中編4
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コントラスト

行ってくるよ

父さんの呼びかけにも

母さんは眠っていた

夜勤の父さんがいないあの晩

僕と母さんのいたアパートは火事にみまわれた

隣の部屋からの出火だったらしい

消防士に助けられた母さんは僕がまだ救助されていないことに気がつき

制止を振り切って

アパートへ戻り

母さんは僕を見つけだし

抱えるようにしてなんとか

外へ出たという事だった

僕を連れ出してくれた母さんは

意識を失い

今、入院している

火事のショックが大きいようで

命に別状は無いとのことだったけど

朦朧としているのか

意識がはっきりしないことも多かった

うわ言で僕の名前を呼ぶことはあっても

僕の返事に反応してくれる事はなかった

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夏休みでもあり

僕はずっと母さんのそばにいた

窓の外に少し賑やかな放送が流れているのが聞こえてくる

毎年この時期に行われる夏祭りへの呼びかけだった

火事が起こる前には母さんに

一緒に行こう

と、言われたりもしたけど

もう小学校5年にもなる僕は

同じクラスのAとBと行くから

と、その誘いを断った

母さんは口をとがらせながら

縁日で食べるたこ焼きって美味しんだよな〜、あの匂いがなあ〜

と、残念そうに言っていた

父さんは?

と、僕が聞くと

祭りの日も夜勤で仕事は休めないとのことだった

僕は母さんの眠る顔を見て

申し訳ない気持ちでいっぱいだった

夏祭りくらい一緒に行こうって言ってたら

きっと、嬉しそうな笑顔を見せてくれたのかもしれない

早く元気になってほしい

そしたら

来年は一緒に行こうって…

僕はふと思った

夏祭りのたこ焼き、買ってきてあげよう

そう

食べられなくても

匂いだけでも

僕はポケットを探った

少し前に父さんが紙に包んだお小遣いをくれていた

幾らかわよくわからなかったけど

たこ焼きぐらいは買えるだろう

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僕は病院のバス停に行き時刻表を見た

僕の住んでいるこの町では1時間に一本あれば良い方だ

まだだいぶ時間がありそうだ…

と、一台のバスが来るのが見えた

夏祭りに合わせた臨時便かもしれない

僕はバスに乗り込んだ

車内を見ると乗客は僕一人で

僕を乗せるとバスは直ぐに出発した

何箇所かバス停も通過したけど

僕の他に乗って来る人はいなかった

1つのバス停に近づいた時

親子連れが待っているのが見えた

車内をなんとなく寂しく感じていた僕はほっとした

ところがバスは減速もせずにそのバス停を通り過ぎた

僕は運転手の方を見た

気がつかなかったのか…

それとも行き先が違うのか…

不安が募り、行き先を聞こうと思っていた矢先

バスは停車した

夏祭り会場のバス停だった

会場へ入ると

盆踊りのお囃子が聞こえてくる

不思議とそのお囃子は

どこかずっと遠くに聞こえるような気がした

しばらく縁日を巡り目当ての露店を探した

此処へくればAとBとも会えると思ったが姿は見当たらなかった

幾つか露店をひやかしたけど

去年とは店が違うのか

なんとなく古臭く感じるものが多かった

コトン…

何かが落ちたような音がした

振り向くと女の子が狐の面を持って立っている

どこかで見たような

そういえば

さっきバス停で待ってた親子連れの女の子だった

同じぐらいの学年だろうか

でもその子に見覚えは無かった

きょろきょろと辺りを見回し

不安そうにしていた女の子に

どうしたの?

と、僕は声をかけた

聞くと母親とはぐれてしまったらしい

1人にしておくのも可哀想なので一緒に探そう

と、言うと

嬉しそうに笑った

見かけないけど、どこの学校?

僕は歩きながら話しかけた

どうやら最近引っ越してきたばかりで

新学期から同じ学校に転校して来るようだった

学年も一緒ということが分かり

1学年一クラスしかない学校では

同じクラスということになる

そのあとは

学校の雰囲気、担任の先生の話などで盛り上がり

彼女ともすっかり解けた

それでも

なかなか彼女の母親が見つからなかった

喉が渇いたこともあったので

ラムネでも飲もうかと誘った

赤い提灯の下に冷えたラムネの瓶の並ぶ露店を見つけた

露店のおじさんは

いらっしゃい、と優しい声で言った

ラムネを2つと言うと

彼女は

わたしお金持ってないから、と

首を横に振った

僕は色が白く髪の長い彼女に

淡い好意を覚えていた

すこしカッコつけたくなった僕は

奢るよ

と、おじさんにポケット中のお金を渡した

おじさんは

お金を眺め

これはまだこんなところで使うもんじゃない、大事に持ってなさい

と、お金を僕に返した

次に

おじさんは

彼女の方を見て

お嬢ちゃん…

と、静かに言うと

彼女の持ってる狐の面を指差し

それは頭に乗せておくもんだ

と、諭すように言った

彼女は戸惑いながらも

はい

と、慌てるように面を頭に乗せた

おじさんはラムネの瓶を1つ僕に渡してくれた

僕は

2つだよ

と、彼女を指差したけど

指の先に彼女はいなかった

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夏休みも過ぎ

わたしは転校先での

初登校の日を迎えました

先生に紹介されながら

教室の中を見渡します

楽しみにしていたんです

夏祭りで不意にいなくなってしまった

あの男の子と会えるのを

でもその顔は見当たりませんでした

教室には

2つ空席がありました

わたしの席

それと

もう1つは

白い花の揺れる席でした

Concrete
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題名の通りに文も対照的に書いてあって、非常に引き込まれる文章ですね。学の無い私には少し理解するのが難しくて、コメント欄を見て初めて理解できました。独特の怖さがあり、非常に楽しめました。次の投稿も楽しみにしてます!

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