中編3
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アンケート 【奇告蒐集】

私のホームページに、こんな話が寄せられた。

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C美さんは都内の専門学校に通う傍ら、学校近くのカフェでアルバイトをしているそうだ。

ある日、C美さんが学校の最寄り駅からアルバイト先へ向かうと、駅前でアンケート調査をする男がいた。

男は人波を眺め、C美さんに気付くと近寄って来た。

「アンケートにご協力ください」

C美さんは進路を妨害するように立ちはだかる男を見上げた。

ひょろりと背が高く、病的に肌の白い男に一種の嫌悪感を抱き、無言で身をかわそうと横にずれたが、男はアンケート用紙がセットされたボードを小脇に挟みながら、尚も進路を遮る。

「すぐに終わりますから」

そう言って男はアンケート用紙をC美さんに差し出した。

A4くらいのアンケート用紙を一瞥すると、項目はレ点でチェックするようなものが数問あるだけだったので、これ以上のタイムロスを惜しんだC美さんはアンケートに答えることにした。

アンケート内容は『防犯対策について』だった。

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一つ目の設問は『都内にお住まいですか』と書いてある。

C美さんは本当は隣のS県の実家から通っていたのだが、小さな劣等感から都内在住だとアルバイト先の仲間に話していた。

そのことが頭を過ったC美さんは、若干の罪悪感を持ちながらも、『はい』にチェックした。

それから『一人暮らしですか』や『民間の警備会社を使っていますか』などの設問に適当にチェックを入れ、次の設問に違和感を感じてペンが止まった。

『家のカギのメーカーは何処ですか』

家のカギのメーカーなど気にしたこともないC美さんが困っていると、男が言った。

「カギに書いてありますよ」

そう言われて、C美さんは家のカギを取り出すと、確かにメーカーが書いてあった。

カギに彫られたメーカー名を項目から見つけ、チェックを入れたC美さんが最後の設問に思わず体が強張った。

『ご協力ありがとうございました。最後にあなたのお名前、年齢、住所をお願いします』

これには困ったC美さんだったが、今さら答えられないなどと拒否することができないC美さんは、名前、年齢を書いた後、住所はアルバイト仲間のマンションを書いた。

勿論、部屋番号は全くのデタラメ……存在するかも分からない。

この場を離れたい一心のC美さんは、書き終えたアンケート用紙を男に突き返し、その場から足早に立ち去った。

その時、背中越しに聞いた男の「ご協力ありがとうございました」が妙に耳に残ったそうだ。

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数日後、アルバイト先に出勤したC美さんに仲間が興奮気味に話し掛けて来た。

「ウチのマンションに強盗が入ったんだよ!!背が高いモヤシみたいな男!!そこの住人が空手の有段者で男は捕まったけど、男が警察に連れてかれる時に『彼女に会いに来た』って言っててさぁ……どっかのカギも持ってたんだって」

それを聞いたC美さんは全身に鳥肌が立ち、吐き気をもよおした。

もしあの時、正直にアンケートに答えていたら……。

そう思うと、C美さんは今でも震えが止まらないという。

Concrete
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