「今のところは来ていないわ。でも、分からない。

風の噂じゃ、すぐそばの村にも来ているそうよ」

「私たち、逃げ切れるのかしら…」

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-1年前-

「本日より篠田財閥の使用人として働くことになりました、白石飛鳥と申します。

不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします。」

一人の若き少女が、頭を下げる。

「私が篠田財閥の社長、篠田金造だ。

こちらが長女の優子、次女の敦子。

そして妻の麻里子だ。

どうか、仲良くしてやってくれたまえ」

恰幅のいい中年男性が、二人の娘と妻を紹介する。

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「よろしくお願いしますわ、飛鳥さん」

優子と呼ばれた女性が、飛鳥に手を差し伸べる。

「よろしくお願いいたします。」

飛鳥は手を掴み、まっすぐ優子の顔を見つめた。

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それからは、何事もなくしばし月日が流れた。田舎から上京してきた飛鳥は何事にも一生懸命な女性で、篠田財閥の人間からはえらく気に入られていた。

その時は、誰も後々起こる悲劇など予想していなかった。

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「優子さん、お話があるの」

ある日。飛鳥は優子を呼び出した。

「なんですの?」

きょとんとした顔で優子は飛鳥を見つめている。

「ずっと言えなかったけど…」

飛鳥は唾を飲み込み、振り絞るように言った。

「私、優子さんのことが好き」

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「え?何をおっしゃるの?飛鳥さん」

優子の問いに、飛鳥は優子の手を握りしめて答えた。

「お会いした時から、私はあなたのその、何事も許してくださる優しさと、どんな事にもまっすぐなひたむきさに惹かれたのです。

他の人ではダメなのです。

これって、いけないことですか?」

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「飛鳥さん、本気なの?貴方?」

優子は尋ねた。しかし、飛鳥の表情は本気だった。

すると優子は、微笑み飛鳥の耳元で囁いた。

「私もですわ」

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「この事はくれぐれも、秘密にしましょう。

お父様は極めて厳しい人。

こんな事が分かったら、貴方を屋敷から追い出してしまうわ」

「わかりました。お約束します」

それから、女子二人の交際が始まった。

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人目を盗み、二人は幾度も出かけた。

「私、もし生まれ変わるのなら、男になりたい。

そうすれば、何の恥も外聞もなく、貴方を愛せるのに」

「そうね。運命はなんと残酷なのかしら。

もし、女として生まれなければ、私たちは結ばれるはずだった二人よ」

二人は自分たちの運命を呪った。

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二人の幸せな時間は長くは続くことはなかった。

「優子!お前に見合いの話だ!」

「お見合いですか?お父様。」

金造氏は男の写真を見せた。

「前田工業の御曹司、前田謙二くんだ!

美男子で、あらゆる芸術に優れた素晴らしい男だよ。

まさに、優子の婿に此れ程相応しい男はいない!」

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「それって…政略結婚というものでは。」

優子と飛鳥は、屋敷の秘密の部屋で話していた。

「その通りよ。篠田財閥と前田工業は大きな取引をしようとしている。

きっとお父様は、その条件として私を差し出したのだわ」

「そんな…」

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「嫌よ!優子さんは私の全てなの。

優子さんを失うなんて、私、いきていけないわ」

優子は飛鳥の手を握りしめて答えた。

「夜逃げしましょう。二人で。

いつか行こうと言っていた、あの湖に」

「優子さん…私を選んでくれるの?」

優子は頷いた。

「わかりました。行きましょう。もうこの世に私たちの行き場はありません。

そんな者たちが最後にたどり着くという…あの湖へ」

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翌朝。

「優子の姿が見えないだと?

飛鳥もか!?

あの女め、血迷って優子を誘拐でもしおったか!

草の根を分けてでも探し出せ!

篠田財閥に刃向かったらどうなるかめにもの見せてやるのだ!」

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それから二人は、ひたすら逃げ続けた。

電車を乗り継いで、篠田財閥の追っ手と警察からとにかく逃げた。

「伝説が本当なら、この森の奥です!」

二人は湖があると言われている、人里離れたとある山の森の中をひたすら進んでいた。

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しかし、途中ついに力尽きて優子が倒れてしまった。

「優子さん、しっかり!あと少しですわ!」

「私はもうダメです…気にせずお逃げくださいな」

「何をおっしゃるのですか!あなたを置いて逃げるなんてできません!」

飛鳥は優子をおぶり、木の枝で足が傷つくのもおかまいなしに進んでいった。

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「目を開けて、優子さん」

ゆっくりと、優子が目を開ける。

「ここが…幻の湖なのですね。伝説などではなく、本当にあったのですね」

目の前には美しい湖が広がっていた。

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「追っ手は?」

「今のところは来ていないわ。でも、分からない。

風の噂じゃ、すぐそばの村にも来ているそうよ」

「私たち、逃げ切れるのかしら…」

ふと、優子が湖のほとりに目をやると、二人乗りのボートがロープに繋がれていた。

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「このボートに乗りましょう、飛鳥さん」

「それはいいけど、どこへ行くの?こんな小さなボートでは遠くへは行けませんわ」

「いいえ、行けるわ。決して誰からも追われず、女同士でも愛し合える世界へ」

「優子さん…」

飛鳥は優子の真意に気が付いた。

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「でも、本当にいいの?貴方は私とは違う。このまま行けば幸せな人生が待っているかもしれないのよ。それを全部捨てる事に、悔いはないの?」

「悔いなんて、ここに来る時に捨ててきたわ。もう私の気持ちは決まっていた」

「優子さん…」

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「さあ、行きましょう。もう時間がない」

「後悔はないのね?」

「ええ、あなたも後悔はない?」

「ありません」

そういうと、優子は飛鳥の唇に優しく唇を重ねた。

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「さあ、湖にボートを出しましょう。

漕ぎ疲れたら、私の腕の中で眠りなさい。

夢の中で、私たちは、ずっと、愛し合えるから…」

優子の言葉に飛鳥は頷く。

2人はロープを外し、湖にボートを出した。

ゆっくりとオールを漕ぎ始める。

岸がどんどん、遠くなっていく。

それは岸辺だけではなく、まるでこの世から遠ざかっていくようだった。

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「私たちの罪は出会ってしまったこと…

男に生まれていたら、きっと私たちは結ばれていたはず」

「もし生まれ変わることが出来たなら、今度は逃げる事もなく、愛し合えますように」

そういうと、手を繋ぎ2人は、湖に身を投げた。

2人の身体は、冷たい湖の底にゆっくりと沈み…2度と浮かんでくることはなかった。

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篠田財閥はその後も2人の捜査を懸命に続けたが、ついに発見することは出来ず、捜索はやむなく打ち切られた。

前田家への嫁入りは、妹の敦子が代わりにいくことになった。

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あの湖は令和の今でも、地図には記されておらず、その存在を確かめる術はない。

そして、遠い世界に旅立ってしまった2人は、果たして結ばれたのか…それを知る術もない。

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