中編2
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夜明けの実験準備室

 ガキのでたらめな怪物が窓を叩くと、その度に予言めいた心はがくがくと揺れる。静寂なんてどこにもないさ。

 おまえは震えながら理科室の隣の小部屋で夜明けを待っている。暗闇に落ちてしまった太陽の最後の一言の終わり無きリフレイン、太陽の強い鼓動が全身に残響し続ける。おまえの沸騰した脳にざらついた舌を這わせている化け物に、おまえは抗うことさえ出来ず、錯乱を幾度となく繰り返している。

 なあ、昔のことを覚えているか。

 おまえはこの薄汚い実験準備室でビーカーに注がれた不良たちのしょんべんを飲まされた。忘れたくとも忘れられないよなあ。最後は直に頭にかけられてよ。しょんべんをぶちまいていった奴ら、あいつらが何を思ってやったのか俺は知ってるぜ。おい、暗いの、おまえは黙ったまんまうつむいて、びしょぬれでよお。

 そしてあの時、おまえは思い知っただろう。一事象ずつ、ひとつずつ、一人一人、あらゆるものが、この世のすべてに対して影響していること。そうして或るものたちの存在、そのすべてがどんなに潔いものであるかを。

 さあ、殺れ。

 おまえの目の前で昏睡している少女におまえが理りを教えてやれ。彼女こそ、しょんべんにまみれたおまえを扉の隙間から見ていた女教師の、その娘だ。なあ、おまえの視界はあの時からモヤがかかったままだろう。今だ、今こそ、そのモヤをかきわけ、光を解き放て。

 解剖台、ビーカー、スポイト、豆電球、乾電池、劇薬、溶液、月明かり、アルコールランプ、窓を鳴らす一陣の風の音、メスシリンダー、壁についたシミ、人体模型、水槽、フラスコ、赤と黒の導線、ピンセット、眠る少女。知らぬ間などありゃしない潔白な世界に祝杯を。さあさっさと、スイッチを!オン!

 太陽は鈍感なおまえに飽き飽きして、目を閉じていたが、これからは永遠におまえを見放したりしない。おまえはもう夜に凍え震えることはない。

 おまえの前に転がっている肉塊、その人生、その親、兄妹、教師、友人、いかなるものたちもみな因果で結ばれ、いずれ必ず悪夢や夢想によって引き裂かれていく。おまえは回帰という必然的な死への案内人の役割を果たした。

 おまえと少女は再び出会うだろう。そうして月の墓前に向かって水平線の彼方から昇って来る太陽を、今度は俺も一緒に三人で眺めながら、真っ白な光が燦然と降り続ける世界を迎えるための、とびきりの大計画を立てよう。

Concrete
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ラジオバラード様
コメントありがとうございます。
読んで頂けること、ありがたく思っております。

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何か怖いよ…いろんな意味で。僕ごときが批評できるレベルじゃないのかも。

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