長編16
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死神のすごろく

私の職場の黒川先輩はいわゆる霊感の強い女性です。

彼女には美弥さんという名前の妹さんがいます。

彼女も姉の瑞季さんと同じく霊感の強い視える人です。

美弥さんは病院でナースとして勤務していたので、病院ならではの心霊体験も経験していて、その体験談の中でも興味深いものを機会があるときに話してくれていました。

今回のお話は美弥さんが病院で出会った死神のお話です。

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その夜、私は病院の一階にある自販機スペースで病室を抜け出した姉を見つけました。

「お姉ちゃん、消灯時間過ぎているのにこんなところで何してるのよ、部屋を見に行ったらもぬけの殻でびっくりしたわよ!」

「あっ、美弥、ごめん、ごめん、手術した左手が痛くて眠れないのよ」

姉はギブスで固められた左手をあげて見せました。

姉は仕事中に交通事故で左手を強打して、骨折と裂傷を負い、うちの病院に入院していました。

しかし、痛くて眠れないといった割に平気で缶コーヒーを飲んでいます。

手術後に傷がうずいて眠れないのは十分理解できましたが、私は姉に病室に戻るよう促しました。

その時でした。

突然、周りの空気が凍り付くような違和感がその場を突き抜けました。

「えっ、何?」

私は病院の中に何かとんでもない異質なものが侵入したことは認識しましたが、普段よく感じている悪霊のそれとは全く違うものでした。

悪霊はその不快な気を周りに放出しているものですが、今病院に侵入したそれはむしろ自分の潜む力を抑え込んでいるような感じでした。

私以上に霊感の強い姉も同様に気づいたらしく、周りを警戒しているようでした。

耳を澄ましているとロビーに続く廊下の奥からゆっくりと近づいてくるかすかな足跡が聞こえてきました。

私は身を固くしてその近づいてくる違和感の塊を待ちました。

そして、闇の中から生まれるように一人の女の子が自動販売機の明かりの中に姿を現しました。

赤いドレスに長い金色の髪、抜けるような白い肌が特徴的でした。

さらに近づきがたい空気をまとっていました。

歳の頃は中学生ぐらいでしょうか、右手にトランクを持ち、肩には黒猫が乗っています。

病院という場所で西洋の童話から抜け出してきたような風貌の少女に一瞬思考が停止していましたが、彼女は私たちの存在に気づくと一瞥だけして奥に進んでいきます。

私はすぐに呼び止めようとしたのですが、その瞬間甘い香りが鼻腔をくすぐり頭の中が真っ白になりました。

私は急なめまいに倒れそうになりながら、その場にあった長椅子にぺたんと座り込みました。

隣にいた姉も同じようでしたが、頭を振ってすぐに立ち上がると、私の肩をゆすって起こそうとしました。

「美弥、だいじょうぶ?」

「あ、うん、何、今の?」

「わかんない、でもすぐに後を追いましょう」

事態はよく分かりませんでしたが、不審者が病院内に侵入したのは確かでしたので、私達は少女の進んだ後を追いかけました。

奥のエレベーターホールまで来ると、一台のエレベーターが上へ昇っていました。

程なくしてそのエレベーターは五階で止まりました。

私達は隣のエレベーターに乗り、同じ五階に向かいました。

五階で降り、その階のナースステーションに行くと夜勤の同僚ナースがうつらうつらと頭を揺らしながらもうろうとしていました。

私は彼女達の肩をゆすって、誰か来なかったか尋ねました。

彼女たちは一瞬意識が飛んでいたことに驚いていましたが、特に誰かが来た覚えはないと答えました。

病院内にはいまだに先ほどの違和感が残っているままだったので、私達はもう少しこのフロアを調べようかと思ったのですが、姉の方が病室を抜け出していることを同僚ナース達に気付かれてすぐに病室に戻るように注意を受けてしまいました。

心残りではありましたが、私もその日はそこで夜勤に復帰しました。

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次の日、私はあらためて昨晩あの少女が向ったと思われる五階の同僚に昨日の少女の話をして、何か院内に変わったことがないかを尋ねました。

