中編3
  • 表示切替
  • 使い方

宗教の女がいちばんいい

 子どもたちは無知だ、そして無邪気だ。

 毎年、合宿は神社でやってた。最後の日は神主の祈祷があるんだけど、真面目に受けてる奴なんていなかった。隣の奴がコガネムシを神主の後頭部に投げつけた。見事にクリーンヒットして、流石にみんな耐えきれず大爆笑が起こった。神主が無反応だったから余計に面白くって、みんな笑っちゃってた。先生は怒った、めっちゃ怒った、両隣の笑ってるやつらを張り倒して、それ見て笑ってたのは俺だけだった。

 話しは変わるけど、その頃、クラスに宗教の女って呼ばれてるやつがいて、その子はことあるごとにいちいち、なんとか様、なんとか様って言うんだ。そん時はキモいなあぐらいに思ってただけなんだけど、高校出た後、家庭がぶっ壊れて急にその子と話したくなって連絡して。

 相変わらず、なんとか様、なんとか様って言ってて、でもその子性格の悪い子じゃなかったし、顔も可愛かったから、俺の方から告白して俺たちは付き合うことになって、付き合ってる間もずっとその子なんとか様、なんとか様って言ってた。

 結局、借金やら浮気やら俺のだらしない部分が原因で二年ぐらいで別れて、そんで次の年、急にその子は死んじゃった。

その子のこと、ふとした時によく考えてるんだ。

 俺は当時、薬とかやってて、記憶が断片的になってて、思い出せること思い出せないことがあって。もらいものを静脈に打って、だらあっとなってるところにその子が帰ってきて、俺を見るなり、なんとか様、なんとか様ってまた言うもんだから、なんも考えずその子の髪をわしづかみにして、ベランダに一晩中ほっぽり出したり。それでもその子やめないんだ、ずーっと、なんとか様、なんとか様。

 実を言うと、その子が死んだのはつい最近のことなんだ。だからこれを書こうってわけじゃないけど。俺は葬式には出なかった、洒落た喪服を持ってなかったし。

 葬式のあと、電話で同級生から呼ばれて行ったら、懐かしい奴らが何人かいて、みんなで死んだ女を偲びながら安くて不味い酒飲んでさ。けどおかしいんだ、話題の端っこにも、誰の口からも出ない。なんとか様が出てこない。あいつと言えばそれしかないのに、誰もそれを話さない。俺はどうなってんだと思い、下品だって思いながら切り出した。

あいつんち宗教やってたよなあ、葬式はどうだったん?

(宗教?はあ?普通の葬式だよ。あの子の家、宗教なんてやってたん?お前、急にどうしたよ)

下品な顔で俺はさらに続けた。

お前らもあいつのこと、宗教の女って呼んでただろう。

 誰も何も答えなかった。みんな静かになって、嫌な目で俺を見てきた。誰かが俺の頭をはたいて、俺はそいつの頭をテーブルに押しつけて店を出た。翌日、当時の同級生何人かに電話を入れたけど、誰もあの女を宗教の女と思っていなかった。

 なんとか様、なんとか様、確かに何度も聞いたはずなのになあ。

そんな馬鹿な話ないよなあ。

Concrete
閲覧数コメント怖い
1,0493
5
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ

ラジオバラード様、小夜子様
コメントありがとうございます。
どっか、ふらふら
今夜も遊びに行ってきます。

表示
ネタバレ注意

僕は、すっごい好き。誰が何と言っても(笑)。