無から無へ 其の二 (叔父さんシリーズ)

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無から無へ 其の二 (叔父さんシリーズ)

今までの怪異の原因が全て、叔父さんの障りのせいだと聞かされ、それらの経緯を説明された僕。

そのどれもが信じがたく、耳を疑うものばかりだった…。

そして叔父さんが最後に言った言葉。

「今回は全く気付けなかった。」

この言葉の真相は…。

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今回…?気付けなかった…?

母の件はまだ続いて…る?

叔父さん「妹に障りを成したヤツは完全に消してやったよ。

でも…問題はそこじゃない。」

真っ暗で叔父さんの表情もその姿さえ見えないが、その言葉から緊張が伝わる。

叔父さん「確かに僕君とお父さんが妹を連れて来た時、僕は冷静では無かったと思う…。

大切な妹を障ったモノが目の前に居たからね…。

それでも君達二人の事は注意深く見ていた。

でも君達二人からは何も感じられ無かったんだよ。」

僕と…父…?

母では無く、僕と父が障られた…?

?!まさか?!

叔父さん「そう。そのまさかだよ。

もっと早く気付くべきだったんだ。

君達は何事も無く、僕の元へ辿り着いた。

何事も無く…。」

確かに、叔父さんが心配していた様な事は何もなく僕達は母の故郷へ辿り着いた。

でも、それの何処に問題が?

叔父さん「あの時、君達の護りは解かれていた。

更に、君達の側にはヤツと僕の障りを同時に受けている妹が居た…。

その状況であの二つの峠を何事も無く越えられた事がおかしかったんだよ。」

S峠、N峠…。

叔父さん「恐らく僕の元へ来た時はまだ障られてはいなかった。

その時点で障りを受けていれば、僕が黙ってはいないからね。

ヤツらはそれを見越して、君達の帰りを狙ったんだ!」

あの事故が障り…?

じわじわと追い詰めるでも無く、一瞬にして命を奪いに来る…。

それにヤツらって…?

叔父さん「あの事件が起こった後…。

あの家から帰った後の話なんだけど…。」

昔、母の故郷で起こった一家惨殺事件と容疑者である、男のやった呪いの儀式…。

叔父さん「あの家から戻った僕は今まで以上に力を持ってね。

以前では感じられ無かった力も感じられる様になったんだ。

小さすぎて感じられ無かった力も、大きすぎて感じられ無かった力も…。

それで気付いたんだ…。

あの二つの峠はかなり危険だってね…。」

叔父さんの声が少し震えている…?

叔父さん「でもね?あの二つの峠には何も居ないんだ。

それは間違いない。」

何もいない?

何もいないのに障られた?

僕の頭は混乱していた。

叔父さん「そう。あそこには僕君達で言う、霊も神も悪魔も何もいないんだよ。」

ちょっと待って!

叔父さん?ほんまに意味が分からん!

何もいいひんのに障られたってどういう事なん?

叔父さん「僕も詳しくは分からないんだよ…。

何もいない…。

でも間違い無くあそこには何かがある…。

だから僕は、あの峠を通って村へ来る連中を特に警戒したし、僕自身も村から離れなかった。

僕が離れたら、村そのものが呑み込まれてしまう気がしてね…。」

そうか…。

だから叔父さんは僕達の時も、母の時もこっちへ来る様に言ったのか…。

そうやって村を守っていたのか…。

でも…。

村が呑み込まれる?

流石にそれは…ちょっと…。

叔父さん「僕君がそう思うのも無理はないよ。

でもね?あの峠からは…あの家と同じ澱みを感じるんだ…。」

あの家?!

あの何も存在しない、してはいけない空間…?

叔父さん「そう…。

あの家で起こった出来事は、全てあの男が起こした事だった…。

でも、あの峠で起こっている事はとても人の手によるものとは思えない…。

恐らくは自然…。

経緯は分からないけど、いつの頃からか自然とそういう場所なんだよ。

あの男も峠に障られた末の行動だったかも知れないね…。」

自然…。って。

叔父さん「でも…。大丈夫。

君達家族は絶対に僕が守るから。」

僕達家族を守る?

僕は今、こうして叔父さんと共にいる…。

でも父は…。

母の安否も分からないまま…。

そう思った僕は叔父さんの大丈夫という言葉に怒りを覚えた。

大丈夫って!何が大丈夫なん?

オトンの姿、見たか?

どう考えても死んでた!!

それを大丈夫?守る?

えぇ加減な事言うな!