すると一人の看護師が何か思い出したのか、ある患者のことを話し始めました。

その患者は五歳の男の子で肺炎にかかって入院していたのですが、午前中ずっと寝ていて気になってどうかしたのか聞いてみると、昨日の夜に長い夢を見たというのです。

その夢ではお姫様のような綺麗なお姉さんとすごろくをして遊んだということでした。

お姫様のようなお姉さん、夢の話ということではありましたが、私が昨日遭遇した少女と特徴は一致しているような気がします。

私は姉にそのことを伝えると一緒にその男の子に会いに行こうということになりました。

私達がその少年の個室を訪れると、ベッドに腰かけている男の子と少年の祖母らしき女の人がいました。

私達は二人に挨拶をして、自分がこの病院の看護師であることを説明し、彼が昨晩に見た夢のことを聞きたいと説明しました。

男の子の名前は純君といいました。

夢の話と聞いて、純君はベッドの横の引き出しから日記帳を取り出してきました。

彼は嬉しそうに夢日記と説明します。

聞くと純君は夢を見てもすぐに忘れてしまうので、昔から覚えておきたい夢を見た時はすぐに日記帳に書き記しているということでした。

「どんなお姉さんだったの?」

姉が尋ねると少年はうれしそうに答えました。

純君が日記帳を開くと五歳の子供にしてはかなりうまいタッチでドレスを着た女の子が描かれていました。

子供の絵でしたが、その髪型や服の特徴から私達が昨晩見た少女で間違いなさそうでした。

「すごくきれいなお姫さまみたいなお姉さんだよ、二日前の夜から続けて夢の中に出てきたんだ」

照れたように語る純君を見て姉がにんまりと笑いました。

「なんだよ、好きになっちゃったのかよう、子供のくせに意外にませてるなあ、初恋なの?」

いつものことながら、こういうデリカシーのないところが姉にはありました。

「ち、ちがうよ!」

純君は真っ赤になって否定しましたが、その様子から夢の中のお姉さんに好意を抱いていることは間違いなさそうでした。

「それで純君、夢の中でそのお姉さんと何をして遊んでたの?」

「えっとね、人生すごろく」

「人生すごろく、すごろくはわかるとして人生って何?」

「お姉ちゃんがそう言ってたの、カバンの中から出してテーブルの上に広げたんだよ」

人生と名前のつくすごろく、あの有名な人生ゲームのようなすごろくでしょうか。

「あのね、そのすごろくすごいんだよ、マスを進んでいくと僕が生まれた時から始まって今までのいろんな出来事が浮かび上がってくるんだ」

「純君の小さい頃の思い出ってこと?」

「そうだよ、ママとお出かけしたことや保育園の発表会とか」

人生のすごろく、それはまさしく死ぬ前の走馬燈のようなもののようでした。

「それじゃ、純君はそのお姉さんとそのすごろくを何回もやったの?」

「ううん、マスに止まるごとに思い出が浮かび上がってくるからなかなか進まないんだ、昨日はお外が明るくなるまでに四歳まで行ったよ」

「そのお姉さんはすごろくが終わったら、何か起こるとか言ってなかった」

「えっとね、よく意味が分からないんだけど、お姉さんがすごろくで先にゴールしたら、僕の魂をもらうよって」

無邪気な口調でしたが、その言葉に私達だけでなく隣のお祖母さんも驚いていました。

「魂を・・・ちなみにそのお姉さん自分の名前は教えてくれた?」

「うん、しにがみって言ったよ」

そこまで話して、少年の祖母が私達を病室の外に連れていきました。

