中編4
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入りたい

 

 これは、私がまだ就職して間もない頃の話。

私は幼いころから憧れていた、ブライダル専門の花屋の仕事に就く事ができ毎日仕事に追われていました。

 一見、華やかそうに見えますが始発で出勤して終電で帰ることが当たり前、更にひどい時は終電を逃してタクシーで帰ることもしばしばありました。

 そんなある日の夕暮れ時、会社が借りている倉庫まで資材を一人で取りに行くことになりました。

会社の所有する車で結構離れた貸倉庫まで行き、薄暗くなってきた空に焦りを感じながら

倉庫のシャッターを開け中の大量の荷物の中から目当てのものを探さないといけません。

ごそごそと埃まみれになりながら探していると

ふと入口の方から視線を感じ目をやると、女の人がぼーっと突っ立ってこちらを覗いていました。

予想もしていなかったので一瞬心臓が跳ねました。

幽霊さながらの白い服・・・ではなく、真っ赤なダッフルコートのようなものを着て、

足元は素足に靴。

黒くて長い髪も靴もボロボロ、踵で靴を踏み潰すような履き方をしていました。

もう5月なのにダッフルコート?と思いつつ

もしかして、倉庫の前に停めた車がほかの倉庫を塞いでしまったかなと思い

荷物をかき分けつつ入口まで戻りながら

「すみません、車邪魔になってました?」

と外に出て、表を確認してみると特に邪魔になるような位置に車は停めてありませんでした。

じゃあ、この人は何で覗き込んでいたんだ。

その女の人に目を向けると、ニヤニヤと無言でこちらを見ています。

その笑った口は、歯並びが悪くボロボロで黄ばんでいて

かなり気味悪く思いながらも、職業病で顔には出さず

「??えっと・・・?」

と向こうの意図を知りたく、表情は優しく

言葉を促しました。

すると

「入りたいなー・・・。」

と更にニヤニヤしながら女の人が言葉を発しました。

私の目をじっと見てはいるのですが、私に話しかけたと言うよりも

独り言で呟いているような違和感のある喋り方。

「…はい?」

wallpaper:532

「入りたいなー。入りたいなー。」

ずっと”入りたい”をうわ言のように言ってくるのですが、会社が契約している倉庫なので

入ってもらっては困ります。

失礼ではありますが、少し精神を病んでしまっている方なのかな・・・と思いつつ

「この中ですか?すみません、こちらは会社の人間しか入れないので・・・申し訳ないです・・・」

とやんわりと断りつつ、中に戻ろうと背中を向けた瞬間_

shake

物凄い力で腕を掴まれ

「入りたい!入りたい!お前に入りたい!!お前が良い!!!!入らせろぉぉぉ!!」

と物凄い形相で私の両肩に手をやり掴み掛ってきました。

生きている人間では無い  

と直感的に思いました。

恐ろしすぎて、声を出したいのに上手く出ない。

全身金縛りのように硬直したまま揺さぶられている状態。

怖さのあまり、涙が溢れてきます。

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―ピリリリリリリリリ―

ポケットに入っていた携帯電話が急にけたたましく鳴り、ハッと我に返った瞬間

全身が脱力し、その場に崩れ落ちました。

もう目の前にはあの赤い女の人は居ません。

震える手で携帯電話を手に取り、応答しようにも上手く操作ができず

放心状態でした。

ひと呼吸置いてから折り返し電話を掛け直すと、上司(女性)からで

あまりにも時間がかかっている為心配して電話をしてきたとの事でした。

作業場まで戻り、一通り事情を説明しましたがみんな半信半疑。

信じてもらえるような話ではありませんが、その日は疲れているんだろうと

いつもより早く帰らせてもらいました。

後日、幼馴染のお母さんが霊感があるのを思い出し

幼馴染の家にお邪魔する事になりました。

あの時の事を思い出そうとすればする程、日はそんなに空いていないのに

どんな状況だったか、あまりの恐怖で思い出しにくくなっており

説明するのに手こずりました。

振り乱れた黒髪、赤いダッフルコート、黄ばんでボロボロの歯、

そして嫌なあのニヤニヤした顔だけは鮮明に覚えています。

幼馴染のお母さん曰く、

私自身の守護霊(ご先祖様らしい)が強く、普段は幽霊などと関わる事が全く無いが、連日の残業の疲れで心身共に弱っている隙を狙って入り込もうとしたのではないか

と教えてくれました。

ただ、嫌な念がまだ私から感じるらしく

「これ...まだ諦めてないよ」

と言われました。

お祓いに行く時間も、お金も無いため

ずっと先延ばしにしています。

気になるのは、たまに悪夢を見るのですが

あの赤い女性が必ず

「見つけた!見つけた!見つけた!キャハハハ!!!

入りたい入りたい入りたい入りたい!!」

と笑って追いかけてきます・・・・。

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コメントありがとうございます。
こういった物語を初めて書いたので
下手な文ですが少しでも怖いと感じて頂けてとても嬉しいです!

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