青薔薇古物店 「スマートフォン②」

中編4
  • 表示切替
  • 使い方

青薔薇古物店 「スマートフォン②」

「いわくつき…?」

微笑みながらも、しっかりとした口調で伝えてきた店主に僕はオウム返しで答えてしまっていた。

nextpage

「はい。こちらの端末は訳あって前所有者から、こちらの店で受け入れた代物です。」

「どんないわくが…?」

「それは前所有者の意向により、お答えすることはできません。」

淡々とした口調で返ってくる言葉。

僕はなぜかその「いわく」という未知の言葉の意味が知りたくなってしまった。

nextpage

「では、こちらはいくらで売っているんですか?」

「こちらは前所有者の希望により買い手の希望する価格にてお譲りしています。最悪500円でも良いとのことです。」

nextpage

僕はその値段に胸が躍った。

(一世代古いと言っても今のSIMカードもそのまま差せそうだし、何より安い…!)

nextpage

「あの、そのスマホを買い取りたいのですが…。」

「先ほども申しました通り、こちらは貴方にはオススメできません。

それでもご購入されたいとおっしゃるのならば、あるお約束をして頂けるというのなら止めは致しません。」

「約束ですか?」

nextpage

「はい。決してこちらの端末にSIMカードを挿入してはいけません。」

「………はい?」

「厳密に言いますと、通話機能・メール機能等通信料の発生する類の操作を行ってはいけません。それでもご購入されますか?」

nextpage

…それって、スマホとしてまったく使えないじゃないか!

「な、なんでですか?」

「それは前所有者の意向によりお答えすることができません。」

nextpage

まるで機械のような返答だ。

(…どうしてだろう。データがクラッシュするとか?でもそれなら商品としておかないよね…。)

僕はひとつの嘘をつくことに決めた。

nextpage

「わかりました。」

僕はポケットから自分のスマホを取り出す。

「僕のスマホが壊れてしまい、今日出席した講義で取り込んだデータがメモリーカードにあって、それは今夜中に仕上げなきゃいけないレポート用の資料なんです。

メモリーカードの中身だけを見たいのですが、僕は貧乏学生で家にはパソコンも持っていないんです。

来月のバイト代が入って、スマホを直したらまたここに持ってくるので、500円でレンタルということにしていただけませんか?」

nextpage

もちろんレポート用の資料データなんてない。

でも、携帯依存症の僕には来月まで使えないことの方が店主の言う「いわく」よりよっぽど怖かった。

nextpage

「…かしこまりました。」

店主は静かな足取りでカウンターを回り込むと、棚からスマホを取り出し、僕の前に差し出す。

「では、こちらの品を貴方に一時貸与することを許可致します。」

まるで何か宣言をするような言い方に仰々しさを感じたが、僕はそんなことよりも目の前のスマホを手に入れられることに安堵していた。

nextpage

「あ、ありがとうございます。」

「それにしても、学生さんだったのですね?雨で滑って転んでしまったのですか?」

店主を正面から見るとやはり綺麗に整った人で、僕はその人の澄んだ瞳を見つめ返すことが出来ずに財布から500円玉を取り出すことを理由に目をそらしながら返答する。

nextpage

「あ、いえ。雨はまだ降ってなかったのですが、階段で手から滑り落としてしまって…。」

「そうでしたか。ながらスマホはいけませんよ?」

「…き、気を付けます。」

「ふふふ。…はい、確かに500円お預かりしました。」

nextpage

所々の傷が目立つが使用にはなんの支障もなさそうだ。

僕はポケットに入れると、足早に出口へ向かった。

「店主さん、ありがとうございました!」

「雨、まだ止んでませんので、お気をつけて。」

nextpage

ドアをゆっくりと閉め、僕は傘をさす。

さっきまでは長く感じた残りの帰り道も、今ではなんとも思わない。

「さあ、早く帰って動作確認しようっと。」

僕は足早に傘の群れの中へと進んでいった。

nextpage

そして、店の窓から店主が見送ってることも僕はその時気づいていなかった。

nextpage

~~~

nextpage

「…。」

「どうしたの?珍しく外なんて見て。」

カウンターの後ろから店主に話しかける声に、店主は振り返る事無く答える。

「ええ、今しがたお客様が1人いらして。品をひとつ貸し出したんです。」

店主はまっすぐと外を見つめ、そして静かに笑った。

nextpage

「………今日、雨が降っていなかったのは午前の早い時間だけ。

彼がスマホを壊したのが朝だとするのなら、どうやって講義でデータを取り込んだのでしょうね…。ふふふ」

「何か気づいてたのに渡したのか…?

たまぁに意地悪いよな、――ちゃんは。」

店主の名は、通り過ぎたトラックの走行音でかき消された。

nextpage

③へつづく

Normal
閲覧数コメント怖い
7777
22
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

この店主様…さぞ美人なんでしょうね…
勝手にルックスの妄想をしてしまいました…

返信

鏡水花様がいらしてる?!
ご無沙汰しております。
仲良くもないのに数年前に馴れ馴れしくも投稿をしたものです。
まさか覚えていてくれた方がいたとは…(笑)
この物語の店主の元ネタとなった方は、確かにとても魅力的なのですがどこか自分には高嶺の花のように感じる住む世界の違う存在の方で
むしろ彼女と1番中のよかった猫?のアイコンの方に親近感をわいて友達になりたかったと思っていたのは内緒でお願いします(笑)
失踪しないように頑張ります!
鏡水花様ありがとうございます!

返信

ま、またもやお褒めの言葉…。
はと様感謝感激です!
アンチしか沸かないとばかり…ブチブチ
ありがとうございます!
今日は夜勤なので明日にでもあげようと前向きな姿勢で頑張ります(笑)
断言しないあたりがこしってる…

返信
表示
ネタバレ注意
返信

面白かったです。独特の雰囲気のあるお話ですね~。続きがとても気になってしまいます!
早く続きが読みたいです♪お待ちしていますね!

返信

おおお…
まさかコメントを誰かから頂けるとは思いませんでした(笑)
お褒めの言葉に感激です。
失踪しないよう頑張ります!キタち様ありがとうございます!

返信

いやぁ面白いですね~ 先が全く読めなくて物語に引き込まれてしまいました!
続きを心待ちしています。

返信