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「どういうことなんでしょうか、死神だなんて?」

お祖母さんは心底青ざめていました。

「私達もそのことを調べるためにここへ来たんです、失礼ですがあの子の両親は今はお仕事中ですか?」

私の問いかけにお祖母さんはゆっくりと注意深く答えました。

「・・・あの子に両親はいません」

「どういうことですか?」

「純は私の娘の子供ですが、もともとうちの娘は高校を卒業したあとすぐに家を飛び出したんです」

思いがけない返答に私達は硬直しました。

「家出を・・・それでその後は?」

「私と夫は消えた娘の行方を捜していましたが、先日シングルマザーで子育てをしている娘の情報をつかんでそのアパートに行ったんです」

悲痛な表情をしてお祖母さんは話を続けました。

「けれど、アパートの部屋はゴミだらけで肺炎と栄養失調で死にかかっていたこの子・・・純を見つけたんです」

「それじゃ、娘さんは?」

「アパートにはいませんでした、純の話によると二週間ほど放置されていたようです」

「育児放棄・・・ですか?」

「分かりません、しかし私達も反省しているんです、娘に対しても謝りたいと思っています。それなのにこの死神というのは何なのですか・・・純は死ぬんですか?」

「・・・まだ今のところはなんとも、もう少し純君の話を聞いても構いませんか?」

「ええ、どうぞ」

病室の中に戻ると純君は再び笑顔で話し始めました。

「あっ、お姉ちゃん、それでね、しにがみさんは夢の中のことじゃないかもしれないんだ」

明るい口調の少年の瞳が覗き込むように私達を見つめています。

「どうして・・・そう思うの?」

「今日起きたらね、ベッドの下にすごろくに使ってたサイコロが落ちてたんだ」

純君は小さな六面のサイコロを取り出して見せてくれました。

黒色の骨のような素材に金色で数字の刻印がされているサイコロでした。

「なるほど、確かに夢の中の話ではないみたいね」

姉はサイコロをつまむとおもむろにテーブルの上に転がしました。

目は六が出ました。

「ふふっ、懐かしいなあ」

姉と同様に私も子供の頃すごろくで遊んだことを思い出しました。

「あっ、お姉ちゃん、投げ方がしにがみお姉さんと同じだね」

同じ投げ方・・・確かに姉は三本の指でつまんで投げるある種独特な投げ方をしていました。

それを聞いた姉は何か気が付いたような表情をしました。

「ねえ、その死神お姉さんはいつも今みたいな投げ方をしているの?」

「うん、そうだよ」

「ちなみに今の時点で死神さんと純君はどっちがすごろくで先に進んでるのかな?」

「えっと、少しだけ僕がリードしてるかな」

そこまで話を聞いて姉は少し考えこみました。

「うん、それならもしかすると、何とかなるかも・・・」

姉は頷きながら呟きました。

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「あなたたちは何を言っているのかしら?」

私達はその後、うちの病院の事務長のもとを訪れました。

黒縁のメガネをかけ、スーツに身を包んだ山本事務長は呆れたように答えました。

「昨晩に死神と名乗る女の子が院内に侵入したですって」

鋭い視線が私達に突き刺さってきます。

事務長の山本女史は私達の他に目撃者はいないのか聞いてきましたが、夜勤のナースは意識混濁、警備室に確認した防犯ビデオは少女が侵入したと思われるその時間だけ画像が乱れて確認できなかったことを説明しました。

