長編9
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異酒屋話―居場所―

私の記憶にあるのはいつも私を大切にしてくれていたあの子の笑顔

私にとって大切な親友

私は高名な人形作家の作としてこの世に生まれた。

作家が孫娘のためにと心を込めて作ってくれた。

だけど、心ない人間が私の価値を知り、あの子のもとから盗み出した。

そして売られ、各地を転々とするようになった。

いつしか私は自我を持った。

今いるこの国では時を経た“物”は[九十九神]と呼ばれる“モノ”になると言われている。

また、人形には魂が宿ると言われている。

私もそういうモノになってしまったのだろうか…?

自我を持った人形なんて気持ちが悪い。

私自身そう思う、だから私は“ただの人形”であり続けた。そう演じていた。

だけど、人間とは妙なもの。私への違和感を抱き、また私は色々なところを転々とした。

寂しさからか電話をかけてみたこともある。

皆悲鳴をあげて逃げた…何もしないのに…

ただ…誰かの側にいたかっただけなのに…

私、メリー…居場所がないの…

――――――――――――――――――――

【貴女、こんなところで何しているの?】

路地裏を歩いていたら変な道に迷い混んでしまいどうしようもなく座り込んでいた私に話しかけてきた話しかけてきた…人形?

《…貴女、人形ですか?》

【こっちの質問は流すのね…そうよ?私は人形。貴女もでしょ?人形に人形?って聞かれたのは始めてだわ】

そう言い彼女はクスリと笑った。

赤い着物に綺麗な黒い髪、そして大きな目。

日本人形ってもっと小さく細い目じゃなかったかな?

と、彼女の目を見ていると。

【私の目が気になる?まぁ、こんなとこで話すのもなんだから一緒に来ない?よく行く居酒屋があるの】

《居酒屋?》

【居酒屋わからない?】

《居酒屋はわかりますけど…》

人形が居酒屋に行く?

どういうこと?考えても何もわからず

《行きます》

そう答えていた。

彼女の後ろについて歩いていくと

赤い提灯をぶら下げたお店にたどり着いた。

【ここよ。】

彼女はドアを開け、店に入るようにと私を促した。

《お邪魔します…》

「いらっしゃいませ~」

と、白い着物で袖口にいくに連れ薄い藍色へとグラデーションしている着物を着た綺麗な女性がカウンターの奥に立っていた。

【こんばんわ、春】

「花火ちゃん、いらっしゃい。お友だち?」

【ん~、さっきそこで会ったの。迷ってるみたいだったから。】

「そうなんだ~、はじめまして。この店の店主をしている春と申します。」

人形の私たちに驚いていない?

《はじめまして…》

「お座りください♪」

【私はビールね】

と先に腰をかけていた彼女が注文し、私はその隣に腰を下ろした。

【名乗ってなかったわね。私は日本人形の“花火”貴女は?】

《私は、メリーです…》

「そう。貴女メリーさんなんですか♪」

ジョッキに入れられたビールを持ってきた春さんも聞いていた。

【あの…驚かないんですか?人形がお店にくるとか、ビールを飲むとか…】

「え?」

春さんは口を開けて驚いている。

まさか…人形だと気づいていなかった?

