中編7
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二匹の鬼〜暴〜

圧倒的力の前に、成す術もなく、瀕死状態の紫水さん。

叔父さんが語った話を思い出し、少しの期待とそれを上回る不安を抱える僕。

そんな中、瀕死の紫水さんが微笑んだ。

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紫水さんが微笑んでいる?

この状況で?!

両腕から血を流し、足元も覚束ない様子の紫水さん。

今にも倒れてしまいそうだ…。

だが、その目はしっかりと鬼を見据え、その表情には笑みさえ浮かべている。

鬼はそんな紫水さんにお構い無く、ゆっくりと間合いを詰めて行く。

紫水さんはその場から動かない。

僕は正直、今すぐにでもここから逃げ出したかった。

このままここに留まれば、紫水さんの死をこの目で見てしまうかも知れない…。

だが、叔父さんの言葉に少し…ほんの少しの期待を持ち、僕は何とかこの場に留まっている。

紫水さん…。

僕は瀕死の紫水さんをじっと見つめた。

??

紫水さんが何かを言っている?

ゾクっ!

ボソボソと何かを呟く紫水さんに気付いた時、僕の体に悪寒が走った。

辺りの空気が張り詰め、一気に気温が下がっていく感覚がする。

気付けば、僕の体は小刻みに震え、歯はガタガタと音を立てている。

紫水「お…前か?

お前…か…?」

そう呟く紫水さん。

その顔からは笑顔が消え、怒りに満ちた憤怒の表情へと姿を変えている。

自らの下唇を噛み締め、血が滴り落ちる口元。

目は血走り、今にも食らいつきそうな程。

こ…これが紫水さん?

僕はこの時になり、この体の震えが気温の低下によるものでは無いと悟った。

そう…僕は目の前にいる紫水という男に恐怖していたのだ。

僕の全細胞がこの男を拒絶していた。

だが、相変わらず鬼は紫水さんとの間合いを詰めて行く。

そして紫水さんとの距離が5m程になった時、鬼はゆっくりとその体制を低くした。

そして次の瞬間、鬼は地面を蹴り一気に紫水さんに飛び掛かった。

僕「紫水さん!!」

僕は思わず叫んでいた。

しかし、僕が叫び出す頃には、鬼は紫水さんの首にその爪をかけようとしていた。

バキッ!!

鈍い音が辺りに響く…。

僕「あ…あぁ…し…紫水さん…」

僕は泣いていた。

今までの不安が一気に吹き出し、僕の両目から涙が溢れる。

だが…。

その涙は悲しみによるものでは無く、歓喜によるものだった。

鬼の爪が紫水さんの首に触れる刹那、紫水さんは足で鬼を蹴り上げたのだ。

紫水さんに蹴り上げられた鬼は放物線を描き、後方へ飛ばされた。

紫水さんは相変わらず、その場に佇みブツブツと呟いていた。

そして…。

紫水「お前…か?

お前か?

お前かぁ!!!!」

今まで呟くだけだった紫水さんが、突如叫んだかと思うと、動かない両腕をダラリと下げたまま、鬼へと疾走した。

鬼との距離が縮まると、紫水さんは地面を蹴り高く舞い上がる。

そしてそのまま鬼の側頭部に蹴りを叩きつける。

バランスを崩す鬼に対し、追い討ちをかけるかの様な蹴りの乱打を浴びせ続ける。

立ち上がろうとする鬼に、何度も、何度も、何度も…。

僕は、紫水さんが反撃に出た事が本当に嬉しかった。

嬉しかった…。

でも…。

今、僕の目の前にいる紫水さんが怖い…。

葵「カイさん?

あれは本当に紫水さんなのでしょうか…?

私の目には、鬼が二匹いる様に思えてなりません…。」

鬼?

紫水さんが鬼?

そんな筈はない!

