中編3
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ストーカー

幼い頃は、いわゆる霊感というものがありました。

しかしそれは年を重ねるごとになくなり、少し勘がいい程度になっていました。

なっていたはずでした。

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気がついたのは、春の終わりでしょうか。

仕事で帰りが遅くなり、終電を逃してしまったのです。

幸い歩いて帰ることができる距離だったので、歩いて帰ることにしました。

タクシーにしなかったのは給料日前で手持ちのお金があまりなかったからです。

家まで歩いて帰るのは高校以来で、なんだか楽しくなってきていました。

大通りからひとつ裏に入ったところにレストラン街があるのですが、そこの入り口付近にそれはいました。

気を抜いていたので、ただの見間違いだと思いました。

建物の影が人影に見えただけだと。

レストラン街の中ほどに来たとき、今度は前にいました。

どこかのお店が開いていたら気がまぎれたのに、あいにくお店は全部閉まっていたので、嫌でもそれに気がつきます。

見ないようにうつむきながら早歩きで大通りに出ました。

さすがに追ってこないのではないかと……

思ったのが間違いでした。

あまりの気持ち悪さにタクシーで帰ることにしましたが、運悪くタクシーがつかまりません。

止まっていたら近づいてくるようでひたすらに歩いていました。

いつもなら通る道を避けて、ひたすらに大通りに沿って自宅を目指しました。

その間もそれはついてきます。

音もなく、影に隠れるように、そっとついてくるのです。

耳元で心臓がバクバクといっていました。

早く家に着いてほしい一心で、歩きました。

自宅が見えたときはホッとしましたが、少し振り向いたときに見えたそれにまた恐怖心をあおられました。

急いで家に入りここでようやく一息つけました。

家の中を確認してそれが入ってきていないかを見て回ってから就寝しました。

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翌朝、姉が言いました。

「あんた、誰を連れてきたの?」

一瞬何のことを言っているのかわかりませんでしたが、すぐに昨夜のことに思い当たりました。

姉は霊感があり、普段から数珠やお守りを持っていないと憑かれてしまう人でした。

「もしかしたらね……」

昨夜のそれのことを話しました。

話し終わると姉は妙に納得した顔で、

「これもっといて」

と、私の数珠と、真新しいお守りを渡してきました。

姉の納得顔は腑に落ちませんでしたが、言われたとおりに数珠とお守りを持ち歩きました。

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月末ということもあり、連日で終電を逃しました。

しかし昨日のような思いはしたくありませんでしたので、タクシーで帰ることにしました。

あっさりとタクシーに乗り込み、自宅まで何事もなく着きました。

ドアの前で鍵を出そうとしていると、視線を感じました。

嫌な予感を覚えつつも後ろを振り返りました。

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「それ」がこちらを見ていました。

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真っ黒なのになぜかこちらを見ていることがわかりました。

震えながらも家に入り、リビングで数珠とお守りを握り締めて消えてくれるように祈りました。

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いつの間にか眠っていたようで、外が明るくなっていました。

「え……なにこれ……」

数珠の玉が飛び散っていました。

「おはよってうわぁ、あんたやらかしたね」

姉が起きてきました。

姉はぶつぶつ言いながら数珠玉を拾い出しました。

よくわからずに姉を見ていると、

「お守りちょうだい」

と私に手を出してきました。

そこでようやくお守りを握り締めたままなことに気がつきました。

姉にお守りを渡すと、おもむろに中身を取り出しました。

なんて罰当たりなと言おうと思ってやめました。

中の護符がボロボロになっていたのです。

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その日、姉とともに神社に行きお祓いをしてもらいました。

それはいったい何がしたかったのでしょうか。まったくわかりません。

また、それ以来、ふと気を抜いたときに「見える」ようになりました。

もう数珠とお守りが手放せません。

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