「あなたは生きていますか?」

中編4
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「あなたは生きていますか?」

この話は私の一生の思い出、実ることはなく枯れていくだけの恋の話。

誰にも話すことはなく墓場まで持っていくと決めていました。

しかし5年経った今、一つの区切りと思い投稿します。長くなるため少しずつ思い出しながら書いていきます。ご了承ください。

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19歳の冬、1週間後に誕生日を控えていた私は

鉄格子の中にいた。

若さ故の誤ち、知人を傷つけてしまったからだ。

罪名は傷害、強盗致傷、恐喝未遂、、、

それまで色々悪さはしていたが警察のお世話になるのは初めてだった。

生きてることに何の希望も持たない私は反省もしてなければむしろだらけた生活ができるとも思っていた。

毎日事情聴取と本を読むだけの生活。

20日の拘留の中で誕生日を迎え審判は鑑別所への送致

ここまでは想定していた。

入監してから何のいわくか、毎晩おかしな夢を見た。

追う夢、追われる夢。殺す夢、殺される夢。笑い合う夢。

泣く夢、泣かれる夢。

他にも日常的なシチュエーションの夢をみるが

いずれにしても相手は見ず知らずの女性。

初めは怖かったものの毎晩出てくるものだから

「あ、これは夢だな」と自覚できた時には

話しかけたり手を握ったりしてみた。

予想はしていたが反応はない。しかし

触れられる、ということに何故か安心感を覚えていた。

そして約1ヶ月の鑑別所生活も終わり審判の日。

親や兄弟が面会に来てくれていたことから

少しドキドキしていた。罪が罪。少年院を覚悟していたが判決は保護観察処分。

この時なぜか私は、泣いていた。

そして時間は正午過ぎ。

およそ2ヶ月ぶりの家は落ち着かなく

綺麗に整頓された自室から母の愛情を感じた。

そして部屋の隅に盛り塩と窓の傍に見覚えのない木彫りの像。

母に尋ねると

「優(仮)が捕まる前の日から優の部屋から女の泣く声が聞こえてたから。効果はあるかわからないけど」

何故かこの時私は

(あ、あの子。)

と確信していた。夢に出てきていた子だ。

捕まる前の日は悪友と夜遊びに出ていた。

あの子は予知していたのか、警告していたのか…

というより誰なんだ、あの子は。

だが心当たりがない訳ではない。

その当時、する事がなければ悪友達と数々の心霊スポットに行っていた。

捕まったのは山梨県某所にある有名な淵に行った2日後。もちろんそこでは特に何もなくひたすらに怖い雰囲気だけを楽しんでいた。

(あそこから連れて帰ってきたのか…?)

余計な心配をかけたくなかった為母には

「そっか、ありがと」とだけ言いその日は溜まったメールボックスの返信と

久々の落ち着かない実家でのんびり過ごした。

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そしてごろごろしているうちに昼寝をしてしまっていた。

夢を見た。

目の前には橋、かけられたこの橋の向こう岸に人影がある。

(あの子か…)

距離にして15mほど。

妙に現実的で妙に非現実的なその存在は心做しか微笑んでる様に思えた。

(お礼…言った方がいいのか?)

夢の中でそう思う事自体現実的だなと思っていた。

そして歩みを進めた時、その子も同じように歩みを進める。

そして丁度橋の中間、目の前にはいつもと変わらないその子。

大きめの黒のTシャツ1枚だけの普通の子。年齢は同い年くらいか…年下か?

と、そこで気付く。

(まて、仮にこの子があの淵の霊(?)なのだとしたら

こんな現代的な顔つきで現代的な黒のTシャツ着るか?)

思想がまとまらない内にその子が私の手を取り初めて言葉を口にする。

「あなたは生きていますか?」

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そこで糸が切れたように目を覚ます。

(あぁ、そういや夢だったな)

寝ていた事すら忘れるくらい現実的な夢。

今本当の現実と相まって違う次元にいるのでは?

と混乱、錯覚させるくらいの夢。

(こんなはっきり覚えてるのは初めてだな…)

異常に喉が乾いていた為冷蔵庫にいき飲み物を取る。家族はみんな出てるみたいだな。と、冷蔵庫を閉めた瞬間。横にその子が立っていた。

(…?)

またしても頭の中が混乱し自分の中の常識が音を立てて崩れた。

(?夢…?でもさっき目覚めたよな?)

その子は私が手に取ったウィルキン〇ンの炭酸水を見つめている。

「…飲む?」

なにを言ってるんだと自分にツッコミを入れようとした時その子は

「うん」

と、か細く言った。

まさか自分が霊(現時点で未確信)と会話するなんて。

霊は嫌いだ。アイツらは人を驚かすのを生き甲斐(死んでるけど)にしている。こっちが1人の時、暗い場所で脅かしてきやがる。霊は嫌いだ。

しかし夢で毎日会っていた為か恐怖心は全くなく

「ちょっと待ってね」

と言いコップに注ぐ。そして部屋に持っていき手渡す。ちゃんと着いてくるのな。

これでこの子が何者なのかわかる。

往年の霊のイメージ通りならコップはすり抜けて持てず床にガシャンだ。

「はい。」

「ありがとう」

…普通に飲んでるな。透明のコップにも唇の跡がしっかりついていた。何者なんだこの子…この女は。

向かいの布団に正座して俯いているその子もといその女に質問をする。

「あなたは誰なの?」

「」

相変わらず俯いたまま

シカト?聞こえなかっただけ?

「あなたは誰ですか?」

語尾を強めて再度聞いてみる

「」

怪しい。怪しすぎる。とゆうかこの状況…わけわからん。

「ま、いいや。しばらくゆっくりしてもいいけどちゃんと帰りなよ。親心配するからな。」

と、ついさっきまで心配かけまくっていた自分を棚に上げて言ってみる。

「わからない」

「え?」

「わからない」

何がわからないんだ?

「帰り道がわからないの?」

「」

なんだろうこの切ない表情。今にも泣きそうな表情だな。

その時何故かあの夢での質問を思い出した。

(あなたは生きていますか?)

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「…俺は生きてるよ」

と言うとその子が俺の方に顔を向けた。

夢の時と同じよう微笑んでいた。

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続く

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