【…春は人じゃないのよ?】

《え?》

今度は私が驚いた。

どこからどう見ても人でしかない…はず

【メリー…私たちみたいな自分と同じ“モノ”に出会うのははじめてなの?さっきも私を見て人形?って聞いてたくらいだし。】

「私は、雪女なんです。所謂、妖怪ですね」

《妖怪…》

【珍しい?人形が動いてるんだから妖怪がいても不思議じゃないでしょ?】

《そう言われてみればそうですけね…》

と、話していると

『やっほーい、春~ビールとスナズリ!って…あれ?ちっちゃいのが増えてる!』

…お…大きい…

『フランス人形さんかな?…あ~、貴女メリーさんか何か?』

《あ…はい》

【ダメよ、小鳥?。怖がらせちゃ。】

『なによ?私が242.4cmあるから怖いっていうの?身長差別だわ』

【最近そのフレーズ好きよね。マイブーム?】

言い合ってるように見えるが凄く仲が良いのも伝わってくる。

正直羨ましいと思う。

《貴女は…?》

『自己紹介がまだだったわね。私は八尺様の小鳥よろしね!』

そう言って彼女は手を差し出してきた

《よろしくお願いいたします。私はメリーです。》

差し出された手を握り返した。

とても、温かかった。

久しぶりに他者の温もりを感じた。

――――――――――――――――――――

相手が自分と同種のモノだったからだろうか

今までの出来事、ここにいる経緯を改めて3人に話した。

【それで、貴女はどうしたいの?どうありたいの?】

《私は…》

そう、これが一番重要なことなのはわかっていた。

だけど、どうしたら良いかわからず考えないようにしていた。

【幸い、私たちに時間は沢山ある。急いで決める必要はないけど、何かあるの?】

《私は…やっぱり人の側にいたい。》

【ふふっ。そうよね。私と貴女は“人形”人の側にあることを目的として生まれたモノだものね。

気持ちはわかるわ。

貴女もわかってることでしょうけど、私たちみたいなのを受け入れてくれる人、貴女が側にいたいと思う相手をちゃんと見つけないとね。】

《はい。》

それから、私ははじめてお酒を飲んだせいか睡魔に襲われ、眠ってしまった。

夢か現実かわからない中、会話が聞こえた。

『花火、あんたが初対面の相手にあそこまで興味を持つって珍しいわね~』

【そう?でも、なんかほっとけなくて。それと少し羨ましくて】

「羨ましい?」

【ええ。あの子は私が辞めたこと、諦めたことを…“人の側にいる”ことを叶えたいと今も願っているから。応援したい、行く末を見てみたいと思ったの。】

『…なるほどね』

――――――――――――――――――――

それから私は街中をフラフラと歩いていると一人の女性が目に入った

というより、気になったという方が正しいだろうか

何となく、この人なら

と、そう思った。

数日観察してわかったことだけど

彼女は大学生らしい。

普段は女友達と一緒にいるが、その日の講義が終るとよく同じ大学の学生の男の人と一緒にいる。

少し長めの髪の男の人。

彼が喫煙所で煙草を吸っているところにやってくる。

『おーい』

「汀、何。俺の授業時間把握してるの?」

『何となく把握してるくらいかな?』

彼氏だろうか?

それにしては少しそっけない感じ。

でも、彼女は気にしてないようで

彼の隣について喫茶店に行ったりしている。

どうしてか、彼は何となく他の人とは違う何かを感じた。

どこか、異質なものを持っているような。

異質な私が言うのもなんだけど。

一緒にいるがイチャつくような感じはなく

彼女、汀さんが話すことに相槌を打ったり

彼が話を振ったりと健全な関係?なようだ。

――――――――――――――――――――

【それで、どうするの?】

春さんのお店で話を聞いてもらっていた。

『メールかアプリのあれ使ってみたら~?』

「電話じゃなくて?」

『だって、電話だと出てくれないでしょ?それだと用件伝えられないし』

「留守電に入れたら?」

『聞かずに消されるかもしれないじゃん?でも、メールとかなら消すにしても、消すとき内容目に入るでしょ?

目を瞑って操作するような相手なら止めといた方が良いってことで』

「なるほど~」

私は携帯を手に入れたのだ。

こうしてせっかくできた友人と連絡とるときに便利だと思ったから。

【メッセージ…送ってみます!】

“私メリー

今公園にいるの”

実際は居酒屋にいるけど

【あとは返事を待つだけね】

《うん…》

待ってはみたけども、その日に返事が来ることはなかった

――――――――――――――――――――

数日後の夜

“どこの公園?”

返事が来た!

