短編2
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僕は、都内でサラリーマンをしている。

会社は超高層ビルの高層階にあり、

清潔感の漂う、いかにも東京らしいオフィスだ。

北海道の田舎から出てきた僕にとって、こんな職場で仕事ができるということは、一番の誇りだった。

おかげで、仕事の業績も好調で、上司や同僚からも熱い期待を寄せられていた。

そう、あの日が来るまでは…。

いつものようにオフィスで仕事をしていたある日、ひと区切りついたので、外の眺めを見ようと窓に近づいた、そのときだった。

僕は、見てしまったのだ。

目の前を、人間が真っ逆さまに落ちていくのを…。

そして、ほんの一瞬、だが、ハッキリと…合ってしまったのだ。

その自殺者の目と、僕の目が…。

自殺者は当然即死。

地上では大騒ぎになっているのはわかったが、ここは東京だ。

翌日には、何事もなかったかのように、人間の群れが行き交っていた。

オフィス内での、自殺者に関する噂話も、いつしか消えていった。

しかし、僕はひとり、違っていた。

あの日、あの時、あの一瞬以来、他人と目を合わせることができなくなってしまったのだ。

誰かと目が合うと、鮮明に甦ってくるのだ。

深くよどみ、目に映るもの全てを怨むような、狂気に満ちた、あの目を…。

そのせいで、まともに仕事ができなくなり、業績はガタ落ち。

みんなあんなに僕のことを期待してくれていたのに、今では毎日、冷たい視線が突き刺さるのがわかる。

もう、こんな日々には耐えられない。

気付くと、僕の足は、屋上へと続く非常階段を一歩、また一歩と上っていた。

そして、躊躇することなくフェンスに足をかけ、宙に身体をあずけた。

落ちていくあいだ、この東京にある全てのものが、憎く思えた。

この憎しみが連鎖を生み、道連れに多くの都民の命を奪えたら、とさえ思った。

落ちているあいだのほんの一瞬、ビル内にいたひとりの青年と目があった。

あの頃の僕のような目をしていた…。

Concrete
コメント怖い
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見事な起承転・・・結に成らずループ。全く無駄なく洗練されたお話!これぞ短編だと思いました!

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古い投稿ですが、怖ポチありがとうございますm(__)m
ですが、自宅wifiタブレットなので、最初の二人分しか表示されなくて、きちんとお礼ができずごめんなさい(+_+)
久々に購読が二人増えていたので、そのどちらかの方かな?

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とっつ殿、やはりそうでしたか( 'ω' ;)
このサイトで怖いを押した話は大体覚えております。
自分は好きな作品にしか怖いは押しません。
まぁ、あり過ぎて沢山押してますが( ^ω^ ;)
なので、改めて押しに参りましたm(_ _)m
この作品と同じ物はこのサイト内の何処かに眠ってますよ、自分は新作読んだ後はランダムで読み漁っております故(๑¯ω¯๑)

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むぅさん、コメントありがとうございます。
過去作品は全て「ホラーテラー」 というサイトに投稿したものです。
「ホラーテラー」以外に新作を投稿したことは一度もありません。
サイトは、とうの昔に荒らしによって壊滅しましたが…。
実はつい先日まで私も知らなかったのですが、私の作品も知らないうちに、このサイトにコピペされてしまっていたようです。
むぅさんが目にされたには、このサイトにあったコピペかもしれませんね。
再投稿の理由はいくつかありますが、このサイトのシステムが、作品をまとめておくのに、とても都合がいいというのが、最大の理由です。
投稿後も自分で校正や削除ができるし、評価システムも優秀だし、なにより投稿者の質と量が素晴らしく、再び創作意欲を沸き起こしてくれますし…。
「ホラーテラー」に投稿していたときは、気分によって投稿者名を変えていたので、もしかしたら「コレとコレ、作者が同じなの?」とビックリされる方もいるかもしれません。
とりあえず、新参者として自己紹介がわりに過去作品を投稿している最中でございます。
それにしても、こんなショートショートを覚えてくださっていたとは光栄です。
過去作品はまだあるので、もう少し投稿を続けさせていただきたいと思っています。

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いもさん、コメントありがとうございます。
飛び降り自殺はループする、みたいな都市伝説になればいいなと思って書いたものです。

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これは面白いですね。

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