と、否定したかったが…。

今、僕達の目の前にいる紫水さんは、正に鬼…。

憤怒の表情を浮かべたまま、鬼を蹴り続けるあの姿…。

これが紫水さんの本気なのか?

怒りで理性を失い、目の前の相手を力でねじ伏せる…。

僕はこの時、何故か悲しい気持ちになっていた。

これじゃ…これじゃ子供の喧嘩と一緒じゃないか!

僕「紫水さん!

もう…もう止めて下さい!!」

僕は力の限り叫んだ。

これ以上、鬼になって行く紫水さんを見たくは無かったから。

葵「カイさん…。」

僕の叫び声を聞いた紫水さんがゆっくりとこっちを見た。

そしてその顔を今度はゆっくりと上へ向け空を仰いだ。

そのまま紫水さんは僕達にも聞こえる程の大きな深呼吸を一つ。

そしてまたこちらへ向き直る。

紫水「いやぁ…。

申し訳ありません(笑)

危うく力に呑まれる所でした(笑)」

?!

いつもの紫水さんに戻っている?!

そこに居たのはいつもの様に穏やかな表情の紫水さん。

だが、空気が張り詰めた感じは変わっていない。

紫水「カイさん。

有り難うございます(笑)」

やっぱりいつもの紫水さんだ。

僕「紫水さん!

元に戻って…」

?!

僕が話し出したと同時に鬼が立ち上がり、紫水さんへと飛び掛かった。

紫水さんはもうさっきの紫水さんじゃない!

いつもの紫水さんに戻っている!

それじゃ…鬼には勝てない…?

紫水さんと鬼との距離はもう殆ど無い。

駄目だ!

紫水さんがやられる!

僕がそう思った時、紫水さんが片足で地面に何かを描き、そして強く踏み込んだ。

ピッシャ―!

一瞬。

本当に一瞬だった。

紫水さんが地面を踏み込んだ直後、雷が鬼を直撃した。

肉の焼け焦げた匂いが辺りを包む。

崩れ落ちて行く真っ黒に焼け焦げた鬼。

葵「流石です…。

先程まで呑まれかけていた、有り余る力を見事に自分の物に…。

やはりあの方は素晴らしい…。」

僕達の方へとゆっくり向かって来る紫水さん。

僕も紫水さんに近付き手を貸そうとしたその時。

崩れ落ちた筈の鬼が再びその体を起こし、もの凄い勢いで突進して来た。

それも…僕に向かって…。

余りの恐怖に、動く事も声を出す事も出来ない僕。

鬼は一瞬で僕の眼前まで詰めよって来た。

死ぬ…。

僕はそう感じた。

紫水「それは…。

それは本当に笑えませんよ?」

気が付くと紫水さんが鬼の顔を手で掴んでいた。

鬼の顔を掴む紫水さんの腕からは血が滴り落ちている。

だが、紫水さんはそんな事をお構いなしに、鬼の顔を掴んだままこう言った。

紫水「また私を怒らせたいのですか?

私を…鬼にしたいのですか?」

紫水さんがそう言うと、鬼の体が炎に包まれた。

黒煙を上げ鬼は燃え尽きて行く。

す…凄い…。

葵「やりましたね(笑)

しかし、あなたが暴走し始めた時は少しヒヤッとしましたよ。

あなたがあのままなら、私があなたを止めるしかありませんからね?(笑)」

紫水「お恥ずかしい所を見られてしまいましたね…。」

僕は色々な事が頭で整理出来ず、言葉が出て来ない。

トメ「ふん!

二人共、とりあえず腕試しは合格じゃな。

じゃが…。

葵、紫水…。

お主らまだ何かを隠しておるな?」

紫水「隠すだなんて滅相もありませんよ(笑)

今のが私の全てです。」

葵「私も同じです。

今、あなたが見た物が私の全て。」

トメ「ふん!

何が全てじゃ!

なら聞くが葵よ?

お主、化け物を闇に墜とす術なぞ誰から教わった?