すぐに私は花火さんや春さん、小鳥さんに連絡をし居酒屋に集まることになった。

『とりあえずよかったじゃん』

《なんて返事しましょう…》

【あの大学の近くにA公園ってあったよね?】

「そこにしよう」

《はい》

“私メリー

A公園にいるわ”

少し経ってからまた返事がきた

“A公園になんていないで、うちに来なさい。”

『この子度胸があるのね~、自分で家に招待するなんて』

《…私、行ってきます》

不安を抱えながらも行くことにした。

私の不安を感じてか花火さんも近くまでついてきてくれることになった。

………………

……

この部屋だ…

“私、メリー

今あなたの家の前にいるの”

すぐに返事がきた

“入っておいで”

花火さんは私に向かって頷いた。

ガチャ…

廊下の先から光が漏れている

キーっ…

「いらっしゃい」

そこには汀さんと一緒にいた、彼もいた。

《お招きありがとう》

小さくお辞儀をした。

『どうして私だったの?!』

汀さんは開口一番そう尋ねてきた。

当然の理由だと思う。

だから、私は正直に

《あなたを選んだのはたまたまなのよ?あなたが目についただけ。》

正直に答えた。

隣にいた彼が口を開き

「そもそも、人とともに過ごす人形は人を殺したりはしない。人を殺すために作られたものじゃないからな。

…さて、メリーさん。彼女は君が怖い。それは仕方がないと割りきってくれ。」

私が来る前に汀さんとなにかを話していたのだろう

《はい…》

私は人と一緒いるために作られた。人を殺したりなんかしない。

したくもない。

しかし、汀さんを怖がらせた。これは事実…

私はどうしたらいいのだろう…

すると、彼が小さくため息をついたように見えた。

「人形を壊すってのは、いい気がしない。だから、メリーさん、うちに来るか?」

《え?!》

想像もしていなかった言葉に驚き言葉を失った。

「居場所がないってのは…辛いからな。」

そして、ガサゴソと後ろにあった段ボールを開き、中からなにかを取り出した。

ドールハウスだ

「きみはもう一人じゃない。

もとの持ち主じゃなくて寂しいかもしれないが、

俺がいる。」

人にそんなことを言われたのはいつ以来だろうか…。

懐かしい昔の記憶思い出すと温かい気持ちになり身体が軽くなった。

そして私はドールハウスへ吸い込まれるように入った。

「いらっしゃい。メリーさん」

彼は小さく、私へ語りかけた。

「さ、これでおしまいだ。」

『え?!メリーさんは?!』

「見てたろ?この中だ」

ドールハウスの中で会話を聞いていた。

「子供は成長し、いつしか人形を忘れてしまう。人形自身も覚悟はしてただろうけど、やっぱり寂しかったのさ。汀は人形とかぬいぐるみ好きだろ?ホントに偶然で偶々、そんな汀を相手にメリーさんが憑いたのさ。

…居場所がないなら、作ってやればいい。迎えてやればいい。ただ、それだけだ。」

彼の言った通り…私はただ居場所が欲しかった。

彼は私の気持ちを見透かしているようだった。

「んじゃぁ、これ。よろしく。」

彼は汀さんに何かを渡したようだ。

そして彼はドールハウスを持ち部屋から出た、少し先の塀の上に腰かけていた花火さんが目にはいると、彼女は私に向かって笑顔で小さく頷いた。

【よかったわね】

そう言っているようだった。

――――――――――――――――――――

彼の家へと向かう車内、助手席にドールハウスを置いた。

「汀にはああ言ったけど、実際のところはどうして彼女だったんだ?」

《本当にたまたまです。なぜか、汀さんがよかったんです。惹かれたんです》

「そうか、やっぱりあいつは引寄せるんだな」

彼は少し笑っていた。

「男の独り暮らしだからキレイさには期待するなよ?」

《はい!》

これから、今までと違う毎日がやってくる。

そう思うと心が弾んだ。

――――――――――――――――――――

その後、

居酒屋で今日の話をすると

「よかったね、メリーさん。いや、メリーちゃん♪」

『めでたいね!めでたい日は飲まないと!』

【貴女は毎日飲んでるじゃない】

『今日はいつも以上に飲むぞ!春!ビールとスナズリ!』

3人とも喜んでくれた。

汀さんとはあの後から交流を持つようになった。

今の私には3人がいる、それに彼も汀さんもいる。

私メリー…今は居場所があるの♪

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