その報告を聞いて山本事務長は少しの間手を額にあって考えていましたが、やがて言葉を発しました。

「確かに何か起こっているのは間違いないようだけど、仮のその死神が本当に患者に接触していたとして、それはもうその患者の寿命ということで仕様がないんじゃない?」

身も蓋もありませんが、そう言われて私は少し考えてしまいました。

確かに死神が迎えに来ているのであれば、それはある意味運命であるかもしれないというのは一理あるように思えました。

しかし、姉の方は事務長の考えに対して明らかにいらつきながら言い返しました。

「自分の病院の患者が命を奪われようとしているのに、それを死神のかかわる運命とか言って放置するんだったら、あなたは今すぐ病院の事務長なんてやめるべきよ!」

「ぐっ!」

山本事務長は姉の言葉に苦虫を噛み潰したような顔になりました。

「・・・いいでしょう、そこまで言うんだったら対処しましょう、けど・・・」

事務長は姉の不敵な挑発を小憎らしい様子で見やっていましたが、再び考え込みました。

「警察に通報するにしても映像があるわけでも、実害が出たわけでもないし、ちょっと難しいわね」

私もその点は納得しました。

「病院の警備員をその患者の病室に張りつけるというのは?」

「最後の手段としては力づくもありだと思うけど、できれば穏便に済ませたいのよね」

姉は考え込みながら唸りました。

「穏便に・・・何か手があるの?」

「まあ、若干不確実な手ではあるんだけど・・・」

事務長の問いかけに姉はポケットからあの死神が忘れていった黒いサイコロを取り出し、ゆっくりと説明し始めました。

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病室にはピンと張りつめた緊張感が流れていました。

「あらあら、今日はお客様がいっぱいね」

病室に入ってきた少女と三メートルほどの距離を挟んで姉は睨み合いました。

流れるような長い金髪をフリルの髪飾りでまとめ、赤を基調としたドレスに身を包んだ少女がややはにかみを含んだ笑顔を振りまきました。

「しにがみお姉ちゃん、今日はこのお姉ちゃんたちも一緒にすごろくで遊びたいって」

「ふうん、なるほどねえ」

緊張感すらも楽しんでいるかのように死神少女は呟きました。

「すごろくに参加する人数が増えれば、私に勝つ確率も増えるってことかしら」

少女はくすくすと小さく笑いました。

「でも残念ね、このゲームは私達二人だけのもの、途中からは誰も参加できないわ」

私は少女の言葉にどっと冷や汗が噴出してきました。

私達もすごろくに参加するという方法は姉が色々考えている手段の一つでした。

「それとも力づくで止めてみるつもりかしら」

言葉と同時に膨大な圧迫感が少女を中心に渦を巻きました。

途端にまたしても強烈な睡魔が襲ってきました。

私は何とか気合を入れてその威圧を押し返しました。

隣にいた山本事務長は力なく倒れこみました。

「ええ、いいわよ、じゃあ、私達は横で見てるから」

姉も死神の力に影響を受けているはずでしたが、素知らぬふりをして話を続けました。

「あら、あなたたち二人はちょっと違うのね」

霊的な衝動に対する私達の耐性を見て少女は極上の笑みを浮かべました。

「それじゃ、お姉ちゃんさっそく始めようよ」

純君の掛け声でわずかに場の雰囲気が和らぎました。

少女はトランクを開いて折り畳み式のすごろくの盤を取り出しました。

開くと四角のマスが連なっているだけで文字も何もない簡素なつくりでしたが、そのマスの数だけは数百はありました。

「それじゃ、四歳の時からだったわね」

少女はマーキングされたマスのうえにそれぞれのコマを置きました。

最初に少女がサイコロを振りました。

純君が言っていたように少女のサイコロの振り方は三本の指でつまんで弧を描くように投げる独特のものでした。

目は四が出ました。

次に純君が普通に振ると三の目が出ました。

マスを進むと止まったマスから一条の光が現われます。

その光の中に薄暗い閉ざされた部屋が映し出されました。

その中に顔を腫れあがらせて壁にもたれかかっている一人の子供が確認できました。

見た目は驚くほど変わっていましたが、その顔はまさしく純君でした。

汚れの染み付いた粗末な服を身に着け、髪はぐしゃぐしゃに傷んでいます。

肌は黒く汚れ、顔に表情はなく目も虚ろでした。

その光景に私の身体はまるで自分のものではないかのようにぴくりとも動きませんでした。

顔を背けることも、目を閉じることもできません。

「ああ、なんだかいやだなあ、このころからママが僕をぶつようになったから」

「思い出したくない嫌な思い出がこれからは続くのね」

光が掻き消えると、少女は皮肉を込めて笑いました。

これが死神のすごろく、姉の言っていたとおりこのすごろくには死神の悪意が込められているようでした。

対象者は自分のこれまでの人生を走馬燈のように振り返り、迫ってくる死というコマに先にゴールされてしまうと、その先の人生には文字通り進めないのです。

「じゃあ、純君、次のサイコロはお姉ちゃんに振らせて」

姉が二人の間に割り込んで話し始めました。

「えっ、どうして?」

「お姉ちゃんなら、良い目を出すことができるから、見ててね」

そう言うと姉はサイコロをつまむと死神少女と同じような動作で投げました。

転がって出た目は一番大きな目の六でした。

姉は続けて何度もサイコロを転がしました。

出た目はすべて六でした。

「うわっ、お姉ちゃんすごい、どうなってるの?」

「ふふ、凄いでしょ、お姉ちゃんはサイコロを出したい目で止まるように転がすことができるの、純君もいっぱい練習すればできるわよ」

姉がこんな特技を持っているとは驚きでしたが、確かにサイコロで好きな目が出せるのなら、すごろくで負けることはありません。

しかし、次の瞬間私はある考えに至りました。

死神の少女が姉と同じサイコロの振り方をしていたということは・・・

私はその導き出される答えに息を呑みました。

「お姉ちゃん、すごいけど、すごろくでそんなことしたら、それはズルだよ」

純君は姉の方をまっすぐ見て叫びました。