あれは人に教わって出来る様な物では無い。

そもそも術ですらないじゃろが!

紫水!

お主がどれ程の術者であろうが、生身の人間に打撃で鬼に傷を負わせる様な真似が出来るか!

それに雷と炎、異なる性質の二つの術をいとも容易く使いおって!」

紫水「………。」

葵「…………。」

僕はサクラさんが言っている事が、何故か妙に納得出来た。

今回の戦いで、この二人の底知れぬ力と内に秘める闇を僕は感じていた。

トメ「まぁええわ!

それよりまずはその傷の手当てが先じゃ!」

そういうとサクラさんは山を降りていく。

僕達もサクラさんの後に続き、家へと戻って行く。

家に辿り着くとサクラさんが二人に言う。

トメ「ほれ!

お主ら服を脱げ!」

紫水「ふ、服をですか…。」

葵「これ位、放っておけば自然と治りますよ。」

トメ「ほぉ…。

お主ら、アタシの言うことが聞けんのかえ?」

パァ―ン!

不意にサクラさんが手を打つ。

ゆっくりと上がって行く二人の腕。

紫水「さ、サクラさん?!」

葵「くっ…。

解けない…。」

トメ「解けんじゃろ?(笑)

ちょいと強めに掛けたからの(笑)

手当てが終わるまで大人しくしとくんだよ!」

しかしこのサクラと言う老婆は…。

あの二人をいとも簡単に…。

サクラさんは二人の手当てをしながら、僕達が探す術者の話をしてくれた。

孫であり弟子でもある匠さんの事。

そして蛍と言う少女の末路まで…。

僕達三人はただ黙ってサクラさんの話を聞いていた。

トメ「さぁ。

手当ても話しもこれで終わりじゃ。

お主らの探しておる匠は、ここに来る様、アタシが手配してやる。

今はゆっくりと体を休める事じゃ。」

そういうとサクラさんは奥へと下がって行った。

僕「サクラさんの話を聞くと、匠さん?でしたっけ?

その人は悪い人じゃ無さそうですね?」

紫水「えぇ…。

確かにその方はまともな理性の持ち主の様です。」

葵「ですが、問題はその術者では無く、その体に宿すモノ…。」

紫水「そうですね…。

神が二体…ですか…。」

それきり二人は黙りこんでしまった。

僕には想像も出来ないが、神と呼ばれる存在と戦う事が決して容易でない事は分かる。

それも二体も…。

僕「と、とりあえずサクラさんの言うように、今はその体の傷を治す事に専念しましょう!」

紫水「そうですね(笑)」

葵「…。」

こうして僕達は、匠と言う術者が訪れるまでサクラさんのお世話になる事になった。

だが…この時、僕達はおろかサクラさんでさえ、二体の神。というモノを理性出来てはいなかった。

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珍味様。

まだ読んでくれてたんですね?!Σ(゜Д゜)
すいません…無駄に長いばっかりに…。
無駄なお時間を使わせてしまいまして…。

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吉井様。

コメントありがとうございます!
次はもう暫くお待ち下さいm(__)m

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むぅ様。

破壊神…。
いい響きやぁ〜(笑)
幾つになってもこういう子供じみた言葉が大好きな僕が話を考えるとどうしてもそっち寄りになってしまいます(笑)
くだらないと言われればそれまでの駄作ですが(笑)
いや!これはあくまで自己満足作品!
とことん行っちゃいます!(笑)

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mami様。

懐かしいですねぇ(笑)
個人的には雷禅が大好きです!
右京さんの思考も大好きでした(笑)
て…そんな名作とこの様な駄作をダブらせてはファンの皆様からお叱りを受けますよ?!Σ(゜Д゜)

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セレ―ノ様。

また鬼出た!?Σ(゜Д゜)
もしやあなたが闇に巣くう者?!Σ(゜Д゜)

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月舟様。

ご安心下さい!

これで完結です!(笑)

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