中編5
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泣いた赤鬼

むかしむかしあるところに、心優しい赤鬼がおりました。

赤鬼は人間と仲良くしたかったので、山の中にある自分の家の前にたてがみをはりました。

『こころのやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。お茶もお菓子もございます。』

しかし、いつまでたっても人間は来ませんでした。

どうやら、鬼をこわがってだれも家にはいろうとしなかったようです。

「はあ、僕はただ人間と友達になりたいだけなのに」

赤鬼はいつも寂しそうにしておりました。

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そんなあるとき、友達の青鬼がやってきて赤鬼に言いました。

「そうだ。良いことを思いついたわい。これから、わしは人間の村に行って一暴れしてくる。

そこで赤鬼くん、君がわしをこらしめて追い払え。

きっとみんな、赤鬼くんと仲良くなりたくなるだろう。」

それを聞いた赤鬼は、

「そんなことしたら、青鬼くんがわるものになってしまうよ。それに、こんなやさしい青鬼くんをこらしめるなんて。」

「わしはいいんだ。それで赤鬼くんが人間と友達になれるなら。」

赤鬼はまよいましたが、その作戦にのることにしました。

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「ガオー!喰ってやるわい!」

青鬼は村の人をおいかけまわします。

「ひぃ、お、お助けを……」

「ええい待つんだ!」

そこには胸をはった赤鬼がどんとたっておりました。

「なんじゃ。邪魔者め!おまえも殴ってやるぞ!」

そして、鬼ふたりのたたかいが始まりました。

やがて、計画どおりに青鬼が

「これは敵わん。たすけてくれぇ!」

と、叫びながら村を去っていきました。

すると周りからたくさんの拍手!

村人は口をそろえて赤鬼にかんしゃしました。

「よっ!あんたは英雄だ!」

「あ、ありがとう!僕は山の中の小屋にすんでるんだ。いつでも遊びにおいでよ!」

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それから、赤鬼はみんなの人気者。毎日たくさんの人間のともだちがたずねてきます。

あるとき、そのなかのひとりが言いました。

「今夜は、わたしのうちに来ませんか?とっても豪華なお酒と料理がございます。」

「そんな、いいんですか?」

「もちろんでございます。あなたは村の英雄なのですから。

でもひとつだけ約束があります。いいですか、絶対に一人できてください。

そんなにたくさんの料理はありませんので。」

「もちろんです。それじゃあお邪魔させていただきます!」

赤鬼はとてもうれしそう。

人間たちが、なにやら深刻そうな顔で目配せしていることにも気がつきません。

「それではまた夜、お会いしましょう。いいですか。一人できてくださいね。あと、このことは他の誰にもないしょですよ。」

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さて、赤鬼はふたたび村にやってきました。

なにやらこどもが石を投げてきました。

「おいおい。危ないじゃないか。石を投げたらいけないよ。」

やさしく注意したつもりでしたが、走ってにげていってしまいました。

なにやら、村の人が何人かこちらをじっとにらんでいますが、

赤鬼は気づきませんでした。

そして、約束の家につきました。とてもとても広いです。

「やあやあ、おまちしておりました。ではこちらに。」

赤鬼は家に入って、言われるままにすわってまっておりました。

なにやら、奥から小声で話しているのが聞こえます。

「いいのか。」

「いいんだ、これは必要なことなんだよ。」

なんなんでしょうか。何か事件でもあったのでしょうか。

やがて、家の人がお酒をもって戻ってきました。

「やあやあ、お待たせいたしました。」

その顔は少しも笑っておりません。

「どうしたんです?そんな顔していてはお酒がおいしく無いですよ。」

「……

……

ここに来て、何か感じませんでしたか。」

「何か、ですか?」

「はあ、あなたは人の悪意に鈍感ですね。

とても騙されやすいお人だ。

はっきり言いましょう。ここの村人の半分は、あなたのことを恐れているか、嫌っております。」

赤鬼は少し動揺しました。

「そ、そうですか。でも、僕はあなた方のような友が少しでもいてくれれば」「黙って聞いていただきたい」

赤鬼の言葉が遮られます。

「あなたが優しい鬼なのは分かっております。

そして、以前から私達と仲良くしたかったことも分かりました。

それで、青鬼と作戦をたてたんですよね?」

「……ばれていたんですか。青鬼くんはとても優しくて」

「黙れ。」

「えっ?」

「……あなたが助けに来てくれた日はおかしかったんです。

死人も怪我人もいなかった。

だから、あとからその作戦に気付いたんですよ。

あなたはとても優しい。

きっと騙されやすいんでしょうな。

いいですか。

あれが最初じゃ無いんです。

アイツはっ……あの青鬼は、今までも何度もっ!

いつもなら、子供や家畜は殺され、娘たちは……」

「そんな、嘘です!」

「嘘なわけあるか!何人も殺されてるんだ!

……そうとう迷いました。きっと、この事は隠しておく方が正解なのかもしれない。

でも、私はあなたには真実を告げるべきだと思ったんです!

しかし青鬼にこの事がバレればどうなることか、だからあなたには誰にもないしょで来てもらったんです。

……この村には、家族を殺された人もたくさんいます。鬼を恨む人も山ほど。

あなたも危険かもしれない。」

「そんな、そんな」

ドンッ

家の壁を乱暴に叩く音が聞こえる。

そして、外から

「オイ!ここでかくまってんのは分かってんだぁ!

とっとと鬼を出せ!」

怒声が。

赤鬼はふらふらと立ち上がり、

「おい、待ってください!今行けば」

玄関に走り出した。

そしてそのまま扉を蹴破って一目散に駆け出した。

しかし、

「オイ!コラぁ!待てぇ!」

やはり追いかけて来るようだ。

その目には完全に狂気、殺意が宿っている。

きっとこの人は、家族を……

それでも赤鬼は、今聞いたことを完全には信じようとはしなかった。

「今すぐ確認しなければ。」

そう。赤鬼は青鬼の家に向かっているのだ。

ただ、最初の友達を信じるためだけに。

赤鬼は走って

走って

追っ手を撒き

走って

走って

ついには、青鬼の家についた。

何か扉に張り紙が張ってあるが、そんなの気にせず

バンッ

と、扉を乱暴にあける。

その途端、ひどい腐敗臭が体全体を覆う。

そこには壁一面に

逆さに吊るされた

大量の亡骸があった。

首が無いもの、四肢が無いもの、腹のふくれたもの、

そして

頭に角のあるもの、

見た瞬間、赤鬼の頭に激痛が走った。

後ろから鈍器で殴られたようだ。

ああ、もう目が閉じていく。

赤鬼は、最後、振り返ろうとしたが無理だった。

閉じられた目からは涙が一筋。

今となっては赤鬼を殺したものが、ナニだったかは分からない。

昔昔の話

Concrete
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