押し入れの襖が揺れても開けてはいけないよ

短編2
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押し入れの襖が揺れても開けてはいけないよ

 今夜は風が強い。

 外窓だけではなく、家の中のドアも音を立てて揺れている。

 家の中に風が入り込んでいるのだろう。

 たまに地震ではないかと勘違いして身構える。

 ◇

 遠くから雷鳴が聞こえ始めた。

 そのうちに土砂降りとなった。

 雷鳴が真上から聞こえるようになり、家の電気が消えた。

 カーテンが何度も青色が混じった銀色に染まった。

 ◇

 真っ暗の中で私は一人で春の嵐が過ぎ去るのを待った。

 轟く雷鳴、外壁にうちつける雨の音、青色が混じった銀色の閃光、音を立てて揺れる外窓と家の中のドア。

 ホラー映画なら殺人鬼か怨霊が現れるシーンなのだろうが、私以外の存在は見当たらない。

 この家の中には私一人しか存在しない。

 ◇

 そのうちに雷鳴が遠ざかっていった。

 カーテンを染める青色が混じった銀色が弱くなった。

 雨足も弱まったようだ。

 風がおさまり、外窓や家の中のドアが揺れなくなった。

 ◇

 しかし、電気が戻らない。

 真っ暗の中、私は渦中電灯を手に取り、押し入れの襖を照らした。

 押し入れの襖がカタカタと音を立てながら揺れていたからだ。

 しばらく様子を窺っていたが、揺れが収まらない。

 ◇

 私は真っ暗の中、襖の前に立った。

 襖の揺れが激しくなる。

 呼吸を整え、襖を開ける。

 押し入れの中で膝を抱えた複数の子供たちが私を見た。

 私はその子供たちに腕を掴まれ引きずられながら、押し入れの中を見渡した。

 貼っていたはずの御札がはがされていた。

 お経を唱えても、後の祭りだった。

 自分自身の不注意に後悔しても、娑婆に戻ることはないだろうと観念した。

 ◇

 暗闇の中で雷鳴が聞こえる。

 子どもたちと襖を揺らす。

 新しい住人が襖を開ける。

 私と子供たちは機を逃さず、表情が凍った住人の腕を掴んで引っ張った。

 ◇

 暗闇の中で雷鳴が聞こえる。

 子どもたちや元住人と襖を揺らす。

 新しい住人が襖を開けて……。(了)

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