叔父さん「………。」

声には出せないが、僕は心の中で叔父さんを罵倒した。

叔父さん「本当にすまない。

でも、大丈夫…。

僕を…。僕君の叔父さんを信じてくれ。」

僕は何も言わない。

何も考えられない…。

叔父さんは暫く黙った後、言った。

叔父さん「少し話が長くなってしまったね…。

どうしても僕君と話がしたくてね…。

まぁ今回も楽しい話では無かったけど…。

………。

それじゃ僕はもう行くよ…。」

その言葉に僕は反応した。

行く?行くって何処に行くん?

叔父さん「決まってるだろ?

消すべきヤツらの所だよ。」

そう言った叔父さんの声はとても冷たく冷めきっていた。

それにしても、僕達を助ける?

この人は本気でそんな事を言ってるのか?

叔父さん「やっぱりまだ僕を疑っているね…。

出来ればこの話はしたくなかったんだけどね…。」

?叔父さんはまだ僕に隠している事がある?

叔父さん「余計に君を混乱させるかと思ってね…。

それに…。

僕君が僕を恐れるんじゃないかと心配で…。」

叔父さんが何となく哀しそうだ…。

叔父さん「でも隠しても仕方の無いことだから、今から話すよ。

でもね?僕君。

僕が何を言っても気をしっかりと持ちなさい。

取り乱してはいけないよ?」

あの叔父さんがそこまで言うのだから余程の話をするのだろう。

僕は覚悟を決めた。

叔父さん「僕君は今、何処にいると思う?

いつもの様に僕の小屋だと思ってないか?

でも、それにしてはいつもと様子が違わないかい?」

確かに…。

あの小屋は電気もなく真っ暗だが、ここはそんなものじゃない…。

全く何も見えない漆黒の闇。

叔父さん「ここは僕の持つ世界……いや、僕の棲む世界と言った方がいいかな?」

叔父さんが棲む世界?

何を言っているんだ?

叔父さん「君の身体は動かす事が出来ないだろ?

死んでしまう程の大怪我を負ったにも関わらず、痛みさえ無い。

それはどうしてだと思う?」

僕には全く分からない…。

確かに一度目を覚ました時は、身体中に激痛が走った。

でも今は…。

叔父さん「それはね…。

それは君が存在しないからなんだよ。」

?!

存在…。しない?

でも、今此処で叔父さんと…。

叔父さん「そう。今、確かに僕君はここにいる。

でも、それは僕君の意識だけなんだよ。」

意識だけ?

何の事か全く理解出来ない。

叔父さん「今、僕君の肉体は此処にはない。

僕君の意識だけを僕が連れて来たんだ。

肉体が無いから痛みも感じない。」

ちょ…ちょっと待って!

幾ら何でも、意識だけを連れて来たって…。

肉体が無いって…。

そんな事が現実にあるわけ無いやん!

叔父さん「取り乱してはいけない。と言ったはずだよ?

前にも言ったはずだよ?

納得出来るか出来ないか何て、関係無いんだよ。

今此処にいるのは、僕君の意識だけだ。

そうしないと僕君は間違い無く死んでいた。」

今の僕が意識だけ…。

ほな両親は?

両親は何処にいるん?!

叔父さん「お父さんは、僕君も見た通り、亡くなっていたよ…。

少し離れた所に妹も…。」

…………………。

分かっていた…。

分かっていた事だったが、現実を知らされた僕は絶望の縁に叩き落とされた。

叔父さん「無理もない…。

でも、きっと僕が助けてあげる。

僕はね?

本当に化け物なんだよ…。

あの日、あの家に入った時から、僕という人間は存在しないんだよ…。」

叔父さんが存在しない?

叔父さん「そう…。

何も存在しない場所…。存在してはいけない無の空間…。

そこに足を踏み入れた時、僕の存在はこの世から消えたんだ…。」

じゃあ…。今まで会っていた叔父さんは?

今、こうして話している叔父さんは…?

叔父さん「僕自身、それに気付いたのはあの家の件から大分経ってからだけどね…。

言わば僕自身が「無」の存在なんだよ…。

そこに存在してるけど、存在しない…。

良く分からないだろ?(笑)

だから僕は化け物なんだ…。」

僕は叔父さんの話が全く理解出来ない…。

出来ないけど、涙が溢れて来た…。

今の僕に肉体はない。

だが、意識の中で僕は確かに泣いていた…。

叔父さん「こんな話、信用出来るわけないよね…。

でも、いいんだ。

そう…。それでいいんだ…。」

叔父さん?

僕は言い知れぬ不安を感じた。

叔父さん「さっ。それじゃ僕はそろそろ行くよ…。」

叔父さん!

真っ暗で叔父さんの顔が見えへんよ!

僕の…僕の大好きな自慢の叔父さんの顔が見えへんよ!