姉は純君のその言葉を聞くとにっこり微笑みました。

「そうね、それはやっちゃいけないことよね」

その言葉は明らかに死神少女に向かって投げかけていました。

死神少女の方をちらりと見ると姉の言葉を無視するかのように黙り込んでいました。

しかし、一瞬の空白の後、少女は諦めたような表情を見せました。

「・・・参ったわね」

氷のように冷ややかな声が部屋の中に響きました。

「降参・・・私の負けよ」

少女は寂しげにつぶやきました。

その言葉は少女がサイコロの目を操作していたことを認めたものでした。

「えっ、おねえちゃん、どういうこと」

少女が純君の方を見て表情をゆるめました。

「ごめんね、お姉ちゃん、ズルしてたんだ」

少女が微笑みました。

「だから、そのお詫びね」

少女はぐいっと純君の体を抱き寄せました。

「え、え?」

突然の行動に純君はうろたえました。

少女は自分の胸に純君の頭をうずめさせました。

純君の顔は赤く染まって、その心臓の音が聞こえてくるようでした。

そして、少女は純君の顔を胸から離すと今度はその表情を覗き込みました。

左右で色の異なる深い赤と緑の瞳が少年の顔を映し出しています。

まるで純君が瞳の中に閉じ込められたようでした。

少女のまなざしに純君は完全にくらめいているようでした。

「あなたは死の運命を乗り越えた、だからこれからも頑張って生きるのよ」

少年の顔の方が少し低い位置にあったので、少女は少しくちびるの位置を調節するように顔を近づけると、少年の頬に軽くキスをしました。

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静かな暗い廊下、私と姉、そして死神の少女は純君を部屋に残して廊下に出ていました。

「それにしてもお姉ちゃん、どうしてサイコロを操作してると思ったの?」

姉はちらりと少女の方を見てから話し始めました。

「まあ、この人生すごろくの趣旨を考えると・・・必然そうなるのよね」

「どういうこと?」

「このすごろくは対象者の狼狽ぶりを見てあなたが楽しむものでしょ」

少女は姉の指摘に苦笑しました。

「そうね、落伍者の転落人生を再確認させて、その後悔と死への恐怖を見て楽しむのが醍醐味ね」

「でも、それを見るにはすごろくに勝つのはもちろんある程度進行が拮抗していないといけないのよね」

姉の言うことを頭の中で考えてみましたが、確かに大人数で競うのではなく二人きりですごろくをするのであれば、あまりにその進行に差が開いてしまっては緊張感が薄れてしまうことはありそうでした。

「だから、サイコロの目は操作することがこのゲームの前提になるかなと思ったのよ」

死神少女は姉の顔を見ないまま口を開きました。

「まあ、今回は途中からどうにもやる気が失せちゃったからね」

「なんであの少年の命を狙ったの?」

「・・・売ってたのよ」

少女は低くため息をつきました。

「正確には多重債務者だった彼の母親が売りに出されてたんだけど、その母親が自分の代わりに子供の命をあげるっていうものだから」

自分の子供を捨てた純君の母親はさらに自分の子供の命を死神に売っていたのでした。

「心配しなくても、母親の方も解放するわよ、あの子は母親の運命も救ったのだから」

その時、純君が病室の外に出てきました。

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「お姉ちゃん、今度はいつ来るの、僕の魂はあげられなかったけど、何か欲しいものある?」

微笑みながら見つめている少年に向かって、死神少女が口を開いたのはしばらく経ってからでした。

「But now I hope・・・」

少女はぽつりと呟きました。

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「I scream for your soul scream!」

死神少女は純君に言葉の意味を気付かれたくないのか、もしくは地が出てしまったのか、英語で姉に向かって吐き捨てました。

そして、その言葉には多少姉に対する感傷の色が混ざっているように感じました。

「えっ、お姉ちゃん、なんて言ったの?」

純君は少女の言葉の意味が分からず問い返しました。

「・・・アイスクリームとソフトクリームがいいんだって」

「・・・ふん」

私のごまかしに対する少女の見下すような笑み、その瞳の奥にある凶暴な光にあらためて私の中の恐怖心が刺激されました。

そして、死神はちらりと姉の方を見やりました。

「まあ、あなたとはまた近いうちに会いましょう、ね」

少女は意味ありげな笑みを浮かべました。

「うん?」

死神の言葉に姉は軽く首をひねりました。

「それでは、ごきげんよう」

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別れの言葉が告げられると紫の花びらの渦が少女の周りから湧き起こりました。

花びらの渦が消えた後、そこにいたはずの少女の姿はどこにもありませんでした。

代わりに入れ替わった甘い蠱惑的な花の香りだけが静かに拡がっていきました。

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死神少女は消えたあと、姉は携帯電話を取り出してどこかに電話をし始めました。

内容を聞いていると、どこかに待機させていた別の人間に事件が終わったことを告げているようでした。

「はあ、押し引き織り交ぜて色々な手を考えてたけど、一番穏便なところで片付いてよかったよ」

姉は両手をあげて背伸びをしながら、初めて笑って見せました。

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姉は心霊事件が解決したとき、いつも本当にうれしそうな表情を見せました。

その表情を見てしまうと、不安な思いは残りながらも私はつられて笑うふりをしないわけにはいきませんでした。

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