すぐにでも、両親を救って欲しかった。

でも、何故か叔父さんを行かせたくなかった僕は子供の様に駄々をこねる。

叔父さん「僕…君…。」

その時、うっすらと…本当にうっすらとだが光が射した。

その光に照らされて、僕と同世代とおぼしき男性が立っているのが見えた。

その男性は優しい笑顔で僕を見ている。

「有り難う。僕君…。」

そこで僕は意識を失った…。

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ん…。

何か眩しい…。

僕はゆっくりと目を開け、辺りを見回す。

?!

途端に僕は飛び起きた!

そこには見慣れた景色。

たまにしか座らない勉強机。

作りかけのプラモデル。

つい最近購入して一度も目を通していない参考書…。

僕「?!俺の部屋?!」

僕は慌てて部屋を飛び出し、リビングのある一階へかけ降りた。

乱暴にドアを開けると、両親が座っている。

僕「オトン?!なんで?!どうもないの?!」

僕は興奮の余り、矢継ぎ早に質問を浴びせる。

父「おぉ。僕。目ぇ覚めたか。」

父は質問には答えず、そう言った。

父「僕?ちょっと聞くけど、俺ら家族って車で崖から落ちんかったか?」

父はあの事故の事を覚えている…。

父「やっぱり落ちたよなぁ…?」

父の話は、崖から転落する所で意識を失い、気が付くと家のベッドの上だった。という僕と良く似たものだった。

だが、意識を失っている間、夢の様な物を見たらしい。

父「意識失ってたから、どんだけ時間が経ってたか分からんけどな、名前呼ばれた気がして目開けたら、お前と同い年位の男の子が立っとってん。

で、その子が俺に頭下げて「妹を宜しくお願いします。」ていいよってん。

そのすぐ後に意識が戻ってベッドの上やったちゅうこっちゃ。」

叔父さん…。

その時、父の横で話を聞いていた母が突然大声を上げて泣き出した。

母「兄さん…。兄さん!」

あまりにも取り乱す母を父と二人で宥め、母の涙の原因を聞いた。

母「お父さんの夢に現れた男の子は私の夢にも現れた…。

凄く優しい顔で、黙って私を見ていたの…。

そして最後に一言だけ…。

「迷惑かけてすまない。」

そう言ったの!!

あの頃の…。あの頃の優しい兄さんのままで!

兄さん…。兄さん!」

叔父さんは本当に僕達家族を救ってくれた…。

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あれから五年…。

あの事件の後、家族ですぐに叔父さんの小屋へ向かったが、そこに叔父さんの姿は無かった。

父や母は落胆していたが、僕はいつか又、必ず会えそうな気がして、毎年この小屋へ足を運ぶ。

この小屋へ来た時、祖母に聞いた話だが、母が結婚の為この村を離れた次の日、叔父さんは忽然と姿を消したそうだ。

それから村人も、祖母でさえ叔父さんの姿は見ていないと言う。

そんな時、母から叔父さんからの連絡があった事を聞かせれ驚いたらしい。

知らない間に帰って来たのかと思い、こっそり小屋を見にいったが、やっぱり誰もいなかったらしい。

つくづく叔父さんらしいな…。

僕がこの小屋へ来るのも今年で五回目…。

毎年決まって小屋の前に佇むだけ。

扉を開けようとはしない。

開けてしまったら現実を知ってしまう様な気がして…。

今年もただ小屋の前で佇む…。

「また来年くるわ。」

小屋に背を向け、ほんの少し期待していた自分を慰めつつ、小屋を後にする。

「開いてるよ?」

Concrete
コメント怖い
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mami様。

僕もこんな叔父さんが欲しいです!
あわよくば、自分がこんな叔父さんになりたいです!
そして最後は無に…。
コメント有り難うございますm(__)m

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むぅ様。

コメント有り難うございます。
話を考えている間にどんどんスケールがおっきくなってしまいました(笑)
最後までお読み頂いて有り難うございますm(__)m

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月船様。

感動して頂けましたか?!Σ(゜Д゜)
僕はその言葉に感動しております!
いつか叔父さんが戻って来たら、また読んでやって下さいm(__)m

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マコ様。

コメント有り難うございます!
そんなに誉められたら調子に乗りますやん!

次はマコ様の作品をお待ちしてます!

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セレ―ノ様。

僕の作品で涙して頂けたのですか?!Σ(゜Д゜)
実は僕もちょいちょい涙ぐんでおりました(笑)

叔父さんは、強く、優しく、そして儚げでした。
最後まで読んで下さって有り難うございます。

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珍味様。

初めまして。
コメント有り難うございます。
叔父さんが墜ちた闇の深さは僕にも分かりません。
もしかしたら、誰しもが心の中に漆黒の闇を抱えているのかも知れませんね…。

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吉井様。

僕もめっちゃ気になります